外食の成長市場として「朝食(モーニング)」に注目が集まっている。

【画像】【食べてみた】びっくりドンキーの豪華「990円」モーニング、「1000円」の朝サイゼメニュー、比較的安い価格の朝サイゼメニュー(計6枚)

 モーニングというと、喫茶ではかねてビジネスパーソンや大学生向けに、トーストを中心にゆで卵、ミニサラダ、コーヒーなどをセットとしたサービスを行ってきた。

 特に名古屋を中心とした中京地区ではモーニングサービスが盛んで、「コメダ珈琲店」では今のように全国チェーンになる前から、定年退職したシニアが毎日のように通う光景が見られた。常連たちはコーヒーが割引になる回数券を購入して、無料サービスのトーストを食べながら、無料で読める新聞を読みつつ、コーヒーを飲む。彼らが社会との接点を保つ、職場に代わる一種のコミュニティの役割を果たしていた。

 今後、日本では高齢化が進み、定年を過ぎたシニアが増えると、コメダのような名古屋モーニングが広がるという予感があった。

 喫茶店モーニングを補完する形で、ハンバーガーチェーンでも「マクドナルド」の「朝マック」や「モスバーガー」の「朝モス」などは、既に定着している。和食の分野では「吉野家」「すき家」「松屋」の3チェーンが、塩鮭や牛皿をおかずにした、安価な朝食を販売している。

 近年は、モーニングがファミレス、回転すし、定食などの業態にも広がってきた。しかも「ガスト」のようなカフェレストラン型の業態だけでなく、今までモーニングをやっていなかった「サイゼリヤ」「びっくりドンキー」「はま寿司」などもモーニングを始めたのだ。

 背景として、コロナ禍により夜の集客が難しくなったことがある。新しい顧客の開拓を狙って、モーニングを強化するチェーンが続出した。定年を過ぎたシニアの人口増加に加えて、一定数定着したテレワーク、朝をしっかり食べて体調を維持しようという健康志向の高まりなどが、朝食市場の成長を後押ししている。

 具体的に朝食に力を入れている各社の戦略を見ていこう。

●衝撃だったびっくりドンキーモーニン

 まずは、ファミレス。主な利用者は、当然ファミリーである。しかし、びっくりドンキーの店舗に行ってみると、各席に無料で充電できるコンセントを配置し、無料Wi-Fiが使える環境を整備している店もある。テレワークを目的とする人や、定年退職したシニアの朝食需要を開拓している。

 これは、すかいらーくガストなどの店舗で始めた戦略にならったものだ。

 びっくりドンキーでは、2020年4月に一部の店で実験的にモーニングを開始。翌年に本格的に導入して全国に拡大、2年後には客数が2倍に成長し、定着している。

 平日の午前10時頃に店を訪問したが、半分くらいの席が埋まっている。1人で来ているビジネスパーソン、シニアが多かったが、老夫婦や4人ほどの老婦人のグループもいた。

 メニューは、シンプルな厚切りトースト、ゆで卵、ドリンクの「プレーントーストセット」(380円~)が定番だ。厚切りトーストに、目玉焼きサラダソーセージベーコンなどをワンプレートにした、ドリンクセットの「ドンキースペシャルブレックファスト」(880円~)というリッチなメニューもある。

 ご飯ものでは、ハンバーグソースをかけて食べる「朝の新定番!卵かけご飯」(330円)。当然、ハンバーグのメニューもある。朝限定のコーヒーおかわり自由も好評だという。

 ガストや「ロイヤルホスト」「デニーズ」などのファミリーレストランは、コロナ禍以前からモーニングメニューを提供していた。一方、びっくりドンキーは、これらのチェーンとは異なり、喫茶目的で利用されることは少なく、「ハンバーグをがっつり食べる店」というイメージが強い。びっくりドンキーモーニング参入は驚いたが、狙いは当たった。

●「朝サイゼ」が始まった

 サイゼリヤでは6月25日から一部店舗で「朝サイゼ」をスタート。店舗によってメニューは異なるが「大島ピーコックストア前店」(東京都江東区)では、午前7~10時にワンコインを切る、安価なモーニングを提供している。

 「焼きシナモンフォッカチオ」とドリンクバーのセットは300円で「パンチェッタとチーズのパニーニ」セットは400円。グランドメニューにもある「小エビのサラダ」などサイドメニューも注文が可能だ。

 面白いのは、フォッカチオ単品をモーニングのみ半分に切って提供していることだ。フォッカチオに、ほうれん草のソテー、小エビのサラダミルクジェラートなどを挟み、オリジナルのパニーニを作って食べる提案を行っている。

 同店は、都営新宿線大島駅に近く、団地の1階にある。平日の朝はパラパラと10組くらいが入っていて、主に団地に住むシニアや出勤前の人が来ているという感じだった。もう少し立地の良い店なら、もっと顧客は入るのではないだろうか。

 「ドンキホーテ後楽園店」(東京都文京区)では、フォッカチオ、チキンサラダハーフ)、ソーセージ4本、目玉焼き、コーンクリームスープティラミスハーフ)、ドリンクバーがセットになった「フォッカチオモーニングセット」(1000円)を提供している。ハンバーグやタラコスパゲッティのセットもある。しかし、サイゼリヤではランチが500~600円、200円を足せばドリンクバーが付けられるので、それほどお得な印象はない。

 両店に共通するのは、注文はモバイルオーダー、配膳はロボット、会計もセルフレジと、従業員がホールで行う業務を削減していること。案内と後片付けと、省力化が進んでいる。少人数でお店が回せるので、モーニング営業をして少しでも利益を積み増せないかと考えているようだ。

●一部店舗で食べられる「寿司モーニング」も

 回転すしでは、はま寿司が2023年10月から、試験的にモーニングを実施している。現状では33店で実施中だ。

 「まぐろ」「サーモン」などのすしを中心に、しょうゆ味の「朝ラーメン」は363円。「きつねうどん」が319円などサイドメニューも充実している。朝限定のおかず「焼きさば」は319円、朝限定価格のコーヒー(温・冷)はSサイズ110円、各種酒やスイーツなどもそろえた。なお、大塚駅前店のみは上記の価格と若干異なるが、実際に行ってみると、大きな違いはなさそうだ。

 朝からすしをがっつり食べたい人のみならず、ラーメンもあるので朝ラーの需要にも対応している。朝だけ提供するメニューもあるのは注目度が高い。

 「喫茶室ルノアール」は東京の繁華街でよく見かける高級チェーンだが、正午までモーニングを提供している。従って、早めのランチとしても使えるようにしている。ドリンク代に追加する形で4種類からメニューを、1ドリンクで2つまで選べる。それぞれ、厚切りトースト、ハムタマゴトースト、ハムキュウリサンド、照り焼きチキンサンドを中心にしており、80~270円とリーズナブル。2つも注文すれば、相当なボリュームがある。コーヒーとのセットで1200円程度なので、レンタルオフィスインターネットカフェテレワークをするより、お得感を感じさせる。場所を選べば、雰囲気は静かで快適だ。

●朝から晩まで「モーニング」を提供するチェーンも

 朝から晩までどの時間に行っても、モーニングが食べられるのが、ファミレスの「ジョイフル」だ。正確には午前5~10時に提供する「おてごろモーニング」と、いつでも注文できる「まんぞくモーニング」の2種類がある。後者は5種類あっていずれも1000円未満、全品ドリンクバー付きだ。今時、深夜にこの価格で、飲み物まで付くメニューはなかなかないだろう。

 ファミレスココス」では一部店舗で30種類以上のメニューを取りそろえたバイキングモーニングを提供している。毎日実施する店舗と休日のみの店舗に分かれ、90分制で利用は午前11時30分まで。価格は店によって異なるが、1200円までに収まる。

 牛丼各社は、そろって安価だ。吉野家の「朝牛セット」は並盛牛丼552円に加えて、生玉子など5つの小鉢から1つを無料で選べ、みそ汁が付く。すき家は「牛まぜのっけ朝食」がご飯並盛420円。牛皿の小鉢、温玉とオクラ、削り節、みそ汁が付く。

 松屋の「とろっとたまご丼」は、丼鉢に入ったご飯の上に玉子焼が乗っている。漬け物、海苔、みそ汁が付いて400円。「得朝牛皿定食」も400円。系列の「松のや」や「マイカリー食堂」でも朝食メニューを提供している。「なか卯」はご飯に生卵、漬け物、のりとみそ汁が付いた「こだわりたまご朝食」が290円。これらのチェーンは鮭、納豆などが付いた、日本人好みな朝食もワンコイン程度で提供しており、客層の間口が広い。

 夏の期間限定で、ガストモーニングでうな重を提供している。お吸い物、漬物付きで1500円を切る価格となっており、リーズナブルだ。どれだけのニーズがあるのか、注目される。また、うなぎ2倍で2000円を少し超えるメニューもある。

 こうして見ると、忙しい通勤・通学前に軽く朝食を済ませたいとき、休日やテレワークでゆったり過ごしたいとき、シニアのコミュニティとして機能する場合など、さまざまなターゲットに対して各社がモーニングメニューを提供している。ライフスタイルに応じて、モーニングを自由に選べる時代となっており、今後の進化が楽しみだ。

(長浜淳之介)

「朝サイゼ」を始めた大島ピーコックストア前店(筆者撮影、以下同)