
砂漠に生きる“神聖なる幻のクマ”が姿を現しました。
モンゴル南西部に広がる過酷なゴビ砂漠。
その乾燥しきった大地で、絶滅寸前のクマが静かに生き延びています。
その名は「ゴビヒグマ(学名:Ursus arctos gobiensis)」。
世界で最も希少なクマとされ、その存在はまるで神話のように語られてきました。
そんな幻のようなゴビヒグマが、最新のカメラトラップによってついに映像として記録されました。
しかもその傍らには小さな命、子グマの姿もあったのです。
実際の映像を見てみましょう。
目次
- 世界一希少な熊「ゴビヒグマ」とは?
- カメラに映った“奇跡の親子”
世界一希少な熊「ゴビヒグマ」とは?
ゴビヒグマは、ヒグマの亜種として分類され、モンゴル語では「マザーライ」と呼ばれています。
彼らは、世界各地にいる8種のクマのなかでも最も個体数が少ないとされ、その数はすでに40頭未満ともいわれています。
生息地は、モンゴル南西部の「ゴビ大厳重保護区A区(GGSPA)」と呼ばれる地域で、1976年に設立されたこの保護区のなかのわずか3つのオアシス周辺に限られています。
広大なゴビ砂漠のなかで、わずかな水と食料を求めて移動しながら生活しているのです。
過酷な環境に適応したこのクマは、他のヒグマよりもやや小柄で、毛色は淡褐色から黄褐色、夏には赤みを帯びることもあります。
摂食行動も特異で、主な食料は植物です。
野生のフキやタマネギ、草本類、果実などを中心に摂取し、動物性のタンパク質は全体の1%程度と考えられています。
さらに興味深いのは、ゴビヒグマが極度の水不足に耐えながら生活していることです。
BBCの自然番組『Asia』では、ある個体が水を求めて160kmもの距離を歩き続ける様子が紹介されました。
まさに「生存そのものが奇跡」といえる存在なのです。
古くからモンゴルの人々の間では、ゴビヒグマは神聖な存在とされてきました。
絶滅寸前のこのクマを守るため、近年は政府や保護団体によるモニタリングや密猟防止、水源保全などの取り組みも本格化しています。
カメラに映った“奇跡の親子”
2025年、Apple TV+のドキュメンタリーシリーズ『The Wild Ones』の撮影チームが、ゴビヒグマの姿を捉えるため、ゴビ大厳重保護区の一角にカメラトラップを設置しました。
クマたちがほとんど姿を現さない乾燥地帯での試みは、まさに賭けに近いものでした。
ところが数日後、回収された映像には驚くべき光景が記録されていました。
画面に映っていたのは1頭のゴビヒグマ――だけではなく、そのそばには小さな子グマの姿もあったのです。
実際の映像がこちら。(※ 音量に注意してご視聴ください)
この発見は、研究者や保護活動家たちにとって大きな朗報となりました。
なぜなら、40頭にも満たないとされる個体群の中で、繁殖が確認されることは極めて稀だからです。
子グマが無事に育つことで、わずかながらも次世代へと命がつながる可能性が高まります。
ナレーターのデイヴィッド・アッテンボロー氏は、この映像について「この乾いたアジアの中心部において、彼らは地球上でもっとも過酷な環境に適応した動物となった」と語り、「『ゴビ』とはモンゴル語で『水のない場所』。まさにそれが、彼らの最大の試練なのです」と続けました。
水源が100マイル(約161km)も離れていることも珍しくないこの砂漠で、小さな命を連れて歩く母グマの姿は、見る者に静かな感動を与えます。
“World’s Rarest Bear” Captured On Camera In Mongolian Desert – With A Baby!
https://www.iflscience.com/worlds-rarest-bear-captured-on-camera-in-mongolian-desert-with-a-baby-80194
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
ナゾロジー 編集部

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