
高齢の親を自宅で介護しているという家庭は少なくありません。とくに要介護度が上がると、日中の見守りや身体介助が欠かせず、家族の誰かが仕事を減らしたり、休職を余儀なくされたりするケースもあります。いずれは施設への入所を検討していても、実際には空きがなく、希望通りに進まない現実も存在します。介護は「ある日突然、限界を迎える」ことがあるものです。
「このままじゃ共倒れ」娘が初めて口にした本音
「もう限界なんです……。あと3日、どうしたらいいか分かりません」
そう切り出したのは、会社員の中山裕子さん(仮名・49歳)。在宅で“要介護3”の母・郁子さん(82歳)を世話してきました。通いのヘルパーやデイサービスの支援も受けていましたが、認知症の進行とともに夜間の徘徊やトイレの失敗が増え、裕子さんの睡眠時間は日に日に削られていきました。
「仕事があるから日中は集中しなきゃいけないのに、夜は2時間おきに起こされて…。正直、自分が壊れそうでした」
ケアマネジャーに相談し、ついに「ショートステイ(短期入所生活介護)を経て、特養(特別養護老人ホーム)に申し込みましょう」と話がまとまったのが2週間前のこと。郁子さんは一時的に病院に入院しており、退院日が3日後に迫っていました。
「施設はたくさんあるのに、どこも“今は満床です”って言われるんです」
ショートステイの受け入れ先を探すため、担当ケアマネジャーが複数の事業所に連絡を取ったものの、どこも満室。1週間先なら…という施設もありましたが、郁子さんの退院日はすでに決まっており、それまでに確実に受け入れられる先を見つけなければなりませんでした。
実はこのように、「入所先が見つからない」「退院までに間に合わない」という事態は珍しくありません。多くの施設では、介護報酬の算定や人員配置の都合上、直前の受け入れ調整が難しいのが実情です。また、施設側が自治体の予算の範囲内で受け入れ枠を調整している場合もあり、年度末などの時期には“受付終了”というケースもあり得ます。
「母が入る場所が決まらないなら、自宅でまた看るしかない。でも、私はもう有休も使い切ったし、介護休業も会社に言い出せていないんです」
裕子さんは正社員として働いていますが、昇進を控えたタイミングで、長期の介護休業を申請することに強い抵抗がありました。介護休業制度は最大93日間まで取得可能ですが、実際に利用するには上司への相談や業務調整が必要で、職場の理解も不可欠です。
「制度があるのは知っていました。でも“じゃあ明日から休みます”なんて、会社じゃ言えないんです」
こうして、退院日が近づいても決まらない施設。仕事を休めない娘。入所先の見通しが立たないまま、在宅介護の“再開”が、強制的に始まろうとしていました。
「緊急ショートステイ」や「老健入所」という選択肢も
このような事態に備え、制度上は「緊急ショートステイ」や「介護老人保健施設(老健)」などの一時的な受け入れ先を検討することも可能です。ただし、これらも空き状況によってはすぐに入所できるとは限らず、「病院からの退院」が起点になると、病床確保のため家族に強いプレッシャーがかかるケースもあります。
また、入所条件や自己負担額の違い、医療ケアの必要性などによって施設の選定が難航することもあります。
今回のように、「あと3日で退院なのに、行き先が決まらない」という状況は、誰にでも起こり得ます。体調の急変や病院の都合、施設側の予算枠、年度の切り替えなど、予測できない要素が複数重なったとき、在宅介護の限界は突然やってきます。
「うちはまだ大丈夫」と思っていても、介護は“余裕のあるとき”に次の一手を打っておくことが肝心です。家族だけで抱え込まず、早めにケアマネジャーや地域包括支援センターに相談しておくことで、いざというときの選択肢が増えるかもしれません。



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