食欲の秋、行楽の秋。そして、バーベキューの秋! 今年はサンマも豊漁で、夜風に当たりながら炭火で堪能すれば、もう極楽は確約されている。

 ただ、昨今のバーベキュー事情から切り離せない話題となってしまっているのが、禁止区域での火おこしやゴミの不法投棄などの迷惑行為である。

 昭和であれば、食べ残しを土に埋めて帰ることも当然だったかもしれないが、今では熊害の観点からはっきり禁止されている場所も少なくない。

 ルールがアップデートされるなか、知らないうちに迷惑行為を犯してしまったら――。今回話を聞いたのは、ギリギリで違反行為への加担を回避できたという、前田浩二さん(仮名・26歳)だ。

◆帰省し、地元の友人とバーベキューをすることに

 前田さんは大学進学とともに北関東の実家から上京すると、地元に戻ることなく、現在も都内で会社員をしている。

 昨年、少し遅めに取った夏休みに帰省すると、同窓会を兼ねたバーベキューに誘われた前田さん。そこで事は起きた。

「小学校時代から仲の良い男女6人のメンバーです。同窓会といっても、自分以外の5人は進学も就職も地元組。就職してからは忙しく、帰省もままならなかった僕だけが久しぶりの再会で、僕だけが子供のころ以来の河川敷バーベキューでした」

 前田さん以外のメンバーは、よく地元でバーベキューをやっているようだった。

「なかでも幹事のAは、このところしょっちゅうバーベキューを催しているようで、『音頭は俺に任せてくれ!』と、ノリノリで準備と指示出しをしてくれたんです。精肉店が実家の友人には肉の調達を、実家に畑がある友人には野菜の調達を任せ、私には『豊洲市場で魚を調達してこい!』との指令が。思ったよりガチだなあと思いましたが(笑)、Aと残りの2人は機材や飲み物の準備をしてくれ、それはもう万全の態勢が整えられました」

◆なんの躊躇もなく、ゴミを捨て始めた

 たしかな食材が、つつがなく焼かれていくバーベキュー。それはもう最高の味わいだったそうだ。

「5人全員と会ったのは3、4年ぶりのことでしたが、自分だけが置いていかれることもなく、まるで子供のころに戻ったかのような楽しさでした。クーラーボックスが重いからと父の車を借りて行ったがために、ノンアルなのが悔しいくらい美味しかったですしね。それも含めて童心を思い出せたともいえそうですが」

 昼に集合した一行が解散したのは、とっぷり日が暮れるどころか22時を過ぎてのことだったというから、その盛り上がりぶりはさぞや。

「みんな朝から準備して始めたバーベキューですからね。そろそろお開きにしようかと、誰が言うでもなくそれぞれが片付け始めたときに問題が起きました。幹事のAがなんの躊躇もなく、近くの竹藪のようなところにゴミを捨て始めたんです。飲み残しや食べ残しならいいのかな、くらいにはじめは思っていたのですが、紙皿やプラコップ、缶やビンなど、あらゆるゴミを捨てていました。炭の片付けをどうすればいいかと聞いても、『そんなのそのままでいいに決まってるじゃん』と言われてしまって……」

◆「この辺ではゴミを捨てても問題ない」と主張…

 ちなみに炭の放棄も立派な不法投棄である。自然に分解されることがないからだ。

「Aに『せめて缶とかビンとか、プラスチック類は持って帰らないとマズくない?』と言いました。すると、『この辺ではゴミを捨てても問題ないから。いつもこうやってるし大丈夫』と、謎の地元ルールを説明してきたんです。

 Aはかなりお酒を飲んでいる様子だったので、ほかの友人にも聞いたのですが、Aが大丈夫というなら大丈夫だろうと。自分がバーベキューに不慣れで知らないだけで、そんなものなのかと思い、ゴミを残したまま河川敷を後にしてしまいました」

 とはいえモヤモヤした感情が残った前田さん。実家に着くと、バーベキューのゴミ捨て事情を調べた。

「すぐにいろんなニュース記事がヒットしました。当事者じゃないからと耳に入ってなかっただけで、こんなに社会問題化していたのかと驚きましたね。不法投棄で罰せられる可能性もある、熊害にもつながるという文章を見て、いてもたってもいられず、あわてて現場のゴミと炭を回収しに行ったんです。

