
労災で亡くなった人の配偶者に支給される労災保険の「遺族補償年金」について、女性は年齢に関係なく受給できる一方、男性には「妻の死亡時に55歳以上である」などの要件が課されているのは違憲だとして、岩手県在住の自営業の男性(59歳)が7月29日、国を相手取った裁判を仙台地裁に起こした。
男性の妻(当時45歳)は2020年9月、労災によって死亡した。しかし、男性が当時54歳で、年齢要件を満たしていなかったことから、遺族補償年金の受給が認められなかった。
●妻と夫で2000万円の「格差」訴状などによると、亡くなった妻は介護事業所に勤務していたが、職場での人間関係などについて不安をうったえるようになった。その後、解雇通知を受け取ったことが引き金となり、抑うつ症状が悪化して自死に至ったという。
妻の死後、男性は家事や育児の負担が増えて、自身の仕事を減らした結果、世帯年収は7割減少し、生活が苦しくなったという。
女性の死亡は業務が原因だとして「労災」が認められたが、男性が2024年11月、遺族補償年金を申請したところ、一関労働基準監督署長は要件を満たしていないとして不支給を決定した。
男性は不服として、この処分の取り消しを求めて提訴した。遺族補償年金の受給資格を制限する労災保険法のルールは、法の下の平等を定めた憲法に違反すると主張している。
弁護団によると、夫が亡くなった場合、女性が毎年支給される遺族補償年金は約2700万円だが、原告男性のケースでは一時金約600万円を足したとしても、2000万円ほどの支給額の差が生まれるという(遺族の配偶者が82歳で死亡したと仮定して試算)。
●東京の訴訟を傍聴し、提訴決意提訴後、原告の男性と弁護団は東京・霞が関の厚労省で記者会見を開いた。
男性によると、妻はスキルアップのために転職した事業所で、上司に叱責されるなど職場のトラブルが重なり、うつ病と診断された。
本人は仕事への復帰を望んでいたものの、解雇通知を受けて、その直後に「かいこだって。立ち直れない言葉」と日記に書き残し、自宅で自死したという。
男性は会見で「妻との協力がなければ、3人の子どもを育てることは、経済的にも体力的にも精神的にも不可能でした」と振り返った。
遺族補償年金で男性の受給資格が制限される問題をめぐっては、同様に年齢の要件で不支給となった別の男性が2024年4月に東京地裁に提訴している。
原告の男性は、自分と同じような境遇にある人が東京地裁で裁判をおこなっていることを知り、傍聴したことをきっかけに今回の提訴を決意したという。
「我が家では、私と妻が共同で収入を得て、共同で家事や育児をしてきました。そのため、妻が亡くなった場合でも、仮に夫である私が亡くなった場合でも、遺された家族への経済的打撃は同じくらい大きいものです。
そして、現在、我が家と同じように共働きで平等に家事分担する家庭はますます増えていると思います。それにもかかわらず、妻と夫で国から給付される内容が大きく異なるのはおかしいと思います」
●弁護団「違憲状態が続いている」原告の弁護団によると、今回の仙台地裁での提訴に続き、8月には大津地裁でも同様の訴訟を提起する予定だという。
弁護団の川人博弁護士は、会見で「この制度についてはずっと違憲状態が続いています。理不尽な形でご遺族が苦しい経済生活を強いられています。我々としては、この制度の根本的な問題にメスを入れて、ご遺族の救済がおこなわれるよう、進めていきたいと考えています」と話した。
弁護団によると、現在、厚労省の有識者検討会で、夫側の年齢要件を廃止する方向で議論が進められているが、仮に法改正が実現しても、その成立以前にさかのぼって適用されるかは不透明だという。

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