接客業やサービス業の現場でたびたび起こるお客さんとのトラブル。パチンコ店も例外ではなく、むしろ勝ち負けやお金が絡んでいることもあり、派手にエスカレートすることも多いだろう。

 最近では、カスタマーハラスメント防止条例を制定している都道府県もあるが、パチンコ店での現状はどうなっているのだろうか。

 そこで、関東近郊で10店舗以上展開しているチェーン店で店長を務めるS氏にお話を伺ってみた。

◆自分に都合の悪いルールにクレーム

 どんな商売においても「常連さん」は非常にありがたい存在であるが、常連だからといって何をやってもいいワケではない。S氏が今のお店に赴任してきたとき、スタッフも手を焼く厄介な常連さんが一人いたという。

「他の常連さんやスタッフに幅を利かせて、いつも我が物顔でやりたい放題。『今はこの機種に設定を入れなきゃダメだろ!』と、パチスロの設定にも口を出してきたりしていました。しばらくして、自分が店長になった際に、『新しい店長、俺に挨拶にこねーな』と言っていたそうです」

 その後、その常連は開店時の入場ルールに関して文句をつけてきたのだが、その理由は実に自分本位なものであった。

「ウチのお店は、開店時の入場は抽選ではなく並び順にしていました。それは、自分が店長になってからも変えていません。その後、いろいろと新たなイベントを始めたら、それなりに新規のお客さんが朝から来てくれるようになったんです。そしたら、その常連が『朝は抽選にしろ!』と言い出しました。それまで朝から来るお客さんは全員顔見知りで、融通を利かせてもらえるから、早くから並ばなくても好きな台を打てたのに、知らない客が増えてそれができなくなったと……」

◆本社公認のうえで出禁へと動き出す

 そんな自分勝手なことは受け入れられないので、当然その要望を突っぱねたS氏。すると本社にクレームを入れられ、担当者から怒られてしまったという。

 だからといって、ルールを変更するつもりはなく困っていたところ、ちょっとした転機が訪れたのである。

「ある日、本社がおこなう店内のパワハラ・セクハラ調査がありまして、そのときに、その常連が一人のスタッフに詰め寄っていたのを本社の人がたまたま目撃したんです。『あの客は何なんだ?』と聞いてきたので、それまでの話をすると『それは排除しないとね』と言ってくれました。そのとき、スタッフに詰め寄っていた理由が『前の店長は高設定が入ってる機種をお客さんに漏らしていたらしいから、俺にも教えろ』と迫っていたようで。どうやら、前の店長はその常連の言うことを割と聞いていたっぽいんですよ。もしかしたら脅されていたのかもしれませんが……」

警察官立ち合いの下で完璧な出禁通告

 そもそも、前の店長が設定情報を漏らしていたというのは噂レベルで、カマをかけて設定を聞き出そうとしているだけかもしれない。ただ、設定漏洩が事実だとしたらこちらにも非があるし、この件で出禁にするには少々決定打に欠ける。

「そのときの件で出禁にするにはちょっと弱いし、対応したスタッフが逆恨みされて危険が及ぶかもしれないと思ったので別の方法を考えました。実は、その常連は以前から閉店後もウチの駐車場に車を停めたままどこかに行くことがありまして……。防犯上の問題もあるし、明らかに不法駐車だから何度も注意していたのですが、まったくヤメなかったので『今度停めたら出禁にしますよ』と宣言しました。でも、しばらくしたら再び停めていたので、証拠としてしっかりと写真を撮り、次に来店した日に出禁を通告したんです」

 その際、絶対に揉めると思ったS氏は、その常連が来店したのを確認した直後に警察に連絡していたのだ。

「当然のごとく、『俺は停めていない!』『証拠の写真を見せろ!』とイチャモンをつけてきました。揉め始めてから警察に連絡すると、通報したスタッフがそいつのターゲットになると思ったので、話をする前に警察に連絡をしておいたんです。それで『なにかの揉め事で騒いでる人がいるという通報を受けたので来ました』という流れにしてもらって、警察立ち合いの下、完膚なきまでに出禁にしてやりましたよ(笑)」

◆迷惑客を大人しくさせる方法

 そんな理不尽な迷惑客とトラブルになったとき、必ずおこなっていることがあるとS氏は語る。それをするだけで、相手が冷静になり大人しくなることも多いそうだ。

「こちらに非の無いクレームをつけられたときは必ず録音していますね。『これ録音してますので言動に気を付けた方がいいですが、大丈夫ですか?』と伝えると、大人しくなることが多いですよ。防犯カメラもあるけど、『仮に撮っていたとしても映像だけだから手を出さなければ大丈夫』と思っているんでしょうね」

◆よくあるトイレでの嫌がらせ

 さらに、お客さんによっては負けた腹いせでスタッフではなく物に当たる人もいる。特に防犯カメラがないトイレ内での嫌がらせが多いのは今も昔も変わらないだろう。

「ウチもそうですが、最近はトイレの入り口に防犯カメラを設置しているところが増えてきました。昔から受け継がれている伝統的な嫌がらせとして、トイレットペーパー1本をそのまま便器に突っ込むってのがありまして……。先日、さらにその上に大便をする輩も出てきたので『入室記録を撮って場合によっては警察に提出します』という注意書きを貼ったら、トイレットペーパー泥棒も嫌がらせもかなり減りました」

◆迷惑客は減らなくても条例は必要

カスハラ」という言葉が一般的になった昨今。多少なりともお客さんの意識が変わり、結果として迷惑客が減ってきたりはしていないのだろうか。

「迷惑客の数は昔から変わってないですね。そもそもカスハラをするような人は、あくまでも自分の権利を主張しているだけでカスハラ行為だと思っていない。スタッフを長時間拘束するだけでもカスハラにあたることを知らないんですよ。店内にも啓発のポスターは貼っているのですが、『こういうヤバイ奴、たまにいるよね』と、自分がそのヤバイ奴だって全く気づいていないので(笑)」

 迷惑客の数が減っていないのであれば、カスタマーハラスメント防止条例はあまり効果がないのかと思いきや、スタッフ側からするとその存在はありがたいという。

「迷惑客の数は減っていないですが、カスハラの存在によってスタッフは多少なりとも気が楽になっていると思いますよ。今までは、お客さんに嫌がらせされても、なかなか言い出せず自分の中だけに留めてストレスを感じていたのが、『これってカスハラじゃないですか?』と上司に相談できて、あまりにも酷いようだったら対策を考えようという話になるので」

◆自分の行動がカスハラ行為になっている可能性も…

 S氏曰く、大半のお客さんはまともな人で、クレームや言いがかりをつけるのはごく一部の特定の人。そのほとんどが自己中心的な人で、自分のことしか考えられないからこそ、自分の行動がカスハラ行為に当たっていることに気づかないという。

 もしかしたら、あなたの行動も自分では気づかないうちにカスハラ客として認識されているかもしれない……。

取材・文/サ行桜井

【サ行桜井】
パチンコ雑誌『パチンコ必勝ガイド』『パチンコオリジナル実戦術』の元編集者。四半世紀ほど勤めた会社を退社しフリーランスに。現在は主にパチンコや競輪の記事を執筆している。

画像はイメージです  ※画像生成にAIを利用しています