加齢とともに肌にシワができるのは当たり前のことです。

では、なぜ皮膚にシワができるのでしょうか?

これまでシワの原因はさまざまに語られてきましたが、その根本的なメカニズムは長年不明のままでした。

そんな中、アメリカのビンガムトン大学(Binghamton University)の研究チームが、実際の人間の皮膚を使って、シワができる物理的な過程を世界で初めて実験的に明らかにしたと発表しました。

この研究成果は、2025年7月12日付で『Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials』誌に掲載されています。

目次

  • 加齢と皮膚の「ひずみ」の関係を探る
  • シワの正体は引っ張られたときの「横縮み」だった

加齢と皮膚の「ひずみ」の関係を探る

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「加齢に伴うシワ」を物理的に検証 / Credit:Canva

私たちは、「年をとると肌にハリがなくなる」「シワが深くなる」と感じています。

美容の分野ではこれに対処するためのスキンケア製品が次々に開発され、科学の分野ではコラーゲンやエラスチンといった皮膚の構造成分が注目されてきました。

科学者たちは長年、遺伝や日焼け、その他の環境要因の組み合わせがシワを作ると考えてきました。

しかしこれまで、皮膚が物理的にどのように変形してシワになるのかを“実際に測定”した研究はありませんでした

そこでビンガムトン大学の研究チームは、実際の人間の皮膚を引っ張ることで、年齢とシワの関係を力学的に解明しようと試みました。

研究チームが用いたのは、16歳から91歳までの7名のドナーから提供された皮膚サンプルです。

サンプルは、紫外線の影響を避けるため、体の中でも日光に晒されない部位から採取されました。

そして研究チームは、皮膚の中のコラーゲン線維の「方向性」に着目しました。

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Langer’s lines(ランゲル裂線 / Credit:Wikipedia Commons

皮膚の奥深く、真皮層にはロープのようにねじれた太く強靭なコラーゲン繊維が走っており、その方向には「Langer’s lines(ランゲル裂線)」と呼ばれる自然な張力のラインが生まれます。

この方向性を考慮して、研究ではコラーゲン繊維が主に走っている方向(ランゲル裂線に沿った縦方向)と、それに直交する横方向で皮膚を切り出し、それぞれの変形を比較しました。

コラーゲンの配向は、皮膚が引っ張られたときの挙動を大きく左右するため、非常に重要な指標です。

実験において皮膚のサンプルは、皮膚本来の張力を模倣した「一定の力」で40分間引っ張られ、どれくらい伸びるか(軸方向ひずみ)、横方向にどれくらい縮むか(横方向ひずみ)、どれほど体積が減少したか(収縮による液体の脱出) などが測定されました。

さらに、皮膚にできたシワの形や深さ、曲がり具合をシリコン型で転写し、顕微鏡を用いて詳細に観察しました。

シワの正体は引っ張られたときの「横縮み」だった

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年を取った皮膚は、引っ張られた時に横方向の縮みが顕著になる / Credit:Abraham Ittycheri(Binghamton University)et al., Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials(2025)

研究の結果、年齢によって皮膚の挙動は劇的に変化することが明らかになりました。

まず、年を取った皮膚は、引っ張られたときに横方向への縮みが顕著になることがわかりました。

つまり、同じ力を加えても、若い皮膚よりも高齢の皮膚は強く横に縮むのです。

この横縮みの度合いは「ポアソン比(Poisson’s ratio)」と呼ばれる値で表されますが、驚くべきことに高齢者の皮膚では、この値が異常な数値を示しました。

これは、皮膚が単に細くなるのではなく、中に含まれる水分が外へと押し出されて体積そのものが減っていることを示しています。

実際に、皮膚を引っ張る前後でその重量や体積が減少しており、内部の液体が脱水されていることが確認されました。

この現象を研究責任者のガイ・ジェルマン氏は、次のようにたとえています。

「シリーパティ(伸びる粘土)を引っ張ると、横方向に細くなりますよね。

皮膚も同じで、年齢とともにその縮み方が大きくなり、最終的には“くしゃっ”と折れてしまう。それがシワになるんです

さらに、高齢の皮膚では、シワがより深く、より幅広く、より曲がりやすく、よりまっすぐなシワになる傾向があることも分かりました。

これには、皮膚構造の変化(表皮と真皮の境界の平坦化やコラーゲンの減少)が影響している可能性があります。

とはいえ、この研究にはいくつかの制限があります。

たとえば、実験は一方向の引っ張りしか検証しておらず、日常生活で皮膚が受ける多方向のストレスを再現できていません。

また、紫外線によるダメージ(光老化)を避けた設計のため、現実の肌の老化とは若干異なる面があります。

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直射日光を浴び続けると、肌は加齢に似た影響を受ける / Credit:Canva

それでも、この研究は「なぜ人は年をとるとシワができるのか?」という問いに初めて力学的な答えを与えた意義深いものです。

加えて研究チームは、長期間にわたって日光を浴びることが老化と同じ影響を肌に与える可能性を次のように指摘しました。

加齢と光老化は似たような結果をもたらします。

だからこそ、外で過ごす時間が長い人日焼け止めを忘れないでください。

そのことを未来のあなたはきっと感謝するはずです

今回の発見は、より効果的なシワ予防を開発するのに役立つはずです。

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参考文献

The mechanics of why we wrinkle as we age have been revealed
https://newatlas.com/aging/age-skin-wrinkles-mechanics/

Your skin buckles as you age – and that’s why wrinkles form
https://www.binghamton.edu/news/story/5684/your-skin-buckles-as-you-age-and-thats-why-wrinkles-form

元論文

Elucidating the mechanistic process of age induced human skin wrinkling
https://doi.org/10.1016/j.jmbbm.2025.107080

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

加齢で「しわ」ができるメカニズムが明らかに