
■予想よりもずっと多い14議席を獲得
選挙の結果に、驚きと同時にショックを受ける人が多かったことだろう。第27回参議院議員選挙で、もっとも多くの話題を集めたのは、間違いなく参政党だった。当初6議席ほどの予測から、終わってみれば14議席(比例7議席)を獲得。複数区の茨城、埼玉、神奈川、愛知、大阪、福岡で当選者を出し、東京では無名だった新人・さや(選挙後に、塩入清香という実名を発表)候補が66万8568票を得てなんと2位での当選を果たした。
さまざまな批判が相次いだので、ご承知の方も多いと思うが、参政党はこれまで数多くのデマや陰謀論を流してきた。この際はっきり言おう。参政党は「要件を満たしているから国政政党として扱わなければいけなくなってしまったトンデモ集団」である。怒る人もいるかもしれないが、私個人はそう断言する。
彼らはコロナワクチンを「殺人兵器」と表現し、がんは「戦後にできた病気」と言い、「発達障害は存在しない」と言い、「日本は農薬が世界一使われている」と言い、「お好み焼きやケーキなど粉もんは枯葉剤食べてるのと同じ」「メロンパンを食ったら死ぬ」と言い、自然農法だとしてジャンボタニシを田んぼに撒き、波動を転写したとかいう米を買える権利を党員が高額販売し、専門家に「まるで怪文書」と言われる憲法草案を出し、批判する者を「非国民」と呼び、「核武装が安上がり」と言い、「皆さんのお母さんにしてください」と叫び……。思いつくまま書き連ねるだけでも、ずっとこんな調子。そんな集団がなぜか、義務教育が行き届いているはずのこの日本で広く受け入れられてしまった。
■この参院選で変わった支持者の顔ぶれ
では、誰がこんな党を支持したのか。データ分析は専門家に任せるとして、参政党が初めて国政政党になった2022年からの支持者層の変遷を見たまま記したい。
私は、22年から何度も党主催の演説会やイベント、政治資金パーティーなどに自腹で参加し、そのたびに詳報してきた。当初、現場で見た党の支持者といえば、だいぶ思想が右に偏っていて、ネット上の真偽不明の話を鵜呑みにしがちだけれど、優しそうな中高年や高齢者が大半だった。
神谷宗幣代表やゲスト講師が語る「世界の真実」や「戦後日本の問題点」などに深く頷きながら、「理想とする日本の姿」に目をキラキラさせ、「ワクチン接種推進」に怒り、時には特攻隊の映像に号泣し、日本国旗とオレンジ色の旗を振っていた。いわば「ネットで目覚めた中高年」。若い人は多くなかったが、たまに子連れのお母さんがいたりもした。
その顔ぶれが大きく変わったのは、実はこの参院選からだ。参政党は「日本人ファースト」をキャッチフレーズにして、積極財政を打ち出した。それらが現状に不満を持つ人達、そして自民党に投票したくない方々には刺さったのだろう。それまではオレンジ色を誇らしげに身にまとった穏やかな中高年・高齢者ばかりだったのに、初めて街頭演説に訪れたような比較的若い人も増え、気がつけばスタッフを巻き込んだ小競り合いなどが何度も繰り広げられるようになっていた。
■参政党への批判的投稿への対応にも変化が
7月19日、東京・芝公園でのマイク納めには党発表で2万人が集まった(実際には、あの場所にそんな人数は入らない)が、「日本人ファースト」による差別助長に抗議のプラカードを出す人達に対し、ちょっかいを出す参政党支持者も多かった。「刺激しないで」との党スタッフの制止も無視されがちだった。
支持層の性質の変化が、もっとも分かりやすかったのはSNSのX(エックス)の投稿だ。参政党を批判する投稿に対し、「じゃあどこを支持するか言ってみて」「あなたはどこの国の人?」「そんなに言うなら参政党に投票するね(絵文字)」というような、挑発的だったり、皮肉を込めたりするようなリプライが数えきれないほど付いた。
もともとの支持者は、こうした行動は滅多にしなかった。なぜなら批判者を刺激したせいでダメージを食らうことになった苦い過去があるからだ。国政政党になった22年の夏以降、「アンチは議論しに来い」と神谷氏らが動画で煽ったせいで、演説の妨害が相次いだ。それは24年につばさの党が他陣営の演説を妨害して逮捕されるまで延々と続いた。
■参政党のアンチ対策は「反応しない」
そうして批判を受け続ける過程で、参政党はアンチ対策として「反応するな」「無視しろ」という指令を出すようになり、少なくとも今回の参院選前までは街頭演説でもX上でも徹底されていた。表向きは「参政党には、そんなものを相手にしている暇はない」みたいなプライドを感じさせる理屈だったはずだ(先に挑発したのは自分らだが)。
だから、どんなに党に批判的な投稿があっても仕返しのようなリプライはごくわずかで、せいぜい仲間内でアンチの悪口を言って傷を舐め合うぐらいだった。このほどの批判投稿への反撃リプライの急増は、スルー指令を見ていない党員以外が支持者として流れ込んできた証左である。
そしてそれらは「今回は参政党にしよう」程度の人が大半で、加えて勢いを察知して集まった「勝ち馬に乗りたいネトウヨ的な、あるいは反左翼的な人達」も混在していると私は見た。前者は自分が投票先に選んだ党を貶されていい気はしないだろうし、後者はもともと好戦的である。
■ご新規さんを大量獲得できた理由とは
参政党が、ご新規さんを大量獲得した要因は何だろうか。まずは強みであったネット戦略がハマったことが大きいと思う。参院選に入る前から、参政党はネット広告やショート動画の拡散に力を入れていた。22年参院選の頃から動画配信者に自分達の演説などを好きなように撮らせて拡散させてきたから、こうした売り込み方は他党よりも長けている。
