寝台特急カシオペア」は上野と札幌を結ぶ豪華列車です。北海道新幹線との兼ね合いもあって、2016年3月には廃止されます。全国の鉄道ファンが一度は乗ってみたいと思う列車ではないでしょうか。それに運良く乗れたのですが……という話です。

寝台特急カシオペアには「展望室」という特別な部屋があります。車両の先頭にあって、前面が大きな窓ですから、素晴らしい眺望を独り占めできる部屋です。ツインベッドがあり、シャワー施設も付いています。この展望室は1編成に一部屋だけです。

タモリ倶楽部』に登場した、故・原田芳雄さん(鉄道ファンとして有名)がカシオペアに乗った話をタモリさんに披露していましたが、タモリさんも原田さんもこの展望室には乗れなかったというのです。

タモリ倶楽部』を見て、また鉄道ライターからカシオペアの素晴らしさを聞いていたY氏は、廃止になる前になんとか展望室に乗れないものかと常々思っていました。

そこでカシオペアの券が売りに出るたび(発売開始は1カ月前)に「みどりの窓口」に通ったのです。運良く展望室が取れたら会社を休んで乗りにいこうという魂胆です。

そうこうした、そんなある日「今日も駄目かなあ」と思っていたY氏がついに展望室のチケットをゲットしたのです! Y氏は窓口で思わず「やったー!」と大声を出してしまいました。プラチナチケットですから当然のことでしょう。

そこまでは良かったのですが、ここからが大車輪です。

まずカシオペア号の運行スケジュールありきですから、旅行日程を全てこれに合わせなければなりません。

Y氏がゲットしたカシオペアは、平日の「札幌発」のものでした。夕方、午後4時12分に札幌を出たカシオペアは翌日の午前9時25分に上野に到着します。

さっそくカシオペアの出発前に北海道に着く飛行機を調べてみましたが、あいにく平日なのでどの便もけっこう満杯状況です。それでもなんとか空席を探し、前日の午後2時ぐらいに新千歳空港に到着する便を確保しました。

しかし、新千歳空港から札幌まで2時間で着かなければなりません。飛行機の運航が乱れたり、道中に何かあったら間に合わない可能性があります。

当日、会社に出社したY氏は「ちょっと具合が……」といってすぐ早退しました。羽田空港に向かい、空港から「今、お医者に診てもらってまして、すみませんが本日は休ませてください。もしかしたら明日も休むかもしれません」と会社に連絡。

そのまま空路北海道へ飛んだのでした。

幸いにも飛行機の運航は乱れませんでした。新千歳空港から予約してあったレンタカーに乗ったY氏は札幌駅を目指してクルマをすっ飛ばします。札幌駅前のレンタカー屋にクルマを乗り捨てた後、札幌駅カシオペアに意気揚々と乗り込みました。

翌日、東京へ帰還したY氏は、午前10時過ぎに「昨日はすみませんでした……」と少し暗い顔で出社します。課長が「大丈夫かい?」なんて言っています。

Y氏は念願の寝台特急カシオペアの展望室に乗れたわけですが、そのスケジュールはまるで推理小説の「アリバイトリック」みたいなものだったのです。

(高橋モータース@dcp)