「大自然没入型テーマパーク」を掲げて7月25日にオープンしたばかりの「ジャングリア沖縄」が、早速叩かれている。

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 2017年にオープンした「レゴランドジャパン」のように、新しいテーマパークというのはみんな好き勝手に叩くものだが、それを差っ引いても辛辣(しんらつ)な意見が飛び交っているのだ。

 まず、実際に来場した人のうち何人かがSNSで「子どもは楽しめるだろうけれど大人は微妙」「アトラクションのCMと実物のギャップがひどい」などの批判的なレビューを投稿している。

 確かに、このところ流れていたテレビCMでは、ユニバーサルスタジオジャパン(以下、USJ)をほうふつさせるドラマチックな体験ができるアトラクションをアピールしていた。それを真に受けて期待値が上がっていた人たちが来場して、いざ「実物」を見ると、「あれ? なんか思っていたより……」とガッカリしているようなのだ。

 専門家からも厳しい声が挙がっている。例えば、日本遊園地学会の塩地優会長は「テーマパークらしいアトラクションは22の中で3つほどだ」とバッサリ。「最初の1カ月ちょっとは100万人ペースで来場するかもしれませんが、その後はぐっと下がる」と「失敗」を予言している。

・《ガラガラになる可能性も》「類似の施設が多すぎ」…専門家が「ジャングリア沖縄」の失敗を断言できるワケ(現代ビジネス 2025年7月4日

 では、ジャングリア沖縄はなぜここまで叩かれてしまうのか。人によってさまざまな理由を思い浮かべるだろうが、個人的には「大自然没入型テーマパークと言いながら、いまいち自然に没入できない」問題もあるのではないかと思っている。

●看板に偽りはないが……

 冒頭でも触れたように、ジャングリア沖縄は「大自然没入型テーマパーク」を掲げている。沖縄北部に広がる60ヘクタールの「やんばるの森」という本物の大自然の中に位置しており、看板に偽りはない。

 しかし、そういう思いでこの地を訪れると「コテコテの人工物」にお出迎えされる。「ロボットの恐竜」である。

 もちろん、恐竜好きの子どもたちは大ハシャギである。しかし、ある程度の年齢の若者や、恐竜にあまり興味のない層からすると、「へえ、よくできているねえ」くらいの反応だ。

 つまり、せっかくの雄大な大自然の中にいても、リアルな恐竜ロボットという「よくできたつくりもの」を目にすることで、大自然への没入感が薄れてしまうのである。

 もちろん、広い世の中だ。「実際にジャングリア沖縄ティラノサウルスを見て、本物かと思うくらい感動し、自然に没入できたぞ」という方もたくさんいらっしゃるだろう。

 ただ、テーマパークのロボットというのは基本的に「日常を忘れさせてくれる閉ざされた空間」で見たほうが没入できる。例えば、ディズニーランドの定番アトラクション「カリブの海賊」を思い出していただければ分かりやすいだろう。

●“没入感”よりも際立ってしまうもの

 ご存じの方も多いだろうが、カリブの海賊は映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』の世界をほうふつさせる、荒々しくもユーモラスな海賊たちの姿を、ボートに乗って見て回る室内ボートライド型アトラクションだ。

 ぶっちゃけ、ただ人形が動いたり踊ったりしているだけなのだが、なぜリピーターが絶えず、こんなにも愛されているのか。薄暗い照明、銃声の効果音、水しぶきなどの演出が重なり、見ている者たちを作品世界に没入させているからだ。

 もしあのアトラクションがジャングリア沖縄のような広大な大自然の中、屋外で設置されていたら正直、あのような人気は出ていない。

 お天道様の下で見たら、どんなリアルで精巧な人形でも「つくりもの感」が強調されてしまう。音響や照明などで演出することも不可能なので、どうしても安っぽく見えてしまう。

 それは「恐竜」ならばなおさらである。

 どんなに精巧で巨大なものであっても、自然の樹木や草木の中に置かれると、“つくりもの”特有の異質感が際立ってしまう。「箱根 彫刻の森美術館」のように自然の中に点在する彫刻やオブジェを見て回る感覚に近いので、「よくできているねえ」という驚きや楽しさはある。しかし、ジャングリア沖縄テレビCMで訴求していたような「没入体験」までは行き着かないのである。

 しかも、このように自然の中に“つくりものの恐竜”を展示する「見学型テーマパーク」というのは、実は既に日本全国にあふれている。つまり、ジャングリア沖縄の「自然の中に恐竜ロボット」というコンセプト自体が弱いのだ。

●各地にある「恐竜テーマパーク」

 例えば、愛知県安城市にある「安城産業文化公園デンパーク」内の「わくわく恐竜王国 デンパークディノランド」では、トリケラトプスの群れに襲いかかるティラノサウルスなどの実物大の模型が展示され、実際に動く仕掛けもある。

 広島県福山市にある「みろくの里」内の「ダイナソーパーク」でも、森の中では、動いて吠える恐竜模型が来場者を出迎える。

 しかも、ジャングリア沖縄からわずか車で10分のところにも「DINO恐竜PARK やんばる亜熱帯の森」という施設があって、ここにも80体以上の恐竜がいる。公式Webサイトを引用しよう。

映画ジュラシックパークのロゴでもおなじみのティラノサウルスステゴサウルス、首の長いブラキオサウルスなど、多種多様な恐竜達が存在しています。パーク内を歩くと恐竜の鳴き声も聞こえ、原生林の中で動き出す恐竜の迫力に、胸が高鳴り、冒険心がくすぐられます(出典:「DINO恐竜PARK やんばる亜熱帯の森」の公式Webサイト)

 いかがだろう。規模やレベルは違うにしても、ジャングリア沖縄の掲げている「恐竜に追いかけられる」「巨大なブラキオサウルスにビックリ」的なことを車で10分の近隣観光施設でもやっているベタなコンセプトなのだ。

 こういう現状を踏まえると、「大自然没入型テーマパーク」を掲げているのに、不自然を象徴する「恐竜ロボット」に頼ってしまうコンセプトのブレブレ感も、叩かれてしまう要因の一つなのかもしれない。

●室内型の恐竜アトラクションがタイにオープン

 先ほども申し上げたように、本当に「精密な恐竜ロボット」を用いて「没入体験」をさせようと思ったら「屋外」では難しい。実際に世界の恐竜アトラクションは室内型が一般的だ。

 その代表が、8月8日にタイのバンコクにオープンする「ジェラシックワールド:ザ・エクスペリエンス」である。

 チャオプラヤー川沿いの巨大商業施設「アジアティーク・ザ・リバーフロント・デスティネーション」内に、約6000平方メートルの敷地でつくられたこのアトラクションでは、人気映画シリーズ『ジェラシックワールド』のシーンのような没入体験ができる。現地では観光振興の起爆剤として盛り上がっている。

 「えっ、いいじゃん! ジャングリア沖縄も経営が軌道に乗ったらこういうのやってよ」と思うかもしれないが、それは難しい。というか、不可能だ。もともとこの場所はゴルフ場跡地を活用したもので、かつてUSJが進出を表明したが、すぐに撤回した経緯がある。

 撤回理由についてはさまざまな理由が報じられたが、実際のところは「自然保護」という大きなハードルがあったからだといわれている。

 ジャングリア沖縄のある地域は、同県の中でも特に豊かな自然が残っており、2021年7月26日には世界自然遺産奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として登録されている。そこに大阪にあるような大規模で人工的なテーマパークを開発する、なんてことを言い出せば、沖縄県、地元政治家、市民団体、さらには地域住民から猛反発が起きるのは必至だ。

 こうしたステークホルダーとの協議を重ねた結果、たどり着いたのが「自然と共生する持続可能なテーマパーク」である。それが、ジャングリア沖縄だ。

●もし「ジャングリア沖縄」を軌道修正するなら

 自然を壊すような開発をしてはいけない。周辺環境への悪影響も避けなくてはいけない。そんな、さまざまな厳しい規制の中でたどり着いたのが「巨大な恐竜」を活用した「大自然没入型テーマパーク」だったというわけだ。

 ただ、本当に「自然」にフォーカスしたテーマパークならば、巨大な恐竜ロボットなどに頼らない方法は山ほどある。

 筆者は10年前、この地にUSJが進出を表明したときに、「なぜUSJは沖縄でテーマパークを造るのか 裏にオトナの事情アリ」(ITmedia ビジネスオンライン 2015年9月15日)という記事の中で、「自然を大事にした観光開発」が行われることを予測した。

 ただ、そこで具体的にどんなものができるのかと予想したのは、ハワイにある「ウェット・アンド・ワイルドハワイ」のようなウォーターテーマパークだった。ジャングリア沖縄のような恐竜テーマパークではないので、大ハズレだ。

 そんな人間が何を言ったところで説得力はないが、もし今後、専門家がおっしゃるようにジャングリア沖縄が厳しい戦いを強いられるようになるのなら、今やっているような「恐竜アトラクション」は徐々に引っ込めて「手つかずの大自然を楽しむ」方向へ軌道修正を余儀なくされるのではないかと見ている。

 普通のテーマパークでもし客足が振るわなければ、テコ入れとして大型アトラクションを導入したり、USJハロウィーンのような大型イベントをぶちまけて集客を目指す。しかし、この地は「自然保護」がメインなので、客が来ないからといって何かを新たに建設するのは難しい。騒音やゴミの問題もあって、大規模イベントの開催もハードルが高い。

 そうなると「自然というアトラクション」で魅力的な遊びを提案していくしかないのだ。

●「ジャングリア沖縄」にあるもの

 モデルになるのは、メキシコのカンクンにある「シカレ海洋公園」だ。

 ここは海に面していることもあってシュノーケリングなどのマリンアクティビティーがたくさんできるほか、園内にはフラミンゴオウムなどの動物もいるし、夜はマヤ文明から続く伝統舞踏のショーなどもある。

 ジャングリア沖縄には海はないが、広大な森がある。そして車から20分ほどのところにある世界遺産「今帰仁城跡」のように、歴史も伝統もある。

 サバイバル体験ができるネイチャーツアー、やんばるの森に生息する動物や虫の観察、さらに、古代の琉球文化を表現したショーなどを企画することも可能だ。

 「そんなの地味だよ」と思うかもしれないが、先ほど紹介したように恐竜ロボットなども今やどこにでもある。リアルな没入体験をしたければ、USJやタイの施設に軍配が上がる。また、ハーネスを装着して高い木の上を歩くアトラクションやジップラインも珍しくない。

 しかし、「やんばるの森」という自然と、沖縄北部の歴史文化を体験できるテーマパークはここにしかない。現在、ジャングリア沖縄では国内客と海外客の入場料を分ける「二重価格」を設定しているが、アジア圏や日本国内の他地域にもあるようなテーマパークに、わざわざ出向く理由があるのかという課題も残る。

 いろいろ厳しいことを言わせていただいたが、それもジャングリア沖縄にはなんとか頑張って成功していただきたいという気持ちからだ。

 2000年に「沖縄エキスポランド」が閉園してから、沖縄にはテーマパークがない。「自然と共生」というハードルの高さをどうにか乗り越えて、沖縄経済の起爆剤になっていただきたい。

(窪田順生)

「ジャングリア沖縄」に批判の声