
7月30日、日本中が緊張感に包まれた。午前8時半ごろ、ロシアのカムチャツカ半島付近でマグニチュード8.8の巨大地震が発生し、太平洋側を中心にした広い範囲に、津波警報が呼びかけられた。
ほとんどのテレビ局は放送内容を変更して津波情報を届け、「逃げて」のメッセージを発信し続けた。多くの国民が炎天下のなか指示に従い、高台などに避難した。それはもちろん、’11年3月11日に発生した東日本大震災の教訓に他ならない。
津波警報は、鉄道や空の便などにも大きな影響を与えた。林芳正官房長官は午前の記者会見で、高速道路は3区間で通行止め、鉄道41路線で運転見合わせ、仙台空港で滑走路が閉鎖中だと説明。JR東海によると、東海道線は熱海駅〜豊橋駅間で運転を見合わせ、295本が運休に。首都圏でも東海道線、横須賀線などが運休。JR北海道は、函館駅など数駅を閉鎖し、函館市電では運転士が避難して無人となった路面電車が市内のあちこちの停留所に残された。
しかし、結果として国内では津波そのものによる犠牲者は出ず、大きな被害は起きないまま、津波警報と注意報は31日16時30分にすべて解除された。 “本当に良かった”と多くの人が思うなか、そうではない人物が――。元航空幕僚長の田母 俊雄氏(77)だ。
田母神氏は津波警報が出された翌31日午前6時51分に、自身のXで次のように前日の津波警報に不満を述べた。
《昨日は津波情報に振り回されて一日だった。津波は本当に来たら怖い。しかし津波警報で新幹線や空の便が止まったり多くの人が避難するなど国民生活に大きな影響が出た。これは津波そのものの影響ではなく津波警報の影響なのだ。気象庁などが少し煽り過ぎなのではないかという気がした。国民生活に影響がないのなら煽ってもいいかもしれないが、これほど大きな影響が出ては、煽り過ぎとの批判が出てくるのはやむを得ないと思う》
新幹線は”おおむね通常通り”運行したので、田母神氏の指摘はそもそも誤りなのだが、問題なのは、科学的データに基づき、国民の安全を最優先に、速やかに警報を出した気象庁に対し「煽り過ぎ」「批判が出てくるのはやむを得ない」などと、指摘したことだ。
Xでは44.7万人ものフォロワーを抱え、高い発信力を持つ田母神氏の無責任な批判に対し、Xでは失望する声が続出した。
《絶句 貴方完全に思考歪んでるよ 津波そのものの影響ではなく津波警報の影響なのだ、って当たり前やん 注意報とか警報を発令する意図をわかってなそうでビビるわ》
《東日本大震災もう忘れたんですか?》
《東日本大震災の教訓は?「100回逃げて、100回来なくても101回目も必ず逃げて」刻まれたはずだろ。神経疑うわ。気象庁のおかげで1〜2時間前に津波注意報や警報が知れた。海沿いの方は避難行動ができた》
《空振りならそれに越したことはないので振り回された、なんて言うもんじゃない。自然現象を正確に予測なんて無理。東日本大震災から何も学べてないの?あなたが闇落ちしてからガッカリすることばかり。どうしちゃったんだよ》
あまりに多くの批判を受けたためか、田母神氏は最初の投稿の約2時間半後、次のように投稿の意図を釈明した。
《津波警報は当初の段階では状況がよく分からないので最悪を考えて警報を発することが必要だと思います。しかしその後の状況を見て、今回の件ではもう少し早く警報などを解除してもいいのではないか思った次第です》
今回、気象庁は「津波は長い時間繰り返し襲ってくる。第一波より第二波以降が大きい可能性もあり、警報が解除されるまでは安全な場所から離れないように」と繰り返し呼びかけた。東日本大震災では、千葉県旭市の津波は堤防を超えるか超えない程度の第1波、第2波で終息したと思った人も多かったが、最も高い7.6mの第3波が襲来。避難先から帰宅していた人もおり、死者14人、行方不明者2人という県内最大の人的被害が出た。
こうした記憶もまだ新しく、田母神氏の科学を無視した釈明にも再び批判が集まった。
《だから、誰かの主観とか感性で決められるものじゃないんですよ。つまりは、基準を緩めろと言っていることになるのは理解できてますか? それとも、遠回しに気象庁の予測(科学技術)を批判しているのですか?》
《余震や再発のリスクから警報解除は慎重にならざるを得ない側面もあると思います。「状況を見て」や「もう少し早く」は、寄り添っているようで耳当たりはいいですが、抽象的な便利ワードかなと。いつどこで誰が使ってもそりゃそうだとなりそうです》
多数の命が失われたという悲しい経験と、科学的な検証を通じて導き出された教訓を忘れてはならない。

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