厚生労働省によると、シングルマザーの「4人に1人」が実家で親と同居しているそうです。子どものためにも親に頼ることは否めない部分がある一方、最悪の場合は親子ともに“共倒れ”に陥る危険性もあります。具体的な事例をもとに、金銭が絡む親子関係の難しさとトラブルを避けるための対策をみていきましょう。株式会社FAMOREの山原美起子CFPが解説します。

シングルマザーの「4人に1人」が実家住まい

厚生労働省の「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果」によると、シングルマザーの4人に1人は実家で親と同居しているそうです。

シングルマザーにとって、実家は重要なセーフティーネットであり、“心の拠りどころ”となることも多いでしょう。

しかし、親の支えは時に「依存の構造」を生みだしてしまうため注意が必要です。

離婚を機に実家に帰省した夏美さん

夏美さん(仮名・40歳)は、離婚を機に息子の航くん(仮名・10歳)を連れて大阪の実家に戻りました。ともに教師だった69歳の父と66歳の母は、戸建ての持ち家と月38万円の年金で穏やかな老後を送っており、離婚のストレスや不安で疲弊していた夏美さんを温かく迎え入れてくれました。

「落ち着くまでここにいなさい。お前の部屋もそのままだよ」

夏美「心配かけてごめん……しばらくお世話になります」

はじめは家事を手伝いながら、求人広告に目を通す様子もみられた夏美さん。しかし、経済的な不安のない実家での暮らしに慣れると働く意欲は薄れ、家事もしだいに母任せとなっていきました。

立ち直るどころか、「宿題を見て」とねだる息子にすら「おばあちゃんに教えてもらいなさい」と面倒くさそうな素振りをみせる始末です。

そのような生活が1年ほど続いたある日のこと。外出先から戻った父は、母に頼まれていた夕食の準備もせずスマホで動画を見ている夏美さんの姿を見て、堪忍袋の緒が切れました。

夏美、いい加減にしろ!

初めて聞く父の怒声に、夏美さんは絶句。リビングは静寂に包まれました。

静寂を破った父の言葉

「……いつまでこんな生活を続けるつもりだ? 父さんたちがいなくなったら、航と2人でやっていけるんだろうな。お前に立ち直ってほしい一心で支えてきたが……がっかりだよ。少しは安心させてくれ」 「申し訳ないけど、お父さんの言うとおりよ。実は今日、あなたが今後困らないためにはどうすればいいか、専門家に相談してみたの。助けを借りて一緒にがんばってみない? いまのままだと、きっと後悔するわ」

10年以内に迫る「家計破綻危機」

娘との同居で出費がかさみ、「いまの生活を続けて大丈夫だろうか」と不安を抱いた両親は、FPに家計診断を依頼していました。

シミュレーション結果は「10年以内に家計破綻のリスクがある」という厳しいもの。両親がFPに対し、「家計や援助の仕方を見直します。娘を見放すことはできませんから、自立できるよう協力したい」と伝えると、FPは次のように言いました。

FP「自立の基本は娘さんが“働いて収入を得る”ことです。母子家庭にはさまざまな就労支援がありますから背中を押してあげてください」

ブランクがあっても大丈夫…自立に向けた「4ステップ」

1.情報を得る(役所の窓口など)

自治体によっては、専門家の「ひとり親家庭サポーター」が情報提供やきめ細かな相談支援を行っています。まずは役所の窓口で「相談する」ことから始めましょう。

2.仕事を探す(ハローワークなど)

夏美さんのように「ブランクがあって……」という人でも、ハローワークでは再就職支援制度や就労支援プログラムが充実しています。また、育児との両立に不安がある場合は「マザーズハローワーク」で子育て世代に配慮した求人紹介や相談を受けられます。1人で悩む必要はありません。

3.資格を取る

「履歴書に書けるスキルがない」という人は、「資格取得」によって就職の選択肢が広がります。

たとえば、「自立支援教育訓練給付金」を使って資格を取れば、受講費用の60%(最大20万円~160万円、講座により異なる)が支給されます。費用面で躊躇される人にもおすすめです。 ※資格取得後に就職した場合、最大85%(上限240万円)が支給される講座もあり。

ただし、「簡単そうだから」という理由だけで資格を選ぶことは避けましょう。時間とお金を無駄にしないためにも、「事務職を目指すからパソコンスキル」「不動産業界で働きたいから宅建」など、自分が希望する仕事に必要な資格を選ぶことが望ましいです。

4.助成制度を利用する

安定した収入を得られるまでは、各種助成制度を積極的に活用しましょう。

シングルマザー向けの代表的な手当が「児童扶養手当」です。2025年4月分から手当額が2.7%引き上げられ、対象児童が1人の場合は最大で月額4万6,690円の支給となります。

ただし、両親と同居している場合、両親に一定の収入があると手当が減額または停止されることがあります。支給額と同居のメリットを比較して最適な選択をしましょう。

そのほか、「医療費助成」や「交通機関の割引制度」などがありますが、多くの制度は申告制です。申請しなければ支援を受けることはできません。利用できそうな制度の手続きを進めましょう。

FPのアドバイスを聞いた両親は、支援制度の充実具合に驚き、早く娘に伝えてやりたいと帰路につきました。

普段温厚な父が娘を一喝したのは「なんとか娘を自立させてやりたい」いう決意の現れでもあったのです。

父に叱られた夏美さんの「その後」

父の怒声が響いたあの夜をきっかけに、夏美さんの生活は一変します。

夏美さんはようやく我に返り、すべての責任から逃避していた自分が恥ずかしく、両親や息子への申し訳なさでいっぱいになりました。

すぐに自治体の相談窓口を訪れ、事務の経験があることを伝えたところ、「自立支援教育訓練給付金」を利用して「簿記2級」の取得を勧められました。

両親とも話し合い、「資格を取得し、半年以内に就職する」「就職後は、毎月家賃と生活費を負担する」「家事や育児を親任せにしない」を条件に、実家暮らしを続けることに。

両親の献身的なサポートのもと、通信教育4ヵ月で「簿記2級」に合格。派遣社員としての再出発も決まり、夏美さんは新たな一歩を踏み出しました。

「父が叱ってくれて、本当によかった。あの言葉がなければ、自分のことが嫌いになっていたと思います。息子の教育費も貯めたいので、今後は正社員を目指します」

離婚“未満”での相談が増加中…制度の活用で、安定した暮らしを

近年は、離婚後に困ってから相談に来る人よりも、離婚を検討する段階で「生活に必要なお金を知りたい」と相談に来る人が増えています。もちろん、シングルマザーになる背景は多岐にわたり、事前に十分な準備ができるとは限りません。

だからこそ、困ったときにはまず支援制度を知ることが重要です。上手に活用すれば自立や安定した生活への近道になります。

親に頼ることが必要な場面もありますが、いずれは支えてくれる親が老いていくという現実も忘れてはいけません。長く支え合える親子関係を築くためにも、家族の支援と制度活用を両輪に、自分の人生を自分の足で歩んでいきましょう。

山原 美起子 株式会社FAMORE ファイナンシャル・プランナー

(※写真はイメージです/PIXTA)