

公園や裏庭で、ひとしきり激しくカラスたちが大声で鳴き声を上げていることがある。だが、この黒い軍団は単に騒いでいるだけではなく、彼らなりの弔い儀式をしているのかもしれないと専門家は言う。
アメリカ、ワシントン州シアトルにあるワシントン大学鳥類保護研究所のカエリ・スウィフト博士は、カラスが互いにどのように危険について学習し合い、仲間の死を見て、どのような反応を示すのかを研究している。
ほかの大多数の生物と違って、カラスは仲間の死に強く反応し、群れをなして大騒ぎするという。
このように仲間の死に対して強い感情を示すのは、クジラ、ゾウ、霊長類など一部の生物だけだ。
これはどういうことなのか?さらに詳しく研究するために、スウィフトはシアトル近辺に生息するカラスに、死骸に見立てたカラスの剥製を見せつけて、その反応を調べる実験を行った。
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公園でカラスたちを呼び寄せ実験開始
スウィフト博士まず、地元の公園や近所へ何日か出向き、カラスを呼び寄せるためにピーナッツを置き始めた。

4日目、スウィフトは遺骸に見立てたカラスの剥製を抱えて、マスクとカツラをつけたいつもと違う格好で出かけた。
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自らカラスの剥製を持ちカラスたちの様子を観察
カラスの剥製を持ち、マスクをかぶったのスウィフト博士の姿に、カラスたちはざわめきだって、大声で鳴き声を発している。

「本当に驚きました」スウィフト博士は語る。「カラスたちが木のまわりに集まってきて、わたしをじっと見つめ、威嚇するようにギャーギャー鳴き始めたのだから」
仲間の死を悼むように大声で鳴く「カラスの葬式」
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命を落とした仲間の死を悼むようなこの行為を、スウィフトは「カラスの葬式」と呼んでいる。
スウィフト博士の姿を見つけた最初のカラスが警戒の声をあげ、威嚇するような大きな声を繰り返すと、たちまち、近くにいたほかのカラスたちが集まってきて、その鳴き声に同調した。とても知らん顔できるようなレベルではない。
「いつも、20羽以上の鳥の集団が威嚇するように鳴き声をあげてくる」
だが、しばらくすると、カラスたちは静かになり、飛び去った。場所を変えてあちこちでさまざまな実験をしてみたが、同じことが繰り返されたという。
混乱した騒ぎが数分間続くが、その間にカラスたちはなんらかの重要な情報を学習して、それをずっと覚えているようだ。
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仲間の死を覚えていて警戒心を抱くカラスたち
実験中、スウィフト博士はマスクもカツラもなしで、剥製も持たずに現場に戻ってみた。再びピーナッツを置いてみたが、今度はカラスたちは前より警戒心が強くなった。なかなか近づかず、相当用心しているようだった。

つまり、カラスたちはマスクと剥製(仲間の死)のことを覚えていて、ここを危険エリアだと認識したのだとスウィフト博士は確信している。
翌日、スウィフト博士は剥製とピーナッツは持たず、マスクだけして戻った。すると、カラスたちはまた集まってきて、剥製を持っていないのにもかかわらず、スウィフトに向かって威嚇の声をあげた。
手ぶらでも、カラスたちはマスクをつけたスウィフト博士のことを覚えていて脅威と見なしたというわけだ。数週間たっても、カラスたちはマスクに対して同じように反応し続けた。
カラスの剥製を見ていない新しい仲間ですら警戒心を抱く
ここでおもしろいことに気づく。新しい集団の中には、マスクをして剥製を持ったスウィフトを見たことがない、新入りカラスも含まれていたが、彼らもまた”マスクの人物”を避けることを学んでいた。
個々が体験から学ぶのではなく、仲間から直接学習することは、社会的学習と呼ばれている。
「こうした”仲間の弔い儀式”に参加することで、カラスはリスクを冒すことなく、新たな危険についての情報を得ることができる」とウスィフトは言う。

死んだ仲間を見たときの反応の違いを研究中
2015年、スウィフト博士はこの発見を『Animal Behaviour[https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0003347215003188]』誌に発表したが、彼女の研究はまだ終わっていない。
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スウィスト博士の最初の研究は、どうしてカラスは死んだ仲間に注目するのかということに注目したが、今はいろいろ違う環境で、死んだ仲間を見たときの反応が変わるのかどうか、という新たな課題に着目している。
「例えば、死んだ仲間の年齢を気にするのか、とか、そばに巣があってヒナがいたら、反応の激しさに影響があるかどうか、といったことです」
さらに、霊長類やゾウのような哺乳類のように、カラスが死んだ仲間との間に実質的な相互関係があるのかどうか、を調べたいとしている。

カラスと人間はわかり合えるのか?
カラスほど人間と密接な関係にある野生動物はあまりいない。長い年月の間に、カラスと人間は互いに非常に近いところで暮らすようになったが、お互いについて知っていることはまだ少ない。
「こうしたカラスが、わたしたちやもっとも近い哺乳類の親戚とは遠い生き物なのを考えると、彼らもまた死者に関心を示すことに驚きを隠せません」スウィフト博士は言う。
自分たち自身の弔い儀式の進化についての深い謎を解き明かし、我々とはまったく似ても似つかないカラスといかに共通項が多いかを認めるチャンスになるのではと博士は考えている。
References:.kqed[https://www.kqed.org/science/1923458/youve-heard-of-a-murder-of-crows-how-about-a-crow-funeral/]/ written by konohazuku / edited by parumo



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