動画サイトで「参政党」と検索すれば、「この演説がすごい!」のような肯定的なものばかりが出るようになっている。神谷代表が熱く叫び、所属議員が国会質問で一喝するようなシーンなど、切り抜きが拡散されていた。
こうした動画の検索にブーストがかかったのは、選挙直前での梅村みずほ氏(日本維新の会を離党)の加入がきっかけだった。所属国会議員が5人になり、テレビの党首討論などに呼ばれるようになったため、一気に露出が増えたのだ。
■「投票してみよう」の要素が揃っていた
「日本をなめるな」「日本人ファースト」は、「今までが間違っていた」というニュアンスを含んでいて、現状を打破したい人にとっては後押しに感じたのだろう。
参政党は、日頃の不満を政治にぶつけたい人、閉塞感を感じている人、将来を不安に思う人、外国人観光客や移住者に脅威を感じている人、今を生きづらい人たちもターゲットにしている。例えば「働きたくない女性は子育てに集中して、働かなくてもいい」みたいな発言もあれば、「外国資本が日本経済の低迷を招いた」みたいな言説まである。こうした型にハマらない主張に胸を躍らせる人、他責的な言動にホッとする人がいることは責められない。そういう人達が、参政党を身近に感じることができたのだと思う。
さらに参政党は、22年の参院選、23年の統一地方戦、24年の衆院選を経て、地方へも手を広げてきた。地方議員が約150人いて、全国各地に280以上もの支部を持っている。もともと「投票したい党がないから自分達で作る」がコンセプトで、素人集団ではあるが熱を持って政治活動をしてきた。チラシ配りやポスター張りなども地道に続けていた。「日本人ファースト」や積極財政に惹かれた人、自民党は嫌だと思っていた人達の受け皿としても機能しただけでなく、なんとなく興味を寄せ、検索して動画を見て気に入った人が、各地で党の活動に触れやすかった。
以上のようなことから、多くの人が「投票してみようか」となる要素は揃っていたといえるだろう。「普通の人」のはずの友人や知人が、参政党に投票したと知って驚いた人もいるはずだ。
■「トンデモ」の蔓延を見逃してはいけない
しかし、どう分析して何を言おうと時間は元に戻せない。躍進してしまったものは仕方ないし、この後始末は他党やメディアの役割だ。ここから先は、何も知らなかった「ふんわりとした支持者」にちゃんと指摘し、よく調べず「参政党っていいかもな」と思っている人に「目を覚ましてもらう(本来の意味)」必要がある。
選挙期間中、新たな暴言や問題発言はあったものの、それまで延々と垂れ流してきた陰謀論やトンデモ的な言説は表向きに発することが多くはなかった。田んぼへのジャンボタニシ投入よろしく珍説を撒き散らした過去(そんなに昔ではなく最近だが)を知らずに投票した人はかなり多かったと思う。メディア各位は、今回の反省をもとに、これからは巷のトンデモの蔓延を見逃さないようにしてほしい。
一方の参政党側は、隠したい過去まで掘り起こされながら批判されまくる現状に「被害者ポジション」を確保して支持固めを図るしかなく、より一層、メディアや批判者との対立を煽るに違いない。そうなった時に、ついていける「ふんわりした支持者」は多くはないから、それでも支持したい者によってどんどん思想は「濃く」なる。内部崩壊のリスクは高まり、離反者も増えるだろう。
■投票を自省したら離れていけばいい
よくいわれる「支持者を馬鹿にするだけでは何も解決しない」という論調は理解できる。政治に興味を持つことや投票行動を他者に非難されるいわれはない。実際、今回の選挙では若者の投票率が上がったそうだ。そこには参政党の功績もあると思う。
しかし改めて強調したいのは、参政党が国政政党になってからの3年間も、支持者向けの集会などで反ワクチン・陰謀論を堂々と流布し続けてきたこと。そして、さまざまなデタラメを言っては見つかって批判され、そのたびに言い訳と仮想敵づくりで支持固めに励んできたトンデモ集団だということだ。今は「差別助長」という公党にあるまじき問題も突き付けられて議論の渦中にある。
18人の国会議員を抱える一大勢力になったのだからなおさら、おかしなことは追及されて強く非難されるべきだ。それを見て、ふんわりと参政党を支持した人は「なんかやっぱり違った」とふんわり見切りをつけてもいいと思う。きっと誰もその判断を責めることはない。
参政党は今まさに連日のように批判を浴びている。既に投票したことを自省して距離をとった人も多いことだろう。それでも「大手メディアを信じるな」などと言いがちな陰謀論と親和性の高い人は残るに違いないが、そんな有権者ばかりではないと信じたい。
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Webライター、漫画原作者
九州出身の40代。ネット上のデマや怪しい案件を観察するのが趣味で、スピリチュアルビジネス、偽医学・疑似科学、反ワクチン、陰謀論などを分析した記事を各メディアに寄稿。登録者2万人を超えるメルマガ形式のニュースレターでは潜入ルポなどを定期配信している。
ニュースレター:「トンデモ観察記」
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