一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクター・家村均氏が、現地から最新状況を解説するフィリピンレポート。フィリピン国内の銀行貸出は4か月ぶりの高い伸びを記録し、経済の底堅さを示しています。しかしその裏で、外国人投資家の資金流出は止まらず、年初からの流出額はすでに2024年通年を上回る事態に。国内経済の活況と、それに逆行する海外からの評価。この「矛盾」した市場の背景には何があるのか。最新のデータを基に、その構造を読み解きます。

銀行貸出と国内流動性の拡大

フィリピン中央銀行(BSP)の発表によると、2025年6月の銀行貸出残高は前年同月比12.1%増の13.55兆ペソに達し、4か月ぶりの高水準となりました。これは5月の11.3%増から加速し、今年2月以来の高い伸びを示しています。特に居住者向け貸出が12.6%増加した一方、非居住者向けも減少幅が緩和傾向にあります。

貸出の大部分を占める企業向けローンは11.1%増となり、その中でも不動産業(9.9%)、電力・ガス供給(29.2%)、金融・保険業(12.0%)、輸送・保管業(15.9%)が成長を牽引しました。また、消費者ローンも前年同月比24.0%増と好調で、クレジットカード貸出が29.9%増、自動車ローンが18.4%増、給与担保型の一般消費ローンも8.3%増加しています。

国内流動性(M3)も好調で、前年同期比6.3%増の18.6兆ペソに加速しました。国内流動性(M3)は、通貨流通量、銀行預金、その他即時換金可能な金融資産を含む、経済全体のマネーサプライを示す指標です。

中央銀行の利下げサイクルと預金準備率の引き下げが、こうした貸出成長を後押ししており、今後も追加利下げの可能性から、貸出の増加傾向は継続する見込みです。これは、ビジネスセンチメントの改善、選挙に向けた支出、投資の回復による信用需要の強さを反映していると言えます。

外国人投資家の動向と市場の矛盾

貸出の活発化は経済活動の拡大を示唆し、不動産や株式市場にとって追い風となる可能性が高いと言えます。しかし、外国人投資家の動向を見ると、慎重な姿勢が続いています。

2025年7月のフィリピン株式市場では、外国人投資家による資金流出が続き、純売り越し額は約2,900万米ドルに達しました。これにより、2025年1月から7月までの累計では6億2,300万米ドルの資金流出となり、前年の年間流出額4億80万米ドルをすでに上回る状況です。

<7月に外国人投資家が買い越した主なセクターと銘柄>

* 港湾運営: International Container Terminal Services (ICT)

* 複合企業: GT Capital Holdings, Inc. (GTCAP)、Ayala Corporation (AC)、JG Summit Holdings (JGS)

* 再生可能エネルギー: Citycore (CREC)

* オンラインカジノ: Degi Plus (PLUS)

* 不動産開発: Ayala Land, Inc. (ALI)

* カジノ: Bloomberry Resorts Corporation (BLOOM)

* 消費財: Universal Robina Corporation (URC)

* 小売業: Robinsons Retail Holdings, Inc. (RCR)

<7月に外国人投資家が売り越した主なセクターと銘柄>

* 銀行: Bank of the Philippine Islands (BPI)、BDO Unibank (BDO)、Metropolitan Bank & Trust Company (MBT)

* 複合企業・小売: SM Investments Corporation (SM)

* 外食業: Jollibee Foods Corporation (JFC)

* 通信: Globe (GLO)、Converge ICT Solutions (CNVRG)

* 不動産: SM Prime Holdings (SMPH)

* コンビニエンスストア: Seven & i Holdings Philippines (SEVN)

* 再生可能エネルギー: AC Energy Corporation (ACEN)

テクノロジー導入の壁、コスト問題をどう乗り越えるか?

これらの動向から読み取れるのは、銀行セクターのBPI、BDO、MBTといった銘柄が継続して売却される一方で、大手複合企業のGT CapitalやJG Summitには資金が流入していることです。また、通信分野や再生可能エネルギーのAC Energyは全体的に売却傾向が続いています。

銀行貸出の活発化は、国内経済の底堅さを示す明るい材料です。しかし、外国人投資家は慎重な姿勢を崩しておらず、フィリピン市場からの資金流出超過が継続しています。このギャップの背景には、不動産市場における供給過剰や高空室率といった構造的な課題、通信や再生可能エネルギーといった特定セクターへの懸念が影響していると考えられます。

これらの動向を踏まえ、個人投資家は市場の資金の流れを冷静に分析し、買いが優勢なセクターや銘柄(複合企業、消費財など)に注目する一方、売りが先行する銀行や通信、特定の不動産といった分野のリスクについても十分に認識しておくことが重要です。

写真:PIXTA