建設業の倒産が過去最多ペースで増えるなか、「安すぎる見積もり」に潜む危険は投資家にとって最大のリスクのひとつです。相場とかけ離れた価格の裏には、資金繰りの逼迫や自転車操業が隠れている可能性があります。最新の業界動向と、万が一に備えるための具体的な対策についてみていきます。

甘い見積もりが招いた「工事ストップ」

「まさか自分の身に起こるとは思っていませんでした」

都内で複数の収益不動産を保有する佐藤 健一さん(48歳・仮名)。佐藤さんは数年前、知人の紹介で知った建築会社に、初めての新築アパートの施工を依頼。その会社が着工から数ヵ月後、突然倒産したといいます。

そもそも、なぜ、その建設会社を選んだのでしょうか?

「建築費が、他社の見積もりと比べてかなり安かったんです。その会社は年間を通して多くの実績があり、部材の一括仕入れなどでコストを抑えている、と説明されました。チャンスだと深く考えず飛びついてしまったのが、今思えば最大の失敗でした」

契約は着工時、上棟時、竣工時の3段階で代金を支払うスキーム。倒産が判明したとき、工事はちょうど上棟を終えたばかりで、代金の70%をすでに支払っていました。しかし、実際の工事の進捗、出来高は50%程度。一般的に上棟段階の出来高は50〜60%といわれるため、佐藤さんの場合、すでに「過払い」の状態だったといえます。

佐藤さんが異変を感じたのは、倒産の約2ヵ月前。現場を訪れると、内装工事に取り掛かっているはずなのに職人の数が少なく、作業が遅れ気味でした。不安になり、施工会社の担当者に確認しましたが、「資材の入荷が遅れているだけ」「すぐに挽回できる」と曖昧な回答しか得られなかったといいます。

「社長に直接会って話を聞いたこともあります。会社の経営は順調だと強調していましたが、今思えば、どこか目が泳いでいるように感じました。そのときにもっと食い下がっていれば、と後悔しています」

突然の倒産により、現場は完全にストップ。残されたのは、躯体は完成しているものの、内装や設備が一切入っていない、むき出しの建物でした。

工事が中断したことで、予定していた竣工時期は大幅に遅延。融資を受けている金融機関への返済は始まっているのに、賃貸物件としての収入はゼロ。さらに、このまま工事が進まなければ、金融機関から一括返済を求められる可能性すらありました。

「目の前が真っ暗になりました。何から手を付けていいのかもわからず、しばらくは呆然とするしかなかったですね。幸い、大家仲間の助けもあり、工事を引き継いでくれる別の建築会社と、残りの工事を下請け業者に直接依頼する方法で、何とか建物を完成させることができました。当初の予定から完成まで半年近く遅れましたが、最終的には満室で運営できています」

佐藤さんのケースでは、引き継ぎ工事の選択肢として、すべてを丸投げする元請業者方式ではなく、分離発注という手間のかかる方法を選んだことで、コストの増加を最小限に抑えられました。しかし、倒産から工事再開までの約3ヵ月間は、精神的にも金銭的にも大きなストレスだったといいます。

建設業界の現状…4年連続倒産件数増加

株式会社帝国データバンクの調査によると、建設業の倒産は4年連続で増加しており、2025年上半期には過去10年で最多を更新しました。倒産件数が高止まりしている要因は、主に以下の「三重苦」にあります。

■資材価格の高騰

鉄骨や木材、住設機器などの価格が急激に上昇

人手不足・人件費の高騰

職人の高齢化、若年層のなり手不足、時間外労働の上限規制強化などにより、人件費が上昇

■賃金引き上げ余力に乏しい中小零細企業

上昇したコストを建築費に十分に転嫁できない中小・零細の建設業者が収益悪化に苦しんでいます

特に中小の建設業者は、受注件数を増やすために採算度外視の「安すぎる見積もり」で仕事を受注し、着工金などを運転資金に回す「自転車操業」に陥りやすい構造があります。これが、佐藤さんの事例のように「破格の建築費」に飛びついた投資家を巻き込むリスクを生み出しているのです。

また、建設業界は「元請→下請→孫請」といった多重構造で成り立っているため、一つの会社の破綻が、下請けや資材業者への支払いを滞らせ、「連鎖倒産」を引き起こすリスクも常に隣り合わせです。

投資家が備えるべき「安すぎる見積もり」の危険性とその対策

不動産投資家として、施工会社の倒産リスクを回避し、万が一の事態に備えるために、以下の点に注意が必要です。

・「安すぎる見積もり」には絶対に飛びつかない

相場より極端に安い見積もりは、原価を度外視している可能性が高く、資金繰りが苦しい証拠かもしれません。「薄利多売」で実績を上げている会社に見えても、その裏で自転車操業を行っているケースがあります。対