 出発時には、Aにも回収を手伝うよう電話したのですが、『東京に行ったお前にはわからないだろうけど、地元ではOKなルールなの!』と取りつく島もなく、ガチャ切りされたんです。バーベキューメンバーのグループLINEにも『やっぱり回収すべきだと思うから、今からしに行く。手伝えそうな人は来て』と送ったのですが、みんな既読スルー。仕方がないのでひとりですべての片付けをやり直しました」

◆翌日開いたグループLINEの内容に愕然…

 ひとりきりでの片付けに疲れ果てた前田さんは、翌日は昼前までぐっすりと眠ってしまったという。そんな寝ぼけまなこでLINEを開くと、さらに目を疑うような光景が広がっていた。

「例のグループLINEのチャットが結構溜まってたんですよね。『昨日は酔っててごめん! 片付けてくれてありがとう』といった内容だったらよかったのですが……。実際には開き直るばかりか、僕が寝ていてレスがないあいだに『アイツ昔からちょっと真面目すぎるとこあるよな(笑)』『でもおかげで河川敷の美しい自然は保たれました(ウルウルした顔の絵文字)』など、小馬鹿にした調子でイジって盛り上がっていたんです。管理している自治会の方々がどれだけ苦労しているのか、地元住人の方々がどれだけ困っているのかを知った今、低俗なありえないノリとしか思えず、到底受け入れられませんでした」

 怒り心頭に発した前田さんは、ある人物に連絡を取った。

「高校時代の先輩に、地元県警に勤めている方がいました。Aを筆頭に、彼らがバーベキューのたびに不法投棄を繰り返している可能性がある旨を、その人にタレ込んだのです。自分は地元から離れているし、彼らにどう思われようがもはやなんでもよかったのですが、親は地元コミュニティにいるままですからね。密告元がバレないよう念も入れました」

◆主犯格は、父親に「泣きながら土下座

 それから1カ月ほどが過ぎたころ。前田さんのもとに、県警の先輩と野菜を調達してくれたバーベキューメンバーから連絡が来た。

「タレコミ以来、自治会と連携を取り、見回りを強化してくれていたらしいんです。そこになにも知らないAとヤツの友達連中が来て、不法投棄をした瞬間をばっちり押さえられたようでした。ちなみに、Aの父親は地元の建設会社を経営していて、行政ともベッタリの関係です。なのですぐに不法投棄の話は漏れ、Aはカンカンに怒った父親に会社をクビにすると宣言されたとか。

 結局、父親とともに自治会と警察に謝りに行ったみたいです。一番怒っていた父親には、泣きながら土下座して、ようやく許してもらえたそうで……(笑)。はなから僕の忠告を聞いておけばよかっただけなのに。そんなこんなで地元ではちょっとした騒動になったようで、それを聞きつけた野菜の子からの連絡には、『獣害は他人事じゃないのに、自分の考えが甘かった』などと、反省と謝罪が綴られていました」

◆無知や無関心以上に恐ろしいのは…

 無知や無関心が、判断を誤らせてしまうことは少なくない。だが、前田さんは無知や無関心以上にもっと恐ろしいものがあると語る。

「冷静に考えれば、どんな場所でも不法投棄が許されているわけがないとわかるはず。それなのに、場の空気に飲まれてしまって、一時は自分もゴミを放置してしまったのです。

 野菜の子も同じですよね。ご家族の苦労を知っているのに、トラブルが大きくなるまで同根であることに気がつけず、『いつもみんながやってること』と、問題視できなかった。

 主犯格であるA含め、おおごとになってもなお連絡がない4人とは、もう縁を切るつもりです。反省すらできないような連中と仲良くしていた自分が恥ずかしいし、またいつ巻き込み事故に遭うかもわからないですから」

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「知らなかったから」では済まないことがある。「みんなやってるから」問題ないとは限らない。

 特に火おこしや川遊びは、危険が伴う活動だ。事前に、自らと周辺地域の人々を守るためのルールをしっかり学び、実践せねばならない。それを怠ったまま楽しいひとときは過ごせないことを、ゆめゆめお忘れなきように。

<TEXT/高橋マナブ>

【高橋マナブ】
1979年生まれ。雑誌編集者→IT企業でニュースサイトの立ち上げ→民放テレビ局で番組制作と様々なエンタメ業界を渡り歩く。その後、フリーとなりエンタメ関連の記事執筆、映像編集など行っている

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