長く働いても収入が上がらない——。そんな声が、30代・40代の中堅世代から多く聞かれます。特に物価上昇が続く昨今、月の手取り20万円前後では「暮らすだけで精一杯」という人も少なくありません。本記事では、都内の中小企業で事務職として働く35歳の会社員・田村誠さん(仮名)がたどり着いた副業についてみていきます。

手取り20万円。昇給は「年500円だけ」

「大学を出てすぐこの会社に入って、今年で13年目。でも昇給は毎年500円〜1,000円くらい。ここ5年は全く変わっていません」

田村さんの手取りは月20万〜21万円ほど。都内で家賃8万円の1Kに一人暮らしし、残りは食費・光熱費・通信費・交通費などでギリギリだといいます。

「特別な贅沢をしているわけじゃないです。交際費も削っているし、洋服も年に数回ユニクロで買うくらい。でも、ここ2年ぐらいは明らかに生活が苦しくなったと感じます」

昇給が見込めず、ボーナスもわずか。今後の人生設計に不安を抱き、副業を始める決意をしました。

最初に始めたのは、Uber Eatsの配達員。会社から帰宅後、自転車で近所のエリアを1〜2時間回るのが日課になったといいます。

「最初は勇気が要りました。知り合いに会ったら気まずいなとも思いましたし、体力的な不安もありました。でも、背に腹は代えられなかった。夜の街って、案外見られてないんですよね」

報酬は1時間あたり1,000〜1,500円程度。月に2万〜3万円の副収入になりました。加えて、休日は部屋の片づけを兼ねて、不要品をメルカリで出品。「昔のゲームソフトや使っていないキッチン家電」が意外な値段で売れたといいます。

さらに最近では、セール商品やフリマで仕入れた雑貨や中古書籍を、相場より高値で売る“スキマ転売”も開始。副業での月収は、安定して5万円前後に到達しました。

政府は働き方改革の一環として、副業・兼業の推進を掲げています。厚生労働省が公表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、従業員の健康確保や労働時間管理を条件としつつ、副業を積極的に認める方向性を示しています。

一方で、副業には確定申告の義務も伴います。年間20万円を超える雑所得がある場合、会社員であっても確定申告が必要。また、Uber Eatsなどの配達業務を継続的に行う場合は、開業届の提出やインボイス登録の有無も意識する必要があります。

田村さんも「最初は全然わかりませんでしたが、ネットやSNSで情報収集して、今は会計ソフトで帳簿をつけています」と話します。

「本業では評価されなくても、副業は自分の努力で稼げる」

田村さんにとって、副業は単なる生活費の補填だけではないといいます。

「会社では何をしても評価されない。でも、配達は“1件やればいくら”ってすぐ返ってくる。売れた商品も通知が来るし、レビューももらえる。誰かの役に立った実感があって、自尊心が保たれるんです」

確かに、副業には「体力がいる」「ずっと続けられるか不安」という側面もあります。しかし、「自分に残された選択肢の中で、できることをやっているだけ」と、田村さんは静かに語ります。

2023年以降、実質賃金は前年比マイナスが続き、多くの人が「生活防衛」の必要性を感じています。そんななか、副業は“お金を稼ぐ手段”というだけでなく、“働くことの意味”や“自己肯定感”を再発見する手段にもなりうるのかもしれません。

「副業で生活が豊かになったとは言いません。でも、何もできないまま不安になるよりは、よほどマシです。自分で選んで、自分で動いて、お金を得る。その実感があれば、なんとかやっていける気がするんです」

“がんばっても給料が上がらない時代”に、田村さんのように小さな一歩を踏み出す人たちが、静かに増えています。

(※写真はイメージです/PIXTA)