「気づけばまた同じことを考えていた……」「なぜ私はいつもこうなんだろう」

そんなふうに、日常のふとした瞬間に自分を責めるような思考に陥ってしまう経験は、多くの人に覚えがあるかもしれません。

では、なぜ私たちは意図せずしてネガティブな思考に引き込まれてしまうのでしょうか?

その心理的なメカニズムを、早稲田大学などの研究チームが最新の研究で明らかにしました。

本研究は、いつの間にか起こる「マインドワンダリング(心の迷走、思考のさまよい)」が、私たちの不安や抑うつにどう影響するかを科学的に検証したものです。

その結果、「何気ない考えごと」が心の健康を蝕む入り口になるという驚きの事実が浮かび上がったのです。

詳しくみてみましょう。

研究の詳細は2025年7月1日付で学術誌『Scientific Reports』に掲載されています。

目次

  • 気づかぬうちに「自己否定」へ導かれるマインドワンダリングとは?
  • 「反すう」と「心配」の連鎖が「不安・抑うつ」を深める

気づかぬうちに「自己否定」へ導かれるマインドワンダリングとは?

「マインドワンダリング」とは、何かに取り組んでいる最中に、意識が外れて他のことを考えてしまう心理現象です。

たとえば、仕事中に突然昨日の失敗を思い出したり、家事をしながら明日の不安を思い浮かべたりするあの状態もマインドワンダリングの一例です。

これまでの研究では、マインドワンダリングは注意力を下げたり、集中力を乱したりするだけでなく、不安や抑うつにも関わっていると指摘されてきました。

しかし一方で、空想や妄想を含むマインドワンダリングは創造性の源にもなることから、「良いマインドワンダリング」と「悪いマインドワンダリング」があるのではないかとも考えられていました。

たとえば、マインドワンダリングには「自分から考える意図的なもの」「いつの間にか考えてしまっている非意図的なもの」があり、また内容的にも「ポジティブ・ネガティブ」「過去・未来」「具体的・曖昧」の区別があります。

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Credit: canva

そこで研究チームは今回、マインドワンダリングの「意図の有無」と「内容の特徴」に着目し、それぞれが心の健康にどう影響するかを詳しく調べました。

実験では大学生を対象に、数字を見てキーを押すという単純な課題を行わせながら、途中で被験者の思考内容を何度も問いかけました。

被験者が考えていた内容が「意図的」か「非意図的」か、さらに「ポジティブかネガティブか」「過去か未来か」「具体的か曖昧か」といった分類をもとに、その思考がどのように心に影響するかを解析。

すると、心の不調に関係するのは「意図的な思考」ではなく、無意識に入り込んでくる非意図的なマインドワンダリングであることが明らかになりました。

しかもその内容が、ネガティブで、未来志向で、曖昧なものであればあるほど、心に悪影響を及ぼす可能性が高くなるのです。

「反すう」と「心配」の連鎖が「不安・抑うつ」を深める

さらにチームは、マインドワンダリングが直接的に心の病を引き起こすわけではなく、ある“思考の癖”を通じて悪影響を及ぼすことを突き止めました。

その思考の癖とは、「反すう(Rumination)」「心配(Worry)」です。

反すうとは過去の後悔を何度も思い返してしまう傾向で、心配とはまだ起きていない未来の出来事に対して過剰に備えようとする考え方です。

どちらも自己否定的な思考に陥りやすく、不安や抑うつと深く関係しています。

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チームは「マインドワンダリング → 反すうや心配 → 不安や抑うつ」という因果の連鎖モデルを構築し、解析を行いました。

その結果、非意図的なマインドワンダリングが「反すう」や「心配」の頻度を高め、最終的に不安や抑うつの強まりにつながるという構造が見えてきたのです。

とりわけ、未来に対するネガティブな考えが「心配」を増やし、そこから不安症状へと発展するルートが強く確認されました。

一方で、過去の後悔を繰り返す「反すう」は、直接的に不安や抑うつを引き起こす力が弱いこともわかりました。

興味深いのは、意図的なマインドワンダリングについては、これらの悪影響が見られなかったどころか、むしろ「心配」を減らす方向に働く可能性が示された点です。

つまり、自分の意志で未来を具体的に想像したり、ポジティブな思考に意識的に向けたりすることは、むしろ心の健康にプラスに働く可能性があるということです。

意図せぬ「ぼんやり思考」があなた自身を責めていた

今回の研究は、日常のなにげない「ぼんやりとした思考」が、気づかぬうちに私たち自身を追い詰めるメカニズムを明らかにしました。

それは単に集中力が途切れていたのではなく、自己否定のきっかけとなる心の自動運転だったのです。

もしあなたが最近、理由もなく不安や落ち込みを感じているなら、その背後には「ネガティブで未来的で曖昧な考えごと」が潜んでいるかもしれません。

そんなときは、自分がどんな思考にとらわれていたのかに気づき、「これは反すうかも」「これは心配しすぎかも」とラベルを貼って手放すことが大切です。

そして、意図的にポジティブな未来を思い描く時間を持つことも、自己否定のループを断ち切る第一歩になるのです。

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参考文献

いつの間にか自己否定─意図しない考え事が不安や抑うつにつながる仕組み─
https://www.waseda.jp/inst/research/news/81642

元論文

The chain mediation effect of rumination and worry between the intentionality and content dimensions of mind wandering and internalizing symptoms of depression and anxiety
https://doi.org/10.1038/s41598-025-99249-5

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

いつの間にか「自己否定」してしまう人の思考の特徴が明らかに