東京都立学校の卒業式や入学式で、国歌斉唱の際に起立しなかったことを理由に懲戒処分を受けた教職員15人が、都に対して処分の取り消しを求めた裁判で、東京地裁は7月31日、教職員2人に対する計6件の減給処分を「違法」と判断し、取り消す判決を言い渡した。

一方、15人に対する計20件の戒告処分については「裁量権の逸脱や濫用とはいえない」として請求を退けた。

●延べ約500人が懲戒処分を受けた

原告側によると、教職員の国歌斉唱をめぐっては、東京都教育委員会(都教委)が2003年、すべての都立学校に「教職員は会場の指定された席で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する」よう命じる通達を出した。

この通達に従わなかった教職員は約240人に上り、これまでに延べ約500人が減給や戒告などの懲戒処分を受けたという。

処分を受けた教職員らは2007年から複数にわたって、処分の取り消しを求めて提訴。今回の訴訟は「第5次訴訟」にあたり、2021年に15人が裁判を起こしていた。

●「君が代が戦争で果たした役割から従えない」

原告らは裁判で「日の丸君が代が過去の戦争で果たした役割から、強制に従えない」「強制は、生徒の自主性や多様性を大切にするなどの教育観に反する」などと主張。

通達や処分が、憲法が保障する「思想・良心の自由」や「信教の自由」などに反するなどとうったえていた。

今回争われた処分は、15人に対する計26件。このうち16件は、過去の裁判で減給処分が取り消された後、都教委が改めてより軽い戒告処分を下した「再処分」で、その妥当性も争点となった。

●裁判所の判断

東京地裁はまず、国歌斉唱時の起立命令の合憲性について、過去の最高裁判決に沿った判断を示した。

「慣例上の儀礼的な所作」であり、特定の思想や歴史観を前提とするものではないとし、思想・良心の自由を「直ちに制約するものではない」と判断した。

ただし、自身の歴史観や世界観と異なる行為を求められる点について、「間接的な制約となる面がある」と認めたうえで、学校式典の秩序や、円滑な進行といった職務命令の目的には必要性と合理性が認められるとし、違憲とはいえないと結論付けた。

戒告処分については、「教職員の規律違反の責任を確認してその将来を戒める処分」であり、処分自体が直接的に給与面などでの不利益を及ぼすものではないことなどを考慮。

将来の昇給や勤勉手当への影響があったとしても、不起立行為に対して戒告処分を下すことは「基本的に懲戒権者の裁量権の範囲内に属する」として、裁量権の逸脱・濫用にはあたらず、適法であると判断した。

また、過去の裁判で減給処分が取り消された後におこなわれた「再処分」としての戒告も同様に適法とされた。

一方で、減給処分については「社会通念上著しく妥当を欠き、懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価を免れない」と認定。6件すべての取り消しを命じた。

●代理人弁護士「つまらない判決」

この日の判決後、原告代理人の澤藤統一郎弁護士は記者会見で「今までの最高裁の判例を頑なに守るという判決で、わくわくするところがまったくなく、つまらない判決の典型といってよい」と批判した。

原告の一人で、特別支援学校に勤務する田中聡史さんは「これから控訴審で引き続き主張を続けたい。ぜひ注目してください」と語った。

「君が代不起立」教員の減給は違法、一部処分を取り消す 原告代理人「つまらない判決の典型例といえる」…東京地裁