
マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)待望の新作「ファンタスティック4 ファースト・ステップ」(公開中)。本作でスー・ストーム/インビジブル・ウーマンとジョニー・ストーム/ヒューマン・トーチの日本版声優を担当する坂本真綾と林勇が、作品の核となる「家族」の物語としての魅力、そして「やりすぎない」自然体を意識したという役作りへのこだわり、さらには2人が自身の人生で直面した「強敵」について語り合った。(取材・文:磯部正和)
マーベル・コミック最古のヒーローチームであり、その後の多くのヒーローに影響を与えた「ファンタスティック4」を描いた本作。天才科学者リード・リチャーズとその仲間たちは、宇宙でのミッションで起きた事故によって特殊能力を得る。ヒーローである以前に、彼らは一つの"家族"。予告編でも示唆されたスーの妊娠という大きな出来事を経て、彼らはチームとして、そして家族として、宇宙から迫りくる強大な敵に立ち向かっていく。
●新しいのに懐かしい "ヒーローの日常"を描く新たなマーベル作品
――完成した作品をご覧になった率直な感想をお聞かせください。
坂本真綾(以下、坂本):吹替版の試写を観させていただいたのですが、自分が演じた部分が「(バネッサ・カービー演じるスーの)演技にフィットしているかな」といった不安もさておき、仕事だということを忘れて純粋に作品にのめり込んでしまいました。観終わった後、自分も自然と笑顔になっているような、後味がすごく心地よくて。本当に良い作品に巡り会えたなという喜びでいっぱいです。
林勇(以下、林):僕もシンプルにずっと楽しめて、あっという間に終わってしまったというのが最初の印象です。マーベルの魅力の一つである、特殊能力を使ったキャラクターたちの活躍はもちろん、それだけではなく人間のドラマもしっかり濃く描かれていて、マーベルの中でもまた新しい作風の物語なんだろうなと実感しました。
――声優として、スー役のバネッサ・カービーさん、ジョニー役のジョセフ・クインさんの演技からは、どのような印象を受けましたか?
坂本:これは吹替えキャストの間で共通していた認識だと思うのですが、ステレオタイプなヒーロー像は求められていないと感じました。俳優さんたちも、そういった演技を目指していたのかなと。いわゆるマッチョなヒーローではなく、ごく普通の人だった彼らが、ある日突然、地球を守るという大きな使命に立ち向かうことになる。だからこそ、その"普通の感覚"を大事にして、大げさに演じるのではなく、むしろ「(大役を)任されすぎて恐縮です」くらいの空気感を感じました。「マーベルやヒーローの先入観を持たずに演じてほしい」という意図を感じました。吹き替えでも、やりすぎず、自然な家族の会話を意識して、ヒーローの日常のような雰囲気が出せたらいいなと思っていました。
林:僕も本当に同じ印象です。あまり誇張せず、その場所で自然に家族の会話が行われているような温度感が求められているのだろうなと思いながら収録しました。僕が演じたジョニー役のジョセフ・クインさんは、本当に良い意味で自然体なんです。作中ではコミカルな部分を担ったりするキャラクターですが、そのコメディの温度感、さじ加減が絶妙ですごいなと。「ザ・コメディ」という感じではなく、その場の空気感の中でさらっとユーモアを出す。それが観ていて非常に心地よかったので、彼のお芝居を濁すことなく、日本の演者としてそのお芝居を預かれたらな……という気持ちで臨みました。
●母になるスー、叔父になるジョニー ""家族"の成長物語
――本作は「家族」というキーワードが大きなテーマになっています。スーが母親になるという選択をすることも含め、「家族の物語」として感じた見どころや、それぞれのキャラクターの魅力について教えてください。
坂本:スーは子どもを授かるわけですが、どんな人でも、子どもを授かった瞬間から無事に生まれるまでは、数えきれない不安や色々な感情が押し寄せるものです。それは、スーが特別なヒーローであっても同じなんですよね。特に、自分たち夫婦は特殊な能力を持っていて、生まれてくる子に何が起こるか誰にも分からない。それでも「子を持ちたい」と望み、「何としてでもこの子を守る」と徹する姿は、世の中のすべての母親の気持ちと全く同じだと思います。その覚悟が、元々強かったスーを、さらに深い強さを持つ女性へと変えていく。これまでもみんなを守るヒーローでしたけど、「自分の大事な子供や家族を大事にできずして人類は守れない」「身近な人を愛せずして世界を愛することはできない」という彼女の姿が、私にはすごく腑に落ちました。戦いながら子どもを産むなんて心配事しかありませんが、その覚悟には胸を打たれました。
林:実は僕も境遇が似ていて、姉に4人の甥っ子と姪っ子がいる叔父なんです。だから僕の方がちょっと先輩なんですけど(笑)。ジョニーは家族4人の中では一番年下で、良い意味で何をしても許される、甘えん坊な部分があったと思うんです。しっかり者のスーは叱ってくれるし、リードとベンは何をしても許してくれそうな包容力がある。その中で好き勝手やっているのも、彼の甘えの一つだったのかもしれません。でも、スーのお腹に子どもができて、自分が「しっかりしなきゃいけない」という立場にあることを感じ始めている。
彼の中に、ある種の自立心が芽生えたんでしょうね。元々、彼にも責任感や世界を助けたいという強い使命感はあったと思いますが、姉に子供ができたことで、その子も守り、家族をサポートしなきゃいけないという思いがより強くなった。作中の終盤ではジョニーの成長が感じられる部分があるので、ぜひ注目してほしいです。
――林さんはご自身のキャラクターがジョニーに近いとのことですが、リード、ジョニー、ベンの3人の中では、やはりジョニーに一番共感しますか?
