年々苛烈さを増す酷暑をものともせず、今年も各地で開催された「音楽フェス」は大きな盛り上がりを見せた。

 だが、悲しいかな。楽しい場には不埒な輩も寄ってきてしまう。今夏行われたとあるロックフェスでつきまとい被害に遭ったという今田真希さん(仮名・25歳)に、その顛末を聞いた。

◆楽しみにしていた夏フェスが台無しに…

 今田さんは筋金入りのロック好きで、これまでにもさまざまなフェスに参加してきたという。

「この夏に参加したフェスそのものは初めてでしたが、同じくらい大きな規模のフェスへの参加経験は複数ありました。なので、誘った親友の女友達をしっかりアテンドするべく、入念な暑さ対策とスケジューリングの上で当日を迎えたんです。

 好きなアーティストの出演予定がたくさんあったので、何時にどこへ移動して、いつ休憩を取って、食事はどうして、宿はどこで、荷物はこうして……と、何カ月もかけて準備を重ねてきたのに。あいつらのせいで台無しにされてしまいました」

 今田さんたちの会場入りから数時間ほどが経ち、2人のボルテージも十分上がったところで“ヤツら”は現れた。

酔っ払いナンパ男に付きまとわれてしまう

「次々に見たいアーティストが出てくる時間帯で、1秒たりとも無駄にしたくないと思って行動していたときのことでした。目当てのアーティストの出番が終わり、次の会場へ向かおうとしていると、酔っ払いの同世代か少し上くらいの2人組にナンパされたんです。

 まだ夕方の早い時間帯で、夏だから日中と同じくらい明るかったのですが、ヤツらは早くも完全に出来上がっていました。私たちは見た目こそ派手ですが、純粋に音楽目的。フルシカトしてさっさと移動しようとしたのですが、あとをピッタリつけてくるんです。会場はそりゃ人が多いですから、簡単に振り切れなくて……」

 たまたま「俺らも同じアーティストを見たいだけだからさ!」とのたまい、今田さんたちにつきまとうナンパ野郎2人。

「無視しつづけたんですが、『こういうのも醍醐味だと思って君らも来てるんでしょ? 照れなくていいから(笑)』なんてほざきはじめて。その言葉に腹が立って、『ふざけんな、失せろ!』と言ったんです。それがマズかったんでしょうね。ヤツらの目的が『ナンパして落とすこと』から『嫌がらせること』に変わったんです。こちらからすればナンパの時点で迷惑な嫌がらせでしかないのは同じでありつつ……」

◆盛り上がるふりをして体当たりを繰り返す

 なんと、今田さんらの真後ろについた野郎どもは、盛り上がるふりをして体当たりを繰り返してきたそうだ。

「ちょうど私が一番楽しみにしていたアーティストの出番のときだったんです。だから最初は悪意に気がつかないふりでスルーしていたんですけど、どんどん力が強くなってきて。ステージどころじゃなくなったので、あらためて文句を言いました。

 自分が男ならその時点で間違い無く殴りかかっていたでしょうが……(苦笑)。でも実際には明らかに腕っ節では負ける性別・体格なわけで、どれだけ非難したところでヘラヘラするだけでやめてくれませんでした」

 我慢の限界に達した今田さん。「今すぐスタッフを呼ぶ!」と怒鳴った。

「すると今度は卑猥な言葉で私たちを貶めてきたんです。もう怒りでわけがわからなくなって、胸ぐらを掴みにかかろうとした瞬間に、救世主が現れました」

 それは60代と思しき、男性3人組だった。

◆貫禄があるおじさんからの救いの手

「グレイヘアだったりで、そんなに若くはなさそうだったんですが、体格もよければイカついサングラスとヒゲがばっちり決まってて。なんというか、​​ZZトップのような貫禄がある方たちでした! 彼らが『おい、お前らさっきからなにをやってるんだ?』と、ナンパ野郎との間に割って入ってくれたんです」

 ZZトップ風のおじさんたちに、経緯を話した今田さん。

「すぐにナンパ野郎どもを取り囲んで逃げないようにしてくれました。そのときのヤツらの怯えっぷりは傑作でしたね(笑)。ピットブルチワワくらい、迫力が違いましたから。その間に私たちがスタッフの人を呼ぶことができ、迷惑行為を伝えると、リストバンドを取り上げられた上で連行されていきました」

 どうも、ひとりのおじさんの娘さんが今田さんたちと同年代で、他人事だとは思えなかったそう。

「おじさんたちは別れ際に、『自分たちは最終日までいるし、仲間はほかにもいるから、もし困ったらいつでも連絡しろ』と電話番号を教えてくれました。その騒動のあとは翌日も含め、無事トラブルなく終われたのですが、その旨をお礼とともに連絡したところ、『おう、よかったぜ!』とだけ返信が。ナンパを助けたついでに……といった邪心が一切ないわけですよね。ナンパ野郎どもに爪の垢を飲ませたいですよ」

◆今のロックフェスナンパなんて…

 今田さんはおじさんたちへの感謝を何度も重ねつつ、ナンパ野郎にはこう釘を刺す。

音楽フェス、それも今のロックフェスナンパなんて、成功するわけがありませんから! どんな年齢でも容姿でも関係なく迷惑なんで、金輪際やめるように」

 伝説のウッドストックも今は昔。平和はまだ遠くとも、フラワーチルドレンがいなければ、性愛もフェスで求められていないのだ。

 ナンパ目的のフェス参加はただの迷惑客でしかないことを胸に刻まれたい。

<TEXT/高橋マナブ>

【高橋マナブ】
1979年生まれ。雑誌編集者→IT企業でニュースサイトの立ち上げ→民放テレビ局で番組制作と様々なエンタメ業界を渡り歩く。その後、フリーとなりエンタメ関連の記事執筆、映像編集など行っている

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