ウクライナ国防省は2025年7月23日、ウクライナへの支援の一環として提供された「ゲパルト」自走対空砲が防空任務で果たした貢献に対し、感謝のコメントを投稿しました。同車両、供与時は役に立たないと思われていました。

旧式で役に立たないと思いきや…

 ウクライナ国防省は2025年7月23日、ウクライナへの支援の一環として提供された「ゲパルト」自走対空砲が防空任務で果たした貢献に対し、公式Xで感謝のコメントを投稿しました。この車両は、ロシアによる侵攻直後の2022年4月に50両が供与されたのを皮切りに、その後もドイツをはじめとする複数の国から追加供与され、現在も戦場で防空任務に就いています。

 実は、ウクライナとロシアの戦争が始まる以前、ゲパルトは時代遅れの兵器と見なされていました。1973年に配備が始まったもので、基本設計は50年以上前にさかのぼります。ドイツでは2010年に退役しており、当初は「ウクライナ支援をアピールするための象徴的な供与」とも言われていました。しかし、実戦で投入されるとその評価は一変。現在では、ウクライナ国内のインフラや車両を守るために欠かせない近接防空兵器となっています。

 ゲパルトはもともと、低空を飛行する攻撃ヘリコプターや攻撃機から、戦車や装甲車を主体とする機甲部隊を守る近接対空防御用の車両として開発されました。開発に際しては、当時の西ドイツ軍の主力戦車「レオパルト1」の車体が流用されています。

 しかし時代が進むにつれ、攻撃ヘリの対地ミサイルは射程が伸び、ゲパルトが装備する35mm高射機関砲の有効射程(約5.5km)をはるかに上回る距離から攻撃を受けるようになり、従来の役割を果たすのが難しくなっていきました。

 そのためウクライナは、当初からゲパルトを車両護衛や対ヘリ任務には用いず、ドローンのような無人機の迎撃に活用することを計画していました。

 実際、ウクライナへの供与以前から、ゲパルトがドローン迎撃に有効であると予想されていました。2022年にサッカーW杯を開催したカタールも、テロリストによるドローン攻撃への対策としてゲパルトを購入した実績があります。

 もっとも、シリア内戦やナゴルノ・カラバフ紛争といった、ロシアのウクライナ侵攻以前の紛争においても、ドローンによる攻撃や偵察は頻繁に行われていたものの、それらの兵器に対抗する目的で対空自走砲が大規模に運用された事例はほとんどなく、実戦での有効性は未知数でした。

実は自爆ドローンにかなり有効だった!

 そうした中、ウクライナの戦場に投入された自走対空砲「ゲパルト」は、予想に反して、ドローンや亜音速の巡航ミサイルに対して高い迎撃能力を発揮しています。

 特に評価されているのが、インフラ攻撃を目的とした自爆型ドローンへの対処能力です。たとえば、ロシアがイランから輸入した「シャヘド」や、そのロシア版である「ゲラン2」、さらには国産の「ランセット」などがその例です。ゲパルトがこれらの無人機に対して有効とされる理由には、これらの自爆ドローンが低空・低速で侵入してくることが、ゲパルトの設計思想と一致していた点、さらには偵察用ドローンに比べて機体が大きく、機関砲の弾を命中させやすいという点が挙げられます。

 さらに、ミサイルではなく機関砲弾を用いることで、圧倒的なコストパフォーマンスの高さが実現されています。

 たとえば、ウクライナに供与されている「パトリオット」地対空ミサイルは、1発あたり3〜4億円という高コストです。比較的安価な旧ソ連製のブーク防空ミサイルでも、1発あたり約5,000万円とされています。一方で、自爆ドローンの中には製造コストが数万円程度というものも存在し、これに対してゲパルトが使用する35mm機関砲弾は1発約数万円程度で対応できるため、コストパフォーマンス的にはかなり有効となっています。

 こうした戦場での実績により、ウクライナは「自爆ドローン対策にはゲパルトのようなシンプルかつ安価な装備が費用対効果の観点から有効」との見解を示しています。この評価の変化は他国にも波及しており、たとえばドイツでは、「リンクス」歩兵戦闘車や「ボクサー」装輪装甲車に搭載可能な新型防空システム「スカイレンジャー30」の開発が進められています。また、トルコでは2018年より、ACV-30「コルクット」と呼ばれる自走対空車両がすでに配備されています。

【発射速度かなり速い…! 】これが、不審な飛行物体を撃墜する「ゲパルト」です(動画)

新たに公開されたウクライナ軍が運用するゲパルト自走対空砲(画像:ウクライナ国防省)