林:そうですね、ジョニーです。僕も好奇心旺盛で、何かにハマると没頭するタイプ。作中で彼が調べたいものを見つけて集中するシーンがあるのですが、そういう凝り性な部分は似ているかもしれません。それに、僕も割と明るい性格なので、彼の壁のないフリーダムな雰囲気は、少し似ている部分があるのかなと感じますね。演じていて、とても乗っていけるキャラクターでした。
●人生最大の"強敵"は、我が子と自分自身
――ファンタスティック4は強大な敵に立ち向かいますが、お二人がこれまでの人生で「これは強敵だった」と感じた出来事やエピソードはありますか?
坂本:強大な敵は……常に自分の子どもですね(笑)。本当に"未確認生物"で、日々形態も変わるし予測不能。フェーズがどんどん変わっていって……(笑)。イヤイヤ期とか、色々進化もしていますし。もちろん本当の敵ではないですけれど、戦いは日々繰り広げられている状態ですね(笑)。
林:なんだろうなあ…。僕は子役からこの仕事をしていますが、食べていけるようになったのが28、9歳くらいからで、20年以上は食べていけなかったんです。その点で言うと、強大な敵は「自分自身」でした。とにかく負けないで頑張り続けるという忍耐力が必要だったので、常に自分と戦っている感覚は今でもあります。果てしなく続く感じですね。でも結局、根底に「楽しいな」と思える部分があるから、続けてこられたんだと思います。
――「アベンジャーズ ドゥームズデイ」に続く本作ですが、今後と言う意味では、この作品からどんな期待を受けましたか?
坂本:観終わった瞬間から、次が楽しみでしょうがない……という作りになっているんです。終わったというよりむしろ始まった……みたいな(笑)。映画のなかではファンタスティック"4"だったのですが、子どもがもう一人増えるっていう状態になっていくわけですから、その新体制での彼らがどうなっていくのかなっていうのはすごく楽しみです。
林:僕は、中学校ぐらいからマーベルのゲームなどにハマって、ずっとやっていたんです。だからシンプルに、まずジョニーっていう役をいただいて、今後スパイダーマンとかウルヴァリンとか、色々なキャラクターと、もしかしたら融合して作品を作れるのかも……なんて考えるとめちゃくちゃ興奮しますよね。夢が広がります。
――最後に、公開を楽しみにしているファンの皆さんへ、メッセージをお願いします。
坂本:マーベル作品はたくさんあるので、「観たいけど、どこから観ていいか分からなかった」という人もいると思います。この作品は「どうぞ、いらっしゃいませ」という感じで、すごく分かりやすく、入りやすい作りになっているので、そういった方にもぜひ足を運んでいただきたいです。また、60年代のレトロフューチャーな世界観がすごくおしゃれで、今の若い世代には映像が「可愛い」「エモい」と感じてもらえるでしょうし、上の世代は「懐かしい」と感じられる。幅広い人に楽しんでいただける作品です。
林:家族としての絆がどう描かれるかはもちろん、マーベルらしく、特殊能力を持った4人がその能力をどう駆使して強大な敵に立ち向かうかという部分も、言わずもがな見どころです。その大迫力のバトルシーンも、ぜひ映画館で楽しんでいただけたら嬉しいです。

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