幹部の若返りを進める共産党だが、高齢化の一途を辿る支持者との距離を広げる結果にもなっている
幹部の若返りを進める共産党だが、高齢化の一途を辿る支持者との距離を広げる結果にもなっている

自民・公明の与党が歴史的な大惨敗を喫した参院選。2009年の政権交代以来、実に16年ぶりに衆議院、参議院ともに少数与党へと転落した選挙戦での「敗者」は誰か、と問われれば、いの一番に国民から厳しい審判を下された政権を率いる石破茂首相の名前が挙がるだろう。自民党内から早くも退陣論が噴出し、「石破降ろし」の動きが顕在化していることからも明らかだが、政権与党の大惨敗の影に隠れる「敗者」が別にいる。いわゆる「リベラル勢」だ。

「護憲」を掲げ、かつては野党第一党の党勢を誇った社民党は、辛うじて政党要件を維持するていたらく。旧民主党リベラル勢の系譜を継ぐ、立憲民主党も議席の上積みはならず、比例代表の得票数は4位だった。なかでも日本共産党は改選前の半分以下となる3議席の確保にとどまった。なぜ、日本のリベラルはここまでも支持を失ったのか?

【写真】党に体制刷新を求めた自民党青年局

■共産党は自民党以上の減退

「衆院に続き参院でも自公を少数に追い込む結果となることを心から歓迎する」。参院選の大勢が判明した20日夜、共産党の田村智子委員長は党本部の会見で声を弾ませた。32の1人区で候補者を17に一本化した、立憲民主党との選挙区調整に触れ、「多くの選挙区で自民党に打ち勝つという情勢を作ることができている」と手応えを口にした。同20日夜、「比較第一党の責任、国家の責任を決して忘れてはならない」と早くも続投に意欲を見せた石破首相には、「厳しい審判が下った」と辞任を迫った田村氏だったが、自党の結果には言葉少なだった。

「今回の参院選で与党が大きく票を減らしたことは事実ですが、共産党は自民以上に手痛い結果となりました。東京選挙区では党の若手ホープである吉良佳子氏が手堅く3選を決めましたが、投開票から一夜明けた21日には党本部が京都、埼玉の現有の議席を失い、改選4議席から2議席に半減させました。比例投票先で野党トップに浮上した参政党の躍進とは対照的で、党勢減退を印象づける形となってしまいました」(全国紙政治部記者)

共産党は、比例代表で「得票数650万票、得票率10%、5議席獲得」を目標に掲げてこの選挙を戦った。しかし、結果は得票数では目標の半分に満たない約286万票、得票率は4・84%にとどまり、前回(2022年)参院選の約362万票(得票率6・82%)、2024年の総選挙の約336万票(同6・16%)からさらに後退する結果となっている。党勢の減退に歯止めがかからない状態が続いている。

共産党は昨年、志位和夫氏から田村氏に委員長職が引き継がれ、新体制となって新たなスタートを切っていた。2000年から24年にわたって委員長を務めた志位氏には、党の内外から硬直的な組織体制に対して「独裁」などの批判がつきまとっていたが、「党の顔」が女性の田村氏に替わったことへの期待は大きかった。

しかし、「党員の高齢化」などの影響もあり、党員数は1990年の約50万人をピークに、2020年には約27万人にまで減少。党の財政基盤を支える機関紙「赤旗」の購読者数は、1980年355万人から2020年には約100万人に落ち込んでいる。

党勢低迷の原因として、「戦後間もない時期の『暴力革命路線』の印象がいまだに拭えず、『共産党アレルギー』が国民の間に根強くあるのも一因」(前出の政治部記者)との指摘もある。その一方で、今回の参院選に加え、昨年の衆院選での与党大敗の呼び水となった「裏金問題」追及の担い手となったのは共産党に他ならない。政界浄化の「功労者」として国民の支持を集めてもよさそうなものだが、逆に支持を失っているのが現実だ。

■排外主義に侵食されるリベラル勢

参院選の結果を「国民からの最後通牒」として党に体制の刷新を求めた自民党青年局
参院選の結果を「国民からの最後通牒」として党に体制の刷新を求めた自民党青年局

ただ、今回の参院選の結果を概観すると、共産党のみが苦境に立たされているわけではなく、退潮傾向がリベラル勢力全体に及んでいることがわかる。

1955年から93年まで続いた「55年体制」で野党第1党に君臨し、自民党新党さきがけとの「自・社・さきがけ」連立政権の一角も担った社民党は、タレントのラサール石井氏を比例区に擁立。なんとか公選法上の政党要件を満たす「有効投票2%」の防衛ラインを維持し、「政党消滅の危機」は免れた。

さらに、今後の政権交代も視野に躍進への期待がかかった立憲民主党は、改選22議席からの上積みはならず、比例代表の得票数は新興勢力の参政党国民民主党にも及ばず野党3位にとどまり、伸び悩みを印象づけた。

共産、社民、立憲の3党ともに党員の高齢化は共通課題となっているが、各党それぞれが今日の支持離れにつながったとみられる内在的問題も抱えている。

野党の事情に詳しい選挙コンサルタントはこう語る。

「共産への支持が社会全体に広がっていかないのは、『反共』プロパガンダを推し進めた米国による戦後の占領政策やソ連崩壊、東西ドイツ統一などの歴史的な流れもあります。ただ、それ以上に硬直化した組織体制が自壊を招いている側面も多分にあるでしょう。

読売新聞の主筆を長年務めた故・渡辺恒雄氏もかつて党員でしたが、党の運営を巡る執行部との対立で離党している。批判分子を排除する強権的な体質は田村委員長の体制になって改善されるかと思いきや、就任早々に開かれた2024年1月の党大会で党首公選導入を訴えた党員の除名処分に異論を唱えた出席者を糾弾し、『パワハラだ』と批判を浴びたのは記憶に新しいところです」(選挙コンサル)

さらに、社民党の凋落に関してはこう分析する。

「社民の場合は、前身の社会党で長年の宿敵だった自民党と連立を組んでしまったのが『終わりの始まり』でした。村山富市内閣で権力を手中に収めた代償として、日米安保や原発の容認、自衛隊の合憲などそれまでの党是を大きく転換し、それまで党を支えてきた支持者の信頼を失った。

その旧社会党の流れを引く一部が旧民主党に加わりましたが、左派と右派が同居する寄り合い所帯でのガバナンス不全が党の崩壊を招きました。その轍を踏まないよう結党した立憲ですが、旧民主党の緩い体質は残ったまま。自民のような党内の異論を封じ込める政党規律がないことが支持者に見透かされているのではないでしょうか」(前出の選挙コンサル)

それぞれの政党の課題はあるにせよ、見逃せないのは党の枠を超えて、リベラル勢に対する風当たりが強まっていることだ。SNSなどでは、かねてより一部のリベラル勢に対して「左翼」をもじって「パヨク」と揶揄するような投稿が相次いでいたが、リベラル勢に与(くみ)するような書き込みをする人たちに対する誹謗中傷まがいの人格攻撃は参院選前後でさらに激化している。

リベラル勢力全体への風当たりが強まっているのは、排外主義の広がりと無縁ではないでしょう。今回の選挙では、野党各党が、消費税の減税や社会保険料の見直しなど、国民負担の軽減を争点に据えました。民主党政権で消費税の10%への引き上げ方針を決めた財政規律派の野田佳彦氏が党首を務める立憲も、原則1年間の『食料品消費税ゼロ』の公約を掲げて選挙戦を戦いました。どの党も物価高対策として財政出動を進めるという意味では、大差なかったと思いますが、外国人問題への対応に明確な違いが出たと言えるでしょう」(前出の政治部記者)

「日本人ファースト」を掲げるなど、外国人排斥につながるような際立った主張が批判を浴びた参政党に注目が集まりがちだが、比例代表の得票数で野党1位に躍り出た国民民主党も外国人に対して「融和的」とは言えない政策が目立っていた。

「国民民主は、外国人による短期転売への課税強化など、都市部での住宅価格高騰を念頭に置いた政策を打ち出していました。ほかにも選挙戦では、外国運転免許の切り替え制度の見直しや、外国人の短期滞在者による健康保険の不正利用が問題視されている健康保険制度、訪日外国人に対する課税強化につながる観光税や消費税免税制度の見直しなども訴えていました。

どれもXなどのSNSで炎上しがちなトピックです。現役世代の支持を受けやすい政策に狙いを絞っている党の方針を考えると、社会に蔓延する外国人への反感をすくい上げて政策に落とし込んだ戦略が垣間見えます」(同)

興味深いのは、最も強硬に「外国人排除」を打ち出している参政党が、従来、リベラル勢力を支持していたとみられる層も取り込んでいる様子がうかがえる点だ。

参政党は過激な外国人排斥の主張のほか、国防政策でも核武装先制攻撃の容認など憲法9条の否定にもつながる『極右』とも呼ばれる公約を掲げています。一方で、結党直後には、新型コロナワクチンのリスクを唱えていわゆる『反ワク』勢を支持層に取り込んでいる。

環境への意識が高く、政府への不信感もある彼らは、これまでリベラル勢を支持してきた層でもある。リベラル色の強い『れいわ新選組』の支持層の一部も参政党に流れている。こうした幅広い層からの支持があった点も、参政党が急伸した要因になっているようです」(前出の政治部記者)

選挙戦の最中には、カリスマ的な人気のあるロックバンド「ブランキージェットシティ」のフロントマンを務めたミュージシャンの浅井健一氏がX上で、参政党の支持を表明して物議をかもした。リベラル勢力に親和性のあるロックファンから非難の声が上がり、炎上騒動にまで発展した。従来の〝常識〟が覆されたことへのリベラル勢からの戸惑いが背景にあったとみられる。

今回の参院選は、さまざなイデオロギーがその境界を失った重要な分岐点として、歴史に刻まれることになるのかもしれない。

文/安藤海南男 写真/山添拓Xアカウント、自民党青年局Xアカウント

幹部の若返りを進める共産党だが、高齢化の一途を辿る支持者との距離を広げる結果にもなっている