
職場でハラスメントを受けても、相談した人の7割が「解決しなかった」。それどころか「犯人探しが始まった」など状況が悪化するケースも。最新調査により、働く人の6割が被害経験を持つという深刻な実態が明らかになりました。なぜ勇気を出した声はかき消されてしまうのか。その背景にある職場の根深い闇を探っていきましょう。
職場のハラスメント、6割が経験。相談しても7割が「解決せず」
職場におけるハラスメントが依然として深刻な課題であることが、エン株式会社/エン転職がユーザー1,955名を対象に行った『ハラスメントに関する実態調査(2025年8月実施)』によると、実に63%の人が「職場でハラスメントを受けたことがある」と回答しています。特に年代が上がるにつれてその割合は高まり、40代以上では68%に達し、20代の44%を24ポイントも上回りました。男女別では、男性が65%、女性が59%と、男性のほうがやや高い結果となっています。
一方で、ハラスメントを受けたことが「ない」と回答した人にその理由を尋ねたところ、「職場の人間関係が良好だから」が53%で最多となりました。この結果は、風通しの良いコミュニケーションと良好な人間関係が、ハラスメントの発生を抑制する重要な土壌であることを示唆しています。
ハラスメント経験者が受けた被害で最も多かったのは「パワーハラスメント(パワハラ)」で、実に90%を占めました。 「上司から『残業が多いのはお前が能力不足だからだ』と全員の前で叱責された」(20代女性)、「経営者の意にそぐわない発言をすると怒鳴られた」(30代女性)、「作成した資料が上司の考えと異なり、大声で長時間叱責されたうえ、学歴についてバカにするような発言をされた」(40代女性)など、個人の尊厳を傷つける言動が日常的に横行している実態がうかがえます。なかには、「上司に進言して以降あたりが強くなり、業務上必要な会話もできなくなった」(30代男性)といった、業務遂行に直接的な支障をきたすケースも。
ハラスメントの種類には、男女で顕著な違いも見られました。男性では「パワハラ」の回答が96%にのぼる一方、女性は84%でした。対照的に、「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」は女性が41%だったのに対し、男性はわずか5%にとどまっています。 女性からは「『ショートカットだとモテないから伸ばしたほうがいいよ』など容姿に関して言及される」(20代女性)、「飲み会で異性の幹部の隣に座ることやお酌を強要された」(40代女性)といった声が寄せられています。
また、妊娠・出産に関する嫌がらせである「マタニティハラスメント(マタハラ)」についても、「上司から『妊娠はまだしないよね?』と声をかけられた」(30代女性)、「育児による時短勤務中、業務に対して意見をしたら『残業もしないくせに意見するな』と言われた」(30代女性)など、制度を利用する従業員への配慮を欠く深刻な事例が報告されました。
近年問題となっている顧客からの迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」についても、「『こんな不良品売りつけやがって!』と商品を投げつけられた」(40代女性)、「電話で怒鳴られた後、今から行くから待ってろと脅された」(30代女性)など、従業員の安全を脅かす悪質なケースが散見されました。
3割が「誰にも相談せず」、背景に「解決への諦め」
ハラスメントという理不尽な被害に遭いながらも、声を上げられずにいる人が少なくないことも、今回の調査で明らかになりました。ハラスメント経験者のうち、31%が「誰にも相談していない」と回答しています。特に男性(37%)は女性(23%)よりもその傾向が強く、年代別では40代以上(33%)が20代(24%)を上回りました。
なぜ相談という選択肢を取らないのか。その理由として最も多かったのは、「相談しても解決にならないと思ったから」(68%)というものでした。これは、職場の問題解決能力に対する根強い不信感や、過去の経験に基づく諦めが背景にあると考えられます。
相談した相手としては、「上司」(32%)が最も多く、次いで「同僚」(25%)、「家族」(20%)と続きます。しかし、実際に誰かに相談した人のうち、状況が好転したのはわずか27%(「解決した」11%、「解決しないまでも改善した」16%)に過ぎませんでした。その一方で、「解決しなかった」が63%、「状況が悪化した」が10%と、合わせて73%のケースで問題が放置されるか、かえって事態が悪化しているという厳しい現実が示されました。
「解決できなかった」エピソードとしては、「課長からのハラスメントを部長に相談したが、課長が部長より年上のせいか注意さえしてもらえなかった」(20代男性)、「相談窓口は会社に報告しただけで何の変化もなかった。その後先輩に相談したら今度は先輩がターゲットになり迷惑をかけてしまった」(30代女性)など、組織の力学や相談窓口の機能不全を指摘する声が多く聞かれます。
さらに深刻なのは、相談したことで状況が悪化するケースです。「相談した事がバレてより酷い扱いを受けるようになった」(30代男性)、「社内通報窓口に相談したところ犯人探しが始まってしまった」(40代男性)、「相談をしたら『メンタルが弱いだけだ』と逆にハラスメントを受けた」(20代男性)といった、二次被害とも言える事例が後を絶ちません。このような経験が、「相談しても無駄だ」という諦めを組織内に蔓延させ、被害者が沈黙せざるを得ない状況を生み出しているのです。
もちろん、「人事に相談したところハラスメントをした人が異動となった」(30代女性)、「上層部が抜き打ちで事業所訪問をしてくれたことでハラスメントが収まった」(30代女性)など、組織が適切に対応し、解決に至った例も存在します。これらのケースでは、当事者間だけでなく、人事や上層部といったより客観的で権限を持つ第三者が介入している点が共通しています。
2022年4月に改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が中小企業にも義務化され、企業のハラスメント対策は社会的な責務となりました。今回の調査では、職場のハラスメント対策について45%が「実施している」と回答し、2024年の同調査から8ポイント上昇しました。しかし、依然として31%、約3社に1社が「実施していない」と回答しており、対策の浸透にはまだ課題が残ります。
ハラスメントは個人の問題ではなく、組織の生産性を著しく低下させ、人材流出にもつながる経営上のリスクです。形骸化した対策ではなく、従業員が安心して声を上げられ、問題が適切に解決される実効性のある仕組みと、ハラスメントを許さないという断固とした組織文化の醸成が、今まさに求められています。
[参考資料]
エン株式会社『「ハラスメント」に関する実態調査ハラスメントを受けた経験がある方の3割が「誰にも相談しなかった」。職場のハラスメント対策、進展の一方で31%が未実施』



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