世界でも高い技術力を持つことで知られる日本企業。ニッチ分野で目立たないものの、高い技術や世界シェアを持つ企業は少なくない。ドイツの経営思想家のハーマン・サイモン氏はこうした企業を「隠れたチャンピオン」と定義し、経済産業省も「グローバルニッチトップ企業」として支援している。

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 グローバルニッチは高い技術力を持つ一方、バックオフィスに課題を抱えることもしばしばあり、ITの駆使が求められることも少なくない。この連載では、こうした企業のIT戦略や、それを支える企業の声をインタビューで深堀りする。

 第3回は不動産仲介サービスなどを手掛けるTonTon(東京都目黒区)に注目。外国投資家による不動産投資の呼び込みなど海外事業を拡大している同社は、米Forbesの不動産取引プラットフォームと提携し、海外富裕層へのアプローチを強化している。

 TonTonの今川博貴社長に、Forbesのデジタルプラットフォームとの提携の背景を取材した。聞き手は、海外進出する中小企業のブランディング支援などを手掛けるZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)。

●海外富裕層の開拓狙い海外進出

──TonTonは不動産仲介などに携わっています。事業概要を教えてください

今川社長:全国で不動産仲介や賃貸経営の管理事業を手掛けています。2013年8月に創業しました。本社は東京都目黒区で、シンガポールにも支社があります。不動産仲介の対象は、不動産投資を目的とする物件や富裕層向けの“ラグジュアリー物件”です。一般的な投資物件は3000万~3億円で、ラグジュアリー物件は10億円以上のものを取り扱っています。月間で平均80~100の物件を預かり、そのうち20~30%が成約している状況です。

──不動産仲介会社は多くありますが、TonTonの特徴は

今川社長:不動産仲介業者は、複数の不動産会社から物件を紹介してもらい、それを投資家らに紹介するのが一般的です。購入者と不動産仲介業者の間に複数の不動産会社が入ることは珍しくなく、その分、多くの手数料がかかります。しかし、当社は不動産の所有者に直接コンタクトして物件を預かり、投資家などエンドユーザーに紹介しています。間に業者が入らない分、仲介手数料が安くなります。

──バブル経済崩壊後、日本の不動産会社の多くが海外進出に消極的になったように思います。一方でTonTonは23年に海外進出しました。理由を教えてください

今川社長:23年6月にシンガポールの支社を立ち上げました。背景にはアジア諸国の著しい経済成長があります。人口が多い上に平均年齢が若く、潜在成長率の高い同地域では30年までに富裕層の数が北米を上回るとされています。

 バブル崩壊後に価格が低迷してきた日本の不動産価格はシンガポールや香港などと比べて割安です。これに加えて、円安が進んだことから外国人にとって投資妙味がさらに高まりました。

 このため、アジア諸国からの日本の不動産への投資の需要は大幅に増加する見通しです。私たちにもビジネスチャンスが大きいと判断し、進出することにしました。これからは「アジアを制するものは世界を制する」と考えています。

──海外といっても多くの国がありますが、なぜ物価の高いシンガポールだったのでしょうか

今川社長:シンガポールがアジアのハブになっているからです。都心の近くにハブ空港があり、金融大国でお金、人材、情報が同時に流入してきます。このため近隣のタイやインドネシア、フィリピンなどの富裕層を開拓しやすくなります。

 TonTonがアジアのリゾート地などの不動産物件を取り扱うチャンスも生まれます。シンガポールに拠点を構えたことで、アジア諸国の方々が日本の観光資源や不動産を高く評価していることがわかったことも収穫でした。

●Forbesのプラットフォームと組めたワケは?

──25年には米大手メディアForbesが運営する高級不動産プラットフォーム「フォーブス グローバル プロパティーズ」と、日本企業初の独占ライセンス契約を結んだと発表しました

今川社長:知名度の低い中小企業が海外進出するには、海外で著名かつ信頼性の提携先を見つけることが重要です。私もTonTonの知名度だけで海外投資家を開拓するのは難しいと考えました。ただ、連携する海外の不動産会社を見つけるのも容易ではありません。

 また、国内外の投資家の需要が多いラグジュアリー物件仲介事業の業績を伸ばしたいとも考えていました。一連の条件に対し、グローバル富裕層向けの不動産情報をオンライン上で発信するフォーブス グローバル プロパティーズはネームバリューがあり、信頼性も高い理想的な連携先でした。

 ライセンス契約は25年5月から正式にスタートし、すでに50件を超える問い合わせがありました。うち10件弱は見込み客として販売活動を進めています。このプラットフォームには、資産証明を出している優良顧客向けの非公開情報を案内する仕組みもあり、こちらでも5つの物件について売買に向けた具体的な動きが始まっています。

──著名企業と独占契約を結ぶのは容易ではありません。契約を結ぶまでには苦労もあったのでは

今川社長:英語で当社のアピール文を作成し、問い合わせフォームに送りました。運よくメールでエントリーシートが送られてきたため、私たちの事業を説明し、一緒に仕事をしたいという思いを伝えました。それを見た担当者から連絡がきてオンライン面談し、追加資料を送りました。

 3~4カ月たって、先方の取締役が来日し、当社の取扱い物件をつきっきりで案内しました。4日間、食事も共にして日本文化を伝えつつ、不動産についても説明したところ、先方の社長に独占契約の了解を取ってくれました。この契約により、同社のプラットフォームに日本のラグジュアリー不動産物件を掲載する権利を得ました。

──フォーブス グローバル プロパティーズでは参加企業を厳選しているとのことですが、TonTonが参加できた背景は

今川社長:実はこうした経験をする日本の中小企業は少なくありません。海外だと企業規模に関わらず、熱意と事業内容でフラットに判断してくれることがあると感じています。

──中小企業の海外進出において、重要と思うポイントは

今川社長:外国では言葉や商習慣など多くの違いがあります。そうした壁を超えるのにITは欠かせません。ITは自社の技術などを一瞬で多くの潜在顧客に伝えられる増幅器でもあります。当社では動画やライブ配信を活用して、現地に来られない方々にも物件情報を詳しく伝えています。

 社内でも顧客関係管理(CRM)ツールで顧客情報や物件データを一元管理し、AIも活用しながら迅速で的確な提案をするよう努めています。今後は、海外投資家など現地のユーザーが必要としている情報を提供するブランディングサイトも立ち上げる予定です。シンガポールなどの顧客から具体的な課題や日本の不動産購入のきっかけなどの情報を聞き取り、そうした情報を盛り込んだ有益なWebサイトにしたいと考えています。

●著者プロフィール:本村丹努琉 Zenken取締役

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社(現:Zenken株式会社)に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部」(現:グローバルニッチトップ事業本部)の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸とした WEBブランディングを提唱し、14年間で約8000社のインサイドセールスを構築した。