
栄光を取り戻したF1チーム
マクラーレン・テクノロジー・センターは、SF映画の宇宙港を彷彿とさせるほど未来的な外観を有しており、築21年という事実に改めて驚かされる。
【画像】レースの血統を受け継ぐ最新スーパーカー【マクラーレン750S、アルトゥーラ、GTSを詳しく見る】 全74枚
さらに驚くべきは、F1コンストラクターズ・チャンピオンシップを制したマクラーレンのマシンが、昨年までこの施設で製造されたことがなかったことだ。
ランド・ノリスが2024年シーズン最終戦のアブダビGPで優勝したことで、マクラーレンは実に26年ぶりのコンストラクターズ・チャンピオンシップのタイトルを獲得した。これはF1史上最長の記録だ。
2008年にはルイス・ハミルトンがドライバーズタイトルを獲得するなど、何度か王座に肉薄したことはあったものの、屈辱的な低迷期も味わった。2017年は、10チーム中9位に終わった。
順位を粘り強く回復させ、タイトル獲得の栄光に返り咲いたことが、今回AUTOCARアワード2025の『モータースポーツ賞(Motorsport Award)』の受賞者に選ばれた理由だ。
F1での成功は、速いマシンを作り、強力なエンジン(メルセデス製)を搭載し、2人の速いドライバー(ノリスとオスカー・ピアストリ)を擁することにかかっている……と簡単に結論付けることもできるだろう。しかし、それだけではない。
マクラーレンの復活は、マクラーレン・テクノロジー・センターで1000人を超えるスタッフが懸命に働いた努力の賜物だ。その陣頭指揮を執ったのが、マクラーレンで17年のキャリアを持つピアーズ・シン氏だ。彼は最高執行責任者(COO)として、事実上ファクトリーを運営している。
彼は昨年のアブダビでのレースを「チーム全体が極めて集中した作業期間の集大成」と表現している。マクラーレンは2024年シーズンで、レッドブルに後れを取ってスタートしたが、マイアミでのアップグレード・パッケージが順位を逆転させた。「チーム全体がエアロ、技術、オペレーションのすべての部門で協力し、マイアミに向けて大規模なアップグレードを実現するために尽力しました」
「それがシーズンにおける転機となりました」とシン氏は語る。彼は自身の役割を「イネーブラー(成功要因)」と表現し、チームの各部門が最高のパフォーマンスを発揮できるよう支援している。同時に、マクラーレン・レーシングのトップであるザック・ブラウン氏とF1チーム代表のアンドレア・ステラ氏と共に、チーム文化を変革するという役割も担う。
「チームの文化は、過去1年半~2年で『良い』から『非常にポジティブ』へと変化しました」とシン氏は明かす。「これはザックとアンドレアのアプローチによるものです」
「彼らはわたしに毎日、推進力を与えてくれます。わたし達は階層構造を必要としません。良い人材が協力し、良いコミュニケーションを取り、全員がパフォーマンス向上を目指して努力するだけで十分なのです」
スポーツではしばしば、勝利がすべてを解決することがある。マクラーレンが定期的に勝利を収めるようになると、チームの雰囲気も明るくなった。シン氏は、成功が「チームを前進させる」と語りつつ、誰もが過去の栄光に甘んじてはならないと付け加えた。
「F1は極めて複雑なスポーツであり、予期せぬ事態は起こるものです。成功を祝っている時でも、信頼性の向上、パフォーマンスの向上、そしてポイント獲得の機会を逃さないよう努力し続けなければなりません」
「謙虚でなければなりませんが、F1で働くことはモータースポーツの頂点にいる特権です。結果は予測できず、自分が注いだ努力に左右されます。わたし達は全員に、ポジティブであろうとネガティブであろうと過剰な期待を避け、ファクトリーとしてすべきことに集中するよう求めています。つまり、ランドとオスカーに毎レース最高の装備を提供することです」
マクラーレンが最後にコンストラクターズタイトルを獲得したのは1998年で、今とは時代が異なる。当時はほぼ無制限の支出が可能だった。現在、チームにはコストキャップ(今年は1億400万ポンド=約200億円)が設定されており、シン氏の努力の多くは、「1ポンドあたりから可能な限りのパフォーマンスを引き出す」ことに費やされている。
「これは本当に刺激的な挑戦です。どれだけの知恵を投入するかが、他チームとの競争上の差別要因になります。資金の使い道や焦点をどこに置くか、あらゆる角度から検討する必要があります」
例えば、事故に備えてスペアパーツの在庫を確保するために資金を使うか、それともアップグレードの開発に資金を使うか、また、シャシーとパワートレインのレギュレーションが大きく変わる2026年に向けてマシン開発にどれだけの力を注ぐか、といった決定を下さなければならない。
「レギュレーション変更は、このスポーツをリセットするチャンスなので、わたし達は歓迎します」と彼は言う。
リセットは、F1のトップチームにとって必ずしも良いニュースとは限らない。2008年にハミルトンがドライバーズタイトルを獲得した後、2009年に大きなレギュレーション変更があり、マクラーレンはトップ争いに苦戦を強いられた。しかし、トップの座を維持しようと努力することは、マクラーレンにとって良い課題である。26年間ぶりの経験だからだ。
■フォーミュラ1の記事
26年ぶりの一大快挙 マクラーレン:モータースポーツ賞 AUTOCARアワード2025
1960年代風の木製シフトノブ採用 ロータス『エミーラ』に特別仕様車 伝説のドライバーにオマージュ
【1965年の初優勝から60周年】A.セナが乗ったF1マシンの一部を自宅に?ホンダがメモラビリア事業をスタート!
【史上最大規模のF1デモラン】ホンダ・ゼロSUVも日本初登場!レッドブル・ショーラン&ファンイベント開催

コメント