
パナソニックホールディングスが、2026年3月までにグローバルで1万人規模の人員削減に踏み切る。
国内・海外それぞれ約5000人で、削減対象は主に販売・管理などの間接部門、ホワイトカラーの労働者が主な対象だ。2025年5月の決算説明会で正式に表明され、削減にかかる構造改革費用は約1300億円と見込まれている。
年内に早期退職などを通じて実施し、2026年度以降に年1500億円超の収益改善効果を期待するものだ。
東京商工リサーチによれば、2025年1~5月に早期・希望退職を募った上場企業は19社に上った。注目すべきは、6割超が黒字企業であったことだ。従来のように不調や赤字が累積したことに伴うリストラが少数になるのは異例だ。2025年は「黒字リストラ」が加速しているといえる。
日本を代表する大企業であるパナソニックも「黒字リストラ」企業の一つだ。業績を見ると、2025年3月期の連結決算では、売上高は8兆4675億円(前年比0.5%減)と微減となっているが、営業利益は4265億円(同18.2%増)となっており、黒字で営業増益をも達成している点に注目したい。
しかし、営業利益率は5.0%にとどまっている。これはソニーグループや日立製作所の10%という類似他社の相場観と比較して、経営の効率性が乏しいと言える。
背景には、パナソニックが得意とする白物家電や住宅設備は世界的にも市場が成熟してきており、グローバルな価格競争の影響を受けやすいことが挙げられる。
今後、同社はEV電池やエネルギー分野への巨額投資を進める中で、限られた資本を有効に配分するためには、高コスト体質の抜本的見直しが避けられない局面にあるという。
●パナのリストラは「松下イズム」と矛盾するのか
パナソニックは2022年、持株会社体制に移行した。社内カンパニー制を維持しつつ、各事業会社に人事・経理・ITなどの間接部門が設置された結果、本社機能と各社の重複が常態化している。
今回のリストラは、そうしたホワイトカラーの配置最適化を目的とした改革だと考えられる。
しかし、これは創業者である松下幸之助が掲げた「社員は家族」「人を活かす経営」といった理念と一見相入れないようにも思われる。昭和恐慌下でも解雇を回避し、「一人も解雇するな」という旨を語ったというのは松下イズムを象徴するエピソードだ。
しかし、パナソニックはこの理念を「雇用の永久保障」という意味ではなく、「人的資源の最適配置」として解釈しているように思われる。
同社のリストラは強制的な解雇ではなく、あくまで希望制の早期退職や配置転換などを通じて実現する予定である。結果的に人員が減るが、目的は冗長の解消に主眼を置いているとみるべきだろう。
●「人手不足」と「人あまり」は同時に起こる
厚生労働省によれば、2024年の全国平均の有効求人倍率は1.25倍だった。しかし、職種別に見ると「人手不足」と「人あまり」が同時に起こっている様子もうかがえる。
少子高齢化で今後も需要が伸びるとみられる介護職が3.7倍、2024年問題に揺れる運送業が3.3倍だ。これらの業界は、3つも空席があるのに、1人しか求職者が来ないとイメージしてもらえば分かりやすいだろうか。
これに対し、ホワイトカラーは「人あまり」だ。ホワイトカラー労働者に該当する総務・事務職は0.44倍で、1つの空席を2人以上の求職者で争っている。
今後もホワイトカラーの人あまりはより鮮明になっていくだろう。足元でもAIやDXの進歩により、定型的な管理業務の自動化が急速に進む。そう考えると、ホワイトカラーを対象にしたパナソニックの「リストラ」は「人手不足社会」とは矛盾せず、むしろ両立する構造だ。
リストラは決して企業の衰退を意味しない。むしろ、黒字のうちに人材の再配置に踏み切れる会社こそ、次の成長をつかむ余地がある。先送りせず、今動ける企業がこれからの競争環境で主導権をつかむのかもしれない。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。

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