政治不安を背景にした「円売り」で底堅く推移した先週の米ドル/円。一方で堅調な株高が円売りの勢いを限定するとの見方もありますが、今週は市場がどちらを強く意識する展開となるのでしょうか。FOMCなど重要イベントも控える今週の相場について、マネックス証券チーフFXコンサルタント・吉田恒氏が予想します。

7月29日~8月4日の「FX投資戦略」ポイント

<ポイント>

参院選終了後の米ドル/円は円買い戻しが先行したが、週後半は徐々に円売りが再燃した。146円程度のテクニカルに重要な水準がサポートされたことで、日本の政治の先行き不透明などを手掛かりとした根強い円売りが続いたといった構図か。

・ただ日米関税交渉合意などを受けて日本株が大きく上昇するなかでは、政治不安や日本の財政赤字拡大を理由とした円売り継続にも限りがありそう。

・今週は日米の金融政策などをにらみ、米ドル/円の予想レンジは146151円で想定。

先週の米ドル/円…参院選後は円買い戻し先行→徐々に円売り再燃

円買い戻し先行も、テクニカルに重要な146円はサポート

先週は、20日に行われた日本の参院選で連立与党が過半数割れとなったことを受けて始まりました。前週に一時149円まで下落していた円は買い戻され、一時146円を割るまで米ドル安・円高が進行しました(図表1参照)。ただその後は徐々に円売りが再燃し、148円近くまで米ドル高・円安へ戻りました。

参院選にかけて大きく米ドル高・円安が広がった要因としては、それまで2ヵ月以上と長く続いた142146円のコアレンジを米ドルが「上放れ」というテクニカルな影響があったと思います(図表2参照)。そういったなかで、日本の政治不安が円売りの主要な口実になったと見られます。

日本の政治の先行き不透明な状況は続く

今回の参院選挙では、事前から連立与党の過半数割れが予想されており、石破総理の退陣も視野に入っていました。衆参両院で与党が過半数割れとなった場合、次期総理は与野党の協力が不可欠になります。参院選で多くの野党が主張した消費税減税が焦点になることからすんなり与野党協力が成立するかは微妙で、その結果、「総理大臣不在」が長引く懸念すらあったわけです。

ところが、参院選終了直後に石破総理が続投を表明したことで、こういった「政治的カオス(混沌)」のシナリオはいったん後退し、それにより円買い戻しが先行したということではないでしょうか。

ただそういった円買い戻しでも、長く続いたコアレンジの上限、146円以下に再び戻るまでには至りませんでした。そういったなかで、石破総理の続投を巡って自民党内から退陣圧力が強く先行き不透明な状況が続いていることから円売りが再燃した、そういったことが先週の米ドル/円の基本ストーリーだったのではないでしょうか。

今週の注目点…日米の金融政策発表、米雇用統計発表など注目材料目白押し

日米とも金融政策の変更はなし?

今週は水曜日にFOMC(米連邦公開市場委員会)、そして木曜日は日銀の金融政策決定会合が予定されています。どちらも金融政策の変更は予想されていません。ただFOMCについては、トランプ大統領による執拗な利下げ要求が続いていることから、政策金利据え置きを決めた場合でも、一部のメンバーから利下げへの支持が出るなど、FOMC内の分裂が再確認される可能性はありそうです。

また日銀についても、日米の関税交渉合意により先行きの不確実性が低下したとして、利上げが再開できるようになったと見られています。さすがに今回の利上げという予想はほとんどなさそうですが、早期の利上げ再開について日銀がどのように情報発信するかは注目されるところでしょう。

その他、米経済指標発表も注目度の高いものが続きます。米第2四半期GDP・速報値は、第1四半期のマイナス成長から2.5%のプラス成長に回復するとの予想になっています。また金曜日には早速、米7月雇用統計が発表されます。6月の結果はNFP(非農業部門雇用者数)、失業率とも予想外に強いものとなり、それからは少し減速するとの予想になっていますが、利下げ再開を示唆するほどの急激な悪化は今のところ想定されていないようです。

米ドル/円は金利差より日本の金利と連動

さて最近の米ドル/円は日米の金利差(米ドル優位・円劣位)で説明しにくい状況が続いています(図表3参照)。むしろ米ドル/円は、金利差よりも日本の長期金利が比較的うまく説明できる可能性があります(図表4参照)。その意味では、日本の政治的混乱が消費税減税など財政赤字拡大をもたらす可能性があることから、「債券価格下落(債券利回り上昇)=円売り」が1つのテーマになっていくのではないかと考えられます。

ただ日本の財政赤字の拡大を心配することによる円売りは、基本的に日本からの資金流出懸念を伴うものでしょうから、本来なら株安も起こるところでしょう。ところがその株価は、先週は日米関税交渉の合意などを受けて急騰しました。その意味では、日本の株高が続くなかで、政治不安や財政赤字拡大懸念を理由とした円売りにはおのずと限界があるのではないでしょうか。

ヘッジFの円売りは先週一段落=トランプ政権の通貨政策と連携?

もう1つ注目されたのが、ヘッジファンド(以下ヘッジF)の取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションが、先週はこのところ続いていた買い越し(米ドル売り越し)の縮小が止まったことです。ヘッジFの円買いポジションの縮小(円売り)には、円安が続くなかでの損益分岐点割れに伴う損失拡大の懸念があると考えられましたが、それが先週一段落したのはなぜでしょうか。

ヘッジFの取引には、トランプ政権の通貨政策が強く影響している可能性がありました。その意味では、先週ヘッジFが円売りを一段落したのは、150円の大台が迫るなかで円安を容認しないトランプ政権の考え方に連携した可能性もあったのではないでしょうか。

今週の米ドル/円予想レンジは146151

米ドル/円は、先週確認したように146円を大きく割れない限り、米ドル買い・円売りの根強い状況は続く可能性があるでしょう。ただこれまで見てきたように、日本の政治不安や財政赤字拡大の懸念を理由とした円売り継続にもおのずと限界がありそうだということ、またトランプ政権の通貨政策などから、ヘッジFが大量の円買いポジションの手じまいで円売り拡大に動く可能性が低そうだといった理由などから、米ドル高・円安の拡大余地も限られるのではないでしょうか。

今週は日米の金融政策などを材料に荒い値動きになる可能性はありますが、以上のようなことを踏まえると、米ドル/円は146151円のレンジで想定したいと思います。

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタントマネックス・ユニバーシティFX学長

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