
「温暖な気候」「物価の安さ」「老後の楽園」――そんな言葉に魅せられ、海外移住を決意する日本人富裕層は少なくありません。しかし、現実は甘くありませんでした。不動産投資の失敗、医療や文化の壁、ビザ制度の変化……理想のはずだった移住生活が、破産寸前の窮地に変わるケースが続出しています。夢を追った先に待っていたのは、想像を超える過酷な現実でした。移住の落とし穴、その実態に迫ります。
「移住=楽園」は幻想…日本人富裕層の転落ストーリー
温暖な気候と比較的安価な物価で日本人に人気のマレーシア移住ですが、リスクを甘く見た不動産投資は思わぬ落とし穴となることがあります。特に、シンガポールに隣接するジョホール・バルという都市では、大規模開発「イスカンダル計画」への期待から、複数の日本人投資家が高額なコンドミニアムを購入しました。
しかし、当初見込んでいた家賃収入が得られず、売却も難航し、結果としてローン返済に苦しむケースが少なくありません。たとえばAさん(50代男性)の場合、月々のローン返済が約40万円に対し、得られる家賃収入は15万円ほど。毎月赤字が続き、破産寸前まで追い込まれてしまいました。不動産投資は資産を失うリスクにとどまらず、多額の借金を抱える可能性もあるため、十分な下調べと慎重な判断が何よりも大切です。
穏やかな老後を海外で過ごそうとするも…
海外での暮らしでは気候や食生活、文化の違いに適応することが欠かせません。しかし、そのギャップに戸惑い、精神的なストレスを抱えてしまう人も少なくないのが現実です。Bさん(65歳・女性)ご夫婦も、マレーシアでの穏やかな暮らしに憧れて移住を決意されたものの、現地のマナーや文化の違いに戸惑うことが多かったといいます。さらに、英語が通じにくいこともストレスの一因となりました。
特に大変だったのは、ご主人が重い病気を患ったときのことです。現地の医療の質に不安を感じたため、最終的には一時帰国し、日本で治療を受けることになりました。加えて、物価の上昇や生活費の負担も重なり、移住から3年が経った頃、日本に本帰国することに決めました。異文化への適応力や万が一のときの医療体制の確認は、海外移住を考える上で、事前にしっかりと行っておくことが大切です。
開業資金1,500万円を失い、日本での再就職も苦戦
海外でビジネスを始める際には、文化の違いや慣れない環境のなかで、思いがけない壁に直面することもあります。Cさん(40代・男性)は東南アジアのある国で日本食レストランをオープンしましたが、現地の法規制や手続きの煩雑さ、スタッフ管理に苦労し、わずか1年半で閉店を余儀なくされました。開業資金として投入した1,500万円の貯金はすべて失い、日本へ帰国したあとも再就職に苦労しているようです。
海外でのビジネスを成功させるためには、現地の商習慣や法制度についてしっかり理解しておくことはもちろん、予期せぬトラブルにも対応できるような、資金面や気持ちのゆとりも大切です。
ビザの更新ができず、70代で帰国を余儀なくされた
長期滞在ビザの条件変更は、思いがけず帰国を余儀なくされるリスクがあります。たとえば、マレーシアのMM2Hビザは固定預金の要件が約900万円から3000万円程度へと突然引き上げられるなど、制度の厳格化が進んでいます。
Dさんご夫妻(ともに70代)はマレーシアに10年間暮らしていましたが、この条件変更によって旧式ビザの更新ができるのかどうかが不透明だったこととコロナも重なり、やむを得ず長年住み慣れた家を引き払うことに。家具などの家財道具もすべて処分して、日本に帰国しました。
ビザの条件は今後も変わる可能性があります。常に最新の情報を確認しながら、いざというときにも慌てずに対応できるよう、心づもりをしておくことが大事です。
海外生活で失敗しない3つのポイント
これまでの失敗事例からわかるのは「海外移住は単なる憧れや楽観的な見通しだけで成り立つものではない」ということです。移住を成功させるためには、次の3つのポイントが重要です。
(1)徹底した事前調査と準備
現地の法律や文化、生活環境、医療体制などについてしっかりと理解し、できるだけ具体的な生活イメージを持っておくことが重要です。資金面では最低でも3年分の生活費を確保するなど、余裕を持った計画を立てておくと安心です。
(2)「身の丈に合った生活」を意識する
たとえば、ドバイで「億り人」となったEさん(30代前半・仮想通貨トレーダー)は、華やかな生活を続けるうちに資産が急速に目減りし、思わぬ苦境に陥りました。日本では仮想通貨のキャピタルゲインに最大55%の課税があるため、節税を目的にドバイへ移住するのは理にかなっているともいえますが、収入の柱が不安定なまま散財を続けてしまうと、あっという間に生活が立ち行かなくなります。実際にドバイで長く安定して暮らしている富裕層は、堅実なライフスタイルと安定したビジネス収入を重視しています。高リスクの投資にも、慎重な判断が必要です。
(3)帰国という選択肢も視野に入れておく
どんなに入念に準備しても、現地での生活がうまくいかないこともあります。そんなときのために、いつでも日本に戻れるような帰国プランをあらかじめ考えておけば、気持ちにも余裕が生まれます。
海外移住は、人生を豊かにする素晴らしい選択肢です。しかし、そのためには十分な準備と現実的な視点が不可欠。安易な憧れだけで決断せず、現地の短期滞在を経験したり、言語学習に取り組んだり、現地日本人コミュニティと連携したりするなど、段階を踏んで慎重に進めることが成功への鍵となるでしょう。

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