
夏になると急増する“熱中症”や“夏バテによる頭痛”。SNSでは「熱中症に頭痛薬は危険」といった情報が拡散され、不安に感じる人も多いのではないでしょうか。
実際、熱中症とそれ以外の体調不良では、症状の原因や対処法も異なり、市販薬の使い方には注意が必要です。
この記事では、熱中症による頭痛とその他の頭痛の違いや、夏の体調不良時の市販薬(解熱鎮痛剤)の選び方・正しい使い方について、専門医の武井医師が解説。知っておきたい頭痛薬の使い方や、使うべきタイミング・避けるべき状況など、働く大人の夏のセルフケアに役立つ情報をお届けします。
夏に起こりやすい「熱中症」の特徴的は症状は?
熱中症は、その症状の重さによって軽度(I度)、中等度(II度)、重度(III度)に分類されます。
軽度の熱中症は、脱水と血圧低下により、めまい、立ちくらみや大量の発汗が起こることがあります。筋肉痛や筋肉の硬直(こむら返り)もみられ、水分補給や休息で改善可能です。
中等度の熱中症は、多量の発汗による体液・塩分の喪失により、頭痛、吐き気、嘔吐、腹痛、虚脱感(熱疲労)、尿量の減少などの症状が現れます。通常、体温は40℃未満です。
最も重い重度では、体温が40℃以上に達し(熱射病)、脳や他の臓器の障害を伴います。けいれん・意識障害(混乱、昏睡)・顔面紅潮・発汗停止などが見られ、命に関わる危険な状態になり、緊急の医療処置が必要です。
「熱中症による頭痛」と、「疲労や寝不足・夏風邪による頭痛」との見分け方のポイントは?
熱中症による頭痛と、疲労・寝不足・夏風邪による頭痛は、症状や原因が異なるため、見分ける大まかなポイントがあります。
まず、熱中症による頭痛は、強い暑さ・湿度の高い環境で発生しやすいことがあげられます。脱水や体温上昇により、体のだるさや吐き気、めまい、筋けいれん、頭がぼんやりするなどの症状を伴うことが多いとされています。
また、皮膚が熱く、体温上昇(37.5℃~40℃以上)がみられる場合は注意を要します。水分補給や涼しい場所への移動で症状が改善することもありますが、改善しない場合は重症化する場合があります。
一方、疲労・寝不足・夏風邪による頭痛は、特に高温環境と関係なく発症することが多いです。関節痛、発熱などを伴う場合があります。風邪由来の場合は、鼻水、咽頭痛、咳、下痢などのお腹の症状など一般的な風邪症状を伴うことが多く、疲労・寝不足では、休息や睡眠で改善することが多いとされています。
どちらか迷ったときは「涼しい場所での休息・水分補給」を実施し、それでも症状の改善がなかったり、体温の上昇や発汗の異常(大量、あるいは全くかかない)、もうろうとしているなどの意識障害の症状がみられる様になれば、重症の熱中症も考え速やかに医療機関への受診・救急要請が必要です。熱中症は夏の代表的な疾患の一つです。しっかりその特徴を知っておきましょう。
「熱中症に頭痛薬は危険」と言われるのはなぜ?
熱中症による頭痛に対して、市販の解熱鎮痛剤(頭痛薬)を自己判断で使用するのは危険な行為と考えられます。特に脱水状態の時には、NSAIDs(アスピリン、ロキソプロフェン、イブプロフェンなど)を使用すると、腎臓に負担がかかりやすく、急性の腎機能障害を引き起こすリスクがあるため、特に注意が必要です。
解熱鎮痛剤は、炎症による痛みや発熱に効果がありますが、熱中症による体温上昇や頭痛には、直接的な効果が期待できません。自己判断での服用は避け、熱中症による頭痛が疑われる場合は、まず涼しい場所に移動し、体を冷やし、水分と塩分を補給することが重要です。
症状が改善しない場合は、医療機関を受診し、医師の指示に従うようにしましょう。特に高血圧、糖尿病、心臓病、腎臓病などの持病がある人や、以前に熱中症になった既往のある人は、特に注意が必要です。
解熱鎮痛剤はどんな症状に効果がある薬?
解熱鎮痛剤は、発熱や痛みの原因となる物質の生成を抑えることで、熱を下げたり痛みを緩和したりする薬です。アセトアミノフェンは主に脳の中枢に作用して解熱効果を発揮し、ロキソプロフェンやイブプロフェンは炎症を抑えることで解熱鎮痛効果を発揮します。
ロキソプロフェン、イブプロフェンなどNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、体内で「プロスタグランジン」という痛みや発熱、炎症を引き起こす物質が作られるのを阻害します。
具体的には、プロスタグランジンの合成を担う「シクロオキシゲナーゼ(COX)」という酵素の働きをブロックすることで、痛みや発熱、炎症を抑えます。アセトアミノフェンも痛みや発熱の原因となるプロスタグランジンの産生を中枢神経系(主に脳)で抑える作用を持ちますが、NSAIDsと比べ抗炎症作用は弱いのが特徴です。脳の体温調節中枢に働きかけて体温を下げたり、鎮痛作用で痛みを感じにくくします。
NSAIDsは炎症をともなう痛みに強く、アセトアミノフェンは消化管や腎臓への負担が比較的少なく、子どもや高齢者、妊娠中にも使われます。それぞれの薬の選択や使い分けは、症状や体調、持病の有無など個人の状況に応じて行うのが理想的です。
注意点として、解熱鎮痛剤は、あくまで症状を緩和する対症療法薬であり、病気の原因を治療するものではありません。服用する際には、必ず添付文書を読み、用法・用量を守って使用してください。症状が改善しない場合や、副作用が疑われる場合は、医師または薬剤師に相談してください。
頭痛がなかなか治まらないときや、薬を飲んでも効かない場合、どう対処すべき?
頭痛がなかなか治まらない、または薬が効かない場合は、まず医療機関を受診することが大切です。特に、痛みが激しい場合や、頭痛以外にも症状がある場合は、すぐに救急車を呼ぶか、救急外来を受診する必要があります。
医療機関を受診する目安として、バットで殴られたような激しい痛み・突然の頭痛・どんどん痛みがひどくなる場合・頭痛以外にも、意識がもうろうとする・けいれんがある・吐き気・嘔吐を何度も繰り返す・高熱・全身症状(脱力・視覚障害・麻痺など)があるなどの症状がある場合があげられます。
頭部外傷後の頭痛、頻繁に頭痛薬を服用している場合(月に10回以上頭痛薬を飲む場合)で日常生活に支障をきたしている場合も当てはまります。熱中症の頭痛と思っていても他の原因のこともあるため、自己判断は禁物です。
武井智昭 たけい ともあき 日本プライマリケア学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本小児科学会専門医。2002年慶應義塾大学医学部卒業。2002年から2004年まで慶応義塾大学病院研修医。2004年から2011年まで平塚共済病院内科・小児科医長。2012年より神奈川県内のクリニックを経て、2017年なごみクリニック院長、2020年高座渋谷つばさクリニック院長(内科・小児科・アレルギー科)。 この監修者の記事一覧はこちら
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(瑞木)

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