
特殊清掃の業務は“悪臭との戦い”の日々だ。鼻がひん曲がるような現場も数多くある。だが、「現場は悲惨なのに、なぜか臭いがそこまで強くない現場がある」という。逆に、「見た感じは綺麗なのに、なぜか臭い現場もある」そうだ。どういうことか?
都内を中心にさまざまな現場で特殊清掃を手がけるブルークリーン株式会社で働きながら、特殊清掃の実態を伝える登録者5万3000人以上のYouTubeチャンネル「特殊清掃チャンネル」を運営している鈴木亮太さんに、思ったよりも臭いがひどくない現場の清掃について詳しい話を聞いた。
◆見た感じは綺麗なのに、なぜか臭い現場
特殊清掃の現場の悪臭の原因は様々だという。
「悪臭の原因として多いのが、大便や小便などの排泄物や、人体が腐敗したことによるものです。人体の油が腐敗した臭いは、感染症のリスクなどがあるので、特殊清掃が必要になる案件です。
また、一見部屋が綺麗そうに見えても、強烈な悪臭を放つ現場もありました。強烈な臭いがどこから発生しているのかわからず、なぜなんだろうと思ったら、体液が部屋の壁を伝って、床下に広がっているようでした。フローリングが臭いを若干抑え込んでてくれたみたいで、床を解体したらさらに強烈な悪臭が広がっていて。こういう壁沿いで人が亡くなるケースって、20件に1件くらいありますね」
◆見た感じは悲惨なのに、なぜか臭くない現場
一見臭そうに見えても案外臭くない現場もたまにはある。
「真夏でも冷房が18度設定になってて冷えている部屋はあまり臭いがしません。そういう現場は、外に臭いが漏れないようにエアコンを消して作業している間にどんどん臭いがキツくなっていくことが多いです。また、扇風機などで体液が乾燥している現場は、そこまで臭いがキツくありません。
死後2年、3年とか経過してから発見されたような時間が経っている現場も臭いがそこまでひどくないです。臭いを発する細菌も時間経過とともに、表面がどんどん固まって乾燥していくんです。歯にたまるプラーク(歯垢)と同じで、自分たちの身を守るために細菌の塊を形成していきます。すると、自らの臭いを抑えにいくような働きになっていき、臭そうに見えてあまり臭くない現場となります」
清掃をしていないのに臭いがほとんどなくなっている現場だからといって、細菌感染のリスクが0になったわけではないという。
「臭いがほとんどないからといって、清掃が簡単になったわけではありません。死後の経過時間が長ければ長いほど、臭いの原因を分解したり中和したりと壊していくための作業に時間がかかります。夏場の体液がどろっとある現場とかであれば、まだ水分を含んでいるのでそのまま除去作業に入れますが、凝固してしまってる場合は、塊に水分を与えてふやかす作業から入ります。時間が経過した現場は臭いが少ないから清掃費用もそこまでかからないんじゃないかと思われがちですが、作業工程が増えるので、ちょっと費用も高くなります」
◆入居者から「なんか異臭がする」臭いが復活するケースも
数年放置され臭いがほとんどない現場も特定の条件を満たすと「臭いが復活することがある」という。
「気温が20度から30度の間で湿度が高い条件になると、また強烈な臭いを発することがあります。冬場で臭いがわかりづらいタイミングで、不動産屋が“この程度の臭いなら特殊清掃を手間をかけてやらなくてもいいか”という判断になり、適切な作業を行わずに次の入居者さんを入れてしまうケースがあります。その際、次の夏を迎えたら『なんか異臭がする』とクレームが不動産屋に入り、特殊清掃や工事をやり直した現場もありました」
その際、別の部屋があいていたら、入居者を仮住まいさせて対応する。
「臭いが弱かろうが強かろうが、きちんと清掃をしないと臭いの原因となる物質は取り除けません。これは死後何年経った現場でも同じです。
月に2、3度は『夏場になったら謎の異臭がする』という現場に遭遇することがあります。そういった現場は前の業者が冬場にチェックした際、臭いがほとんどしないから大丈夫だろうときちんと工程を踏んだ特殊清掃をしていなかった場合がほとんどです。請け負った業者がきちんと清掃作業をしてない場合もあります」
◆別の業者との連携が必要な現場も
9月になって、やたら増えてきた異臭の現場があるという。
「最近増えてきた悪臭の現場としては、水害ですね。大雨などの被害によって床下水没をしてしまい、泥っぽい臭いや湿気っぽいジメジメした感じの臭いが発生している現場です。
また、床下がちょっとだけ漏水していて湿気っぽい臭いが充満していたり、上の階が漏水して全体的にカビ臭い現場を清掃してくれという案件も増えています。漏水となると、水道業者との兼ね合いが出てきて、作業の連携がかなり大変です。水道業者が作業できる環境まで自分たちで解体したり消臭した後に水道業者さんに作業してもらい、仕上げの作業を我々でする、という少し複雑な手順になります」
これ以外にも、別の業者との連携が必要な現場も最近あった。
「部屋の水道管から異臭がするというクレームが大家さんにはいったようで、特殊清掃依頼がきた部屋がありました。調べてみたところ、上の階の住人が孤独死をしていた現場でした。『排水溝に鼻を近づけると臭い』と。そうなってくると、部屋の排水管ではなく、孤独死現場の排水管を清掃しないといけない。でも孤独死現場の管理会社は別でした。マンションだと、部屋ごとに管理会社が違うっていうのは“あるある”なんです。そこで上の部屋の管理会社に連絡し、改めて見積もりを依頼してもらうといった手順が必要な現場です。
放置しているとどんどん臭いは強烈になっていくので、すぐさま作業に取り掛かりたいですが、なかなか始められません。でも上の階の管理会社が素直にうちを使ってくれましたので、すぐに作業に取り掛かることができました。別の業者に頼むとかになっていたら作業に時間がかかる可能性もあり下の住人もかわいそうですし、うちを使ってもらえて良かった案件でしたね」
<取材・文/山崎尚哉>
【特殊清掃王すーさん】
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦



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