英語に苦手意識を持っている日本人は多い。英会話スクール「English-21」代表の松田歩さんは、トラック運転手だった35歳から独学で英語を学び、約3年で英検1級、TOEIC990点満点を取得した。どうやって英語力を上達させていったのか――。

※本稿は、松田歩『知識ゼロからTOEIC® 990 ヤンキー式英語独習法』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

■中学英語なのにまったく理解できない

「何か、始めてみようかな」

そんな漠然とした思いを抱え、ある日いつものように本屋に立ち寄りました。

立ち寄ったのは、近所の古本屋。100円コーナーを何気なく眺めていたときでした。

『中学3年分の英語がいっぺんにおさらいできる本』

パラパラとページをめくってみると、なんだかやさしそう。「100円なら、失敗しても惜しくない」。そう思って手に取り購入した一冊の本が、人生を大きく変えることになるとは、私はそのとき想像もしていませんでした。

でも、実際に読み始めてみると内容がまったく理解できない。

「これ、本当に中学英語?」
「こんなの習った?」

そんな疑問を抱きながらも、なんとか読み進めていきました。

そして本の最後に一枚のチラシを見つけます。

『外国人講師との無料オンライン英会話

「顔を合わせれば意思疎通なんて、なんとかなるでしょ」

その軽い気持ちが、私の最初のつまずきとなりました。

■2単語しか話せず、外国人講師はため息

いつものように思い立ったらすぐ行動。オンライン英会話に速攻で申し込みました。

そして迎えた初のオンライン英会話

しかし、25分のレッスンで、私が言えた言葉は“Yes”と“OK”だけ。

このときの外国人講師は、ため息をつきながら、何度も同じ質問を繰り返してきます。でも、私には何を言っているのか、さっぱりわかりません。そして「わからない。I don’t understand.」とさえ言えなかったのです。

「こりゃダメだ」

レッスン後、冷や汗が止まりませんでした。先生には申しわけない気持ちでいっぱい。もっと話せるようになって、ちゃんと先生に英語で謝ろうと思っていました。でも、その後その先生には残念ながら二度とお会いできていません。

このトライアルは2回あります。次の日にもう1回。今考えれば2回目はスキップすればよかったんですけど、そのときはそんなことさえ思いつきもしませんでした。

■練習した英語に先生は「素晴らしいわ!」

しかし、この24時間が、私の英語学習の本当のスタートとなりました。

必死でした。

「マイ ネーム イズ アユミ(My name is Ayumi.)」
アイム ア トラック ドライバー(I’m a truck driver.)」

この二つの文を、運転中も、休憩中も、ずっと口に出して練習しました

翌日のレッスンは別のフィリピン人の女性の先生。練習した二つの文を精一杯言ってみると、先生は満面の笑みでほめてくれました。「You are great!(素晴らしいわ!)」

「私の英語が通じた」と思うとうれしくて、うれしくて。この小さな成功体験が、その後の私を支える大きな力となったのです。

「英語を始めたの?」
「何で今さら?」
「一生トラックの運転手でしょ。なんで英語が必要なの?」

周りからは不思議がられ、意地悪なことを言う人もいました。

確かに、なぜ35歳のトラック運転手が英語なのか。私自身、明確な目標があったわけではありません。

でも、あの頃夢中になっていたトレンディドラマ『抱きしめたい!』に登場する完璧な英語を操り、国際的に活躍するキャリアウーマンへの憧れが、ずっと心の中にありました。

それに、他のドライバーたちは、みんな仕事以外の「何か」を持っていて、私にも、そんな「何か」が必要だったのです。

■TOEICは意味不明、まずは英検から

だから決めたんです。英語を私の「何か」にしようって。

最初は本当に手探り状態でした。誰にも教えてもらえないし、仕事が忙しくて英語学校に通う時間はない。でも、それがかえって良かったのかもしれません。

知識ゼロだからなにをしても伸びるのは確かですが、やるなら遠回りでも、ポンコツの自分でも理解できて一歩ずつ前進できる勉強法がいい。そう思ってコツコツやるしかありませんでした。

「英検」っていう試験が存在するのは知っていました。勉強ができる子は中学生で3級とか受けていた気がします。対象学年や英語のレベルも書いてあるし、自分に合わせて目標設定できるな、って。

それに、いきなりTOEICとか受けたとしても一問も正解できないのが目に見えてるじゃないですか。本屋でTOEICの問題集を開いた瞬間のことは、いまでも鮮明に覚えています。もう1ページ目から最終ページまで意味不明でした。

「よし、まずは英検から始めよう」

そう決意して、私の本格的な英語学習が始まったんです。

■中学レベルから少しずつ難易度を上げる

ちょっとここで英検の説明をしましょう。「英検」を知らない人はいないと思いますが、そのレベルや試験内容まですべてわかっている人はそう多くないと思います。

英検は5級から1級まであり、英検5、4級はリスニングを含む筆記試験で合否が決まります。

3級から1級までは一次試験がリスニングを含む筆記試験、一次試験に合格すると二次の面接試験があります。一次、二次両方受かって合格です。筆記は大まかに単語のテスト、リーディング、ライティング、リスニングで構成されています。

英語の試験といえばTOEIC、と考えて受験する人は多いはずです。

でも、前述したように私は本屋さんでTOEIC本を初めて覗いてみたとき「ナンだこりゃ? 今の自分では到底太刀打ちできないぞ」と瞬時に悟りました。だって、ほとんどが意味不明だったんですから。

まずは中学生のレベルから難易度別に合格を重ねていく英検で英語力を高めていこうと決めたのです。これが大正解でした。

TOEICの受験は必須」という会社も増えています。会社員でも中学レベルの英語を忘れている人はたくさんいますが、そういう人がTOEICの問題を解いても、勉強してもチンプンカンプン。そのような場合は英検から始めたほうがいいでしょう。

■単語集や問題集を買い漁ってみたが…

英検をクリアしていく決心をし、5級はクリアしていると感じた私は、4級から勉強することにしました。

英検4級は、中学校2年生程度の英語力を測る試験です。「基礎の基礎」とも言える、英語学習の重要な土台となるレベルです。

とにかく英検4級に関わる単語集や問題集は買い集めて挑戦してみました。

私の勉強法は、めちゃくちゃでした。いろんな本に並行して手を出してみたのです。しかし、毎日あれもこれも仕上げなくてはならないというプレッシャーで最終的にどれもやるのがイヤになってしまいました。

■「まずは1冊を完璧にする」が一番身に付く

結局、一度にいろんな本に手を出しちゃうと、どれも中途半端になっちゃうんです。「今日はこの本、明日はあの本」みたいな。

そうすると、わかるところだけやって、わからないところはどの本もわからないまま。プレッシャーだけがたまって、全部やらなくなっちゃって。

そこで気づいたんです。

「たくさんの本を一度に並行して行うより、まずは1冊選んでやり抜く。そして、何度も繰り返して完全に身につける。1冊完璧にしたら次の本に移るというのが一番身につく方法だ」ということに。

このことに気づいてから、まずは英単語集を終わらせることにします。単語が完成したら過去問題集に向き合いました。

英検対策本とは別に、誰に教わるということもなく、英語や記憶法の本も読みまくりました。これから英語に関することを山ほど記憶しなければならないと思ったからです。そしてとにかく効果のある方法をさぐりました。

しかし、記憶法の本は私にはどれもしっくりこず、参考になりません。わかったことは「最も効率の良い記憶法は自分で工夫するしかない」ということでした。

■英語学習でつまずいてしまう人の共通点

もう一つ本を読んでわかったことがあります。人間はみな赤ちゃんのときから同じ脳の構造を持っており「頭がいい人、悪い人は存在しない」ということです。違いは「脳の使い方を知っているか知らないか」だけなのです。そして、人間の脳は右脳と左脳で機能が違っており、その基本的な役割は

・ 右脳:積極的で行動的な側面を担当
・ 左脳:計画的で分析力の高い側面を担当

なのです。

英語学習でつまずく多くの人は、片方の脳だけに頼っているケースが多いのです。

英語学習において重要なのは、どちらか一方だけに頼るのではなく、両方をバランス良く使うことです。

■右脳と左脳をバランス良く使うといい

たくさん勉強して右脳を使ったら左脳を使って分析しましょう。

学習計画を立てて左脳を使ったら、右脳を使ってガツガツ取り組みましょう。

例えば、具体的には、

1.学習前(左脳):今日の学習内容と目標を明確にする
2.学習中(右脳):躊躇せず積極的に取り組む、恥ずかしがらない
3.学習後(左脳):何がわかって何がわからなかったかを分析する
4.復習時(右脳):わからなかった部分を積極的に声に出して練習する

という形です。

■運転の合間にできる効果抜群の勉強法

運送の仕事をしていた私は平日も仕事の合間に勉強を行っていました。トラックの運転中や荷物の積み降ろしを車中で待つ間などは声も出せる絶好の学習時間です。単語集を覚えたり、問題集を解いたり、その他の勉強法にも挑戦しました。夜には車の中からネットをつなげてオンライン英会話に取り組みました。

このための機材や教材には糸目を付けず、当時今に比べればはるかに高かった、車で使えるWi-Fiも駆使していました。

片っ端からやってみた方法の中で効果を感じて、特に大切にしていたのが、「運転中の独り言英語」です。これは両手がふさがっている間の勉強法としては効果抜群でした。

最初は「今日は暑い」「お腹が空いた」という簡単な一言から始めました。言いたいのに言えない言葉は、覚えておいて休憩時間に調べてノートに書き留める。そうして自分だけの「英語フレーズ帳」が出来上がっていきました。

「この荷物、重いな」 → This cargo is heavy.
「納品が遅れそうだ」 → The delivery will be delayed.

こうして毎日の仕事に関係する表現を集めているうちに、少しずつ英語が身についていきました。

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松田 歩(まつだ・あゆみ
English-21 代表
1980年生まれ。勉強嫌いで高校を1年留年後卒業。女性トラック運転手だった35歳のとき古本屋で買った「中学英語学び直し本」をきっかけにゼロから独学を始める。知識ゼロから短期間で英検2級取得。フィリピン留学などを経て、3年後に英検1級・TOEIC990点取得。その後TOEFL110、IELTS7.5に到達。英会話スクールの講師としても活動していたが、2018年12月独自の英語学習ノウハウを駆使したEnglish-21を開校(https://english-21.com/)。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sankai