健康を保つためには、どんなことに気をつけたらいいか。医師で、自治医科大学名誉教授の藤村昭夫さんは「早寝・早起きをして、欠かさず朝ごはんを食べることが大切だ。朝食を抜いていいことは一つもない」という――。(第3回)

※本稿は、藤村昭夫『世界の最新医学が教える最高の薬の飲み方 時間治療』(講談社)の一部を再編集したものです。

■健康管理に重要な「10時間の絶食」

食事は光とともに体内時計をリセットし、体内リズムを環境に合わせる強力な同調因子です。ただし、体内時計をしっかり整えるためには、10時間以上の絶食が必要とされています。

「ブレックファスト(breakfast)」とは長時間の絶食の後、初めて摂る食事を指しており、必ずしも朝食とは限りません。多くの人にとってブレックファストは朝食ですが、昼頃起きる人は昼食、夕方起きて夜勤に出る人には夕食が相当します。

いずれのブレックファストの場合も、体内時計をリセットするために10時間以上の絶食が必要というのは同じです。たとえば、朝食を午前7時に摂るなら、前日の夕食は午後9時までに終えなければなりません。

成長期の子どものみならず、大人にとっても「早寝、早起き、朝ごはん」が大切ですが、この「早寝」には、十分睡眠をとることのほかに、夜食などを摂ることなく10時間以上の絶食時間を設けるという意味合いが含まれているのです。

私自身、毎朝4時頃に起きています。起床後、2時間ほど読書をして、午前6時から1時間ウォーキング。歩数にして6000歩くらいになります。その後、午前7時から朝ごはんを食べ、日中は精力的に活動し、午後8時頃に寝る準備に入り、午後9時には眠りについています。

■朝食習慣のない人の心筋梗塞リスクは約2倍

朝食抜きの生活を続けると心筋梗塞に罹るリスクが上がります。心筋梗塞のない人を対象にした6年間の観察研究で、毎日、朝食を摂る人に比べ、摂らない人は、心筋梗塞で亡くなる危険性は約2倍高いことが報告されています。

さらに、心筋梗塞で一命をとりとめた患者さんを対象にした観察研究(*1)(*2)では、次のような結果が出ています。退院後、朝食を抜き、さらに遅く(就寝前2時間以内)に夕食を摂る患者さんは、朝食を摂り、かつ夕食を早く摂る患者さんに比べ、30日以内に再び心筋梗塞が起こる危険性が4~5倍になると報告されました。

これは、朝食を抜くと冠動脈(心筋に血液を供給している動脈)の動脈硬化が進み、心筋に血液が十分に供給されないためとされています。したがって、朝食を摂ることは心臓を保護するための日常生活上の工夫と考えることができます。

午後8時以降に食事をすると、糖尿病になるリスクが高まることが、健康な成人を対象にした以下の研究で明らかになりました。研究の対象者は、日を変えて、同じメニューの食事を午前8時、午後8時、深夜0時に摂りました。その結果、血糖値および血中インスリン濃度は、午前8時摂取時より午後8時や深夜0時摂取時のほうが高くなりました。

(注)
(*1)Skippingbreakfastconcomitantwithlate-nightdinnereatingisassociatedwithworseoutcomesfollowingST-segmentelevationmyocardialinfarctionFree
(*2)GuilhermeNeifVieiraMusse,etal.EuropeanJournalofPreventiveCardiology,Volume27,Issue19,1December2020,Pages2311–2313,https://doi.org/10.1177/2047487319839546

■「午後8時以降の食事」は糖尿病の原因に

また、午後8時と深夜0時では差がないことが明らかにされました。血糖値および血中インスリン濃度が高いことは、インスリンが効きにくい(インスリン抵抗性が高い)ことを示しています。

すなわち、午後8時以降の遅い夕食や夜食を摂るとインスリン抵抗性が増して高血糖が続き、糖尿病に進行するものと考えられます。

近年、糖尿病患者が著しく増えており、その要因として食生活の欧米化に伴う過食が挙げられますが、日本人のカロリー摂取量はむしろ減少しています。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によれば、1950年に平均1日2098キロカロリーだったのが、2023年には1877キロカロリーとなっているのです。

カロリー摂取量が減ったにもかかわらず糖尿病患者数が増えた理由のひとつとして、社会全体が夜更かしするようになった結果、午後8時以降に夕食を摂る人の割合が増えたこともあるでしょう。夕食をなるべく早い時刻に摂ることは、糖尿病の発症を防ぐコツです。

■「朝食はたっぷり、夕食は軽く」が大切

肥満は、高血圧、脂質異常症および糖尿病発症の危険因子であり、健康で長生きするためには肥満は大敵です。肥満を防ぐには食事の摂り方が重要ですが、それを考える前に、まず食事のタイミングと脂肪蓄積との関係を説明しましょう。

朝食を摂ると血中グルコース濃度が急激に増加しますが、これはその日の体の活動を支えるために消費され、脂肪として蓄積することはありません。一方で、夕食後は体が休んでいるので、血中グルコースの消費量は少なく、時計遺伝子Bmal1(ビーマルワン)の遺伝子産物BMAL1などの働きにより脂肪細胞の中に脂肪として蓄えられます。

だから、「朝食はたっぷり、夕食は軽く」がいいのです。

メタボリック症候群を合併した肥満の患者さんを2群に分け、カロリー制限食を12週間続けてもらった研究があります。第1群の患者さんは、朝食700キロカロリー、昼食500キロカロリー、夕食200キロカロリー、第2群の患者さんは、朝食200キロカロリー、昼食500キロカロリー、夕食700キロカロリーで配分しました。

その結果、両群とも体重減少やメタボリック症候群で見られる血糖や脂質の異常は改善しましたが、こうした傾向は第1群の患者さんのほうが大きいことが示されました。

ダイエットのために朝食を抜く人もいると思いますが、朝食は普通に摂り、夕食のカロリーを制限したほうが効果的です。

■同じカロリーを取っても朝と夜で結果が違う

また、夜のドカ食いを止めることができず慢性的に続いている状態を「夜食症候群」と呼んでいます。夜食症候群が原因で肥満、糖尿病や高血圧が起こり、心筋梗塞や脳梗塞が発症する危険性が高まります。前述のように、同じカロリー量の食事を摂っても、朝と夕では体の反応が異なりますので、夜食症候群の治療には、1日の摂取カロリー量を減らし、朝食は多め、夕食は少な目にすることが勧められます。

このように、同じカロリー量の食事を摂っても、朝と夜では体の反応が異なるのです。

朝食を抜くと、睡眠に悪影響が出ることが報告されています。成人を対象に、毎日、朝食(340キロカロリー)を摂ったケースと抜いたケースを比べたところ、朝食を抜くと入眠時間が遅れて不眠となり、さらに睡眠の質が低下することがわかりました。

また、朝食を抜いたときは、夕食に炭水化物食や高脂肪食を多く摂る傾向が見て取れました。朝食を抜くと体内時計が十分リセットされないまま一日が始まるだけでなく、夕食に炭水化物などを多く摂るためにさらに体内時計が乱れ、睡眠に悪影響が出たものと考えられます。

■「朝食抜き」は学力を低下させるおそれも

朝食抜きは、成人のみならず子どもの成長にも大きな影響を与えます。

脳はエネルギー源として主にグルコースしか使えないため、グルコースを多く摂ることのできる朝食を抜くとエネルギー不足に陥り、学力が低下する恐れがあります。

事実、4600人余りの中学生を対象にした調査研究により、朝食を摂らない生徒に比べて朝食を摂る生徒の学力は1.7倍高いことが報告されています。また、緑黄色野菜を多く食べている子どもたちは、うつになりにくいこともわかっています。

思春期の子どもたちは将来に関して漠然とした不安を抱き、しばしばうつ状態に陥りやすくなります。小学生や中学生の子どもがいる家庭ではなおさら、「早寝、早起き、朝ごはん」を実践し、緑黄色野菜をたくさん食べましょう。

「適度な運動をしてぐっすり眠りたい」と考えている人は多いはず。でも、タイミングを考えないで無闇に運動しても、あまり効果は得られません。どの時間帯に運動するかによって体内時計が受ける影響は異なり、朝から昼に運動すると体内リズムは前進し、早く眠れるようになります。

■朝の運動は「朝食前」がベスト

一方、夜遅く運動すると体内リズムは後退するため夜更かしの状態になり、眠くなる時刻が遅くなります。

さらに、普段、交感神経活性は夜間に低下しますが、夜遅く運動すると夜間の交感神経活性の低下は小さく、神経は興奮した状態が続きます。一方で、朝食を摂った後に運動すると精神的にリラックスすることがわかっています。

健康な人を対象に、朝食を摂った後あるいは朝食を摂らずに30分間軽く運動し、その後、夕方まで精神状態に及ぼす影響を調べた研究があります。それによると、朝食を摂った後に運動したほうが精神的にリラックスし、さらに認知能力も高まることが報告されています。

しかし残念なことに、夕方、精神的な緊張感が低下し、疲れが増すことも示されています。したがって、夕方に精神的な緊張を伴う仕事が予定されているときは、朝の運動は朝食の前に行ったほうがいいかもしれません。

わが国では成人の約60パーセントが、一日の疲れを癒やし安眠を得る方策として入浴を一番に挙げています。最近、良い睡眠のためのお風呂の温度と入浴のタイミングに関する報告がなされました。それによると、就寝の1~2時間前に、40~42.5度のお風呂に10分間入ることが最適だそうです。

このようなお風呂の入り方をすると、寝入るまでの時間が短く、さらに睡眠の質も良くなるようです。

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藤村 昭夫(ふじむら・あきお)
自治医科大学名誉教授・医学博士
1951年、石川県に生まれる。自治医科大学名誉教授。医師。医学博士。時間治療学スペシャリスト。金沢大学医学部卒業。金沢大学大学院(内科学)修了。大分医科大学助手、米国オクラホマ大学留学を経て、自治医科大学臨床薬理学教授などを歴任する。主な研究テーマは、臨床薬理学、時間治療学、トキシコゲノミクス。「時間生物学」という生物の生体リズムを研究する学問の考え方を、医学分野に取り入れた時間医学の研究に長年取り組み、「患者」にとって一番良い服薬の方法を追求し続けている。著書には『適正使用のための臨床時間治療学』(診断と治療社)、『世界の最新医学が教える最高の薬の飲み方 時間治療』(講談社)などがある。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuuji