雨の日、傘をさして自転車に乗る人をしばしば見かけます。また、猛暑の中、日傘をさして運転している人もいます。

しかし、この行為は道路交通法や多くの自治体の条例に違反する可能性があり、思わぬリスクを伴います。

来年2026年4月からは、改正道路交通法の施行により、自転車の違反に「青切符」(反則金制度)が適用されます。傘さし運転もその対象で、反則金5000円が科される予定です。これにより、取り締まりがより厳格になると見込まれています。

さらに問題となるのは、万が一交通事故に遭った場合です。傘さし運転が自転車側の過失要因として考慮され、損害賠償の責任が重くなるケースがあります。

実際、弁護士ドットコムには、傘さし運転をしていた高校生が自動車と衝突して、「過失がある」と指摘されたという相談が寄せられています。

気軽にやってしまいがちな傘さし運転ですが、どのような法的リスクがあるのでしょうか。坂田信太弁護士に聞きました。

●現行法でも「傘さし運転」は違法

──現行法において、傘をさして自転車に乗る行為は、どのように規定されて、どのような処罰が科されるのでしょうか。

現行法でも、傘をさして自転車に乗る行為は違法です。

ただ、道路交通法に明文で禁止規定があるわけではなく、同法71条6号が「公安委員会が交通の安全を図るため必要と認めた事項」として委任し、各都道府県の公安委員会が規制で定めるかたちとなっています。

たとえば、東京都では東京都道路交通規則8条3号で「傘を差し、物を担ぎ、物を持つ等視野を妨げ、または安定を失うおそれのある方法で…自転車を運転しないこと」と明記されています。

違反した場合、道路交通法120条1項10号に基づき「5万円以下の罰金」が科される可能性があります。

●2026年4月から変わる道交法

──改正法施行後、「傘さし運転」はどう取り扱われるのでしょうか。

2026年4月施行の改正道路交通法では、これまで自動車や自動二輪車に適用されていた交通反則通告制度(青切符)が、自転車にも拡大適用されます。

この制度は、比較的軽い交通違反(現認・明白・定型的なもの)について、警察から通告を受けた違反者が「反則金」を支払うことで、裁判など刑事手続きを免れる仕組みです。傘さし運転の場合、反則金は5000円です。

なお、反則金を支払わずに刑事手続きを選ぶことも可能で、その場合は公開の法廷で事実関係を争うことになります。

制度の導入によって、これまでより自転車の交通違反行為への取り締まりがしやすくなると言えます。ただし、反則行為をなんでもかんでも取り締まり、「違反すれば即、反則金」となるわけではありません。

警察庁によると、改正後もまずは注意や警告が基本で、危険性が高く悪質な違反に対して反則金が適用される方針ということです。

●事故に遭った場合の過失割合は?

──傘さし運転中に自動車と衝突した場合、自転車側の過失はどのように評価されるのでしょうか。

現行法上でも、傘さし運転は道路交通法違反の違法行為であるため、自転車側の過失を基礎付ける重要な要素として評価されます。

自動車と自転車の事故では、自転車のほうが「弱い立場」として扱われるため、基本的な過失割合は自動車同士の事故の場合よりも、自転車側が低めに認められる傾向にあります。

しかし、自転車が傘さし運転をしていた場合には「著しい過失」として、自転車側の過失割合が5〜10%程度加算される可能性があります。

──たとえば、傘をさしながら自転車に乗っていた高校生が、信号のない交差点を直進しようとしたところ、左側から右折してきた自動車と衝突した事故の場合は、どうなるのでしょうか。自転車の進む方向には「止まれ」の標識が設置されており、一時停止を守らずに交差点へ進入していました。事故の衝撃で自転車は転倒し、高校生はケガを負いました。自動車にも損傷があります。

このケースでは、基本的な過失割合は自動車60対自転車40となりますが、傘さし運転により、自動車55対自転車45と修正される可能性があります。

この場合、自転車を運転していた高校生は、この事故によって受けた損害(怪我の治療費や自転車の修理代金など)の55%しか賠償を受けることができず、また、自動車のドライバーが受けた損害(自動車の修理費)の45%を賠償する責任を負うということになります。

このように、自転車の傘さし運転は法律で禁止された違法行為であり、事故を起こした場合には民事上の責任も重くなります。反則行為化を機に、改めてこのような危険な運転は控え、安全運転を心がけるよう気をつけたいものです。

【取材協力弁護士】
坂田 信太(さかた・しんた)弁護士
早大法卒。2005年弁護士登録。2012年東京弁護士会常議員、日本弁護士連合会代議員。交通事故(被害者側・加害者側)、その他の損害賠償事件のほか、一般民事事件(貸金、請負、不動産等)及び家事事件(離婚、親子関係、相続等)などを手がける。近時は自治体からの成年後見業務依頼が増加。
事務所名:ひびき綜合法律事務所
事務所URL:http://www.hibiki-law.gr.jp/

自転車の傘さし運転、来年4月から「青切符」導入で厳罰化 事故時の賠償リスクも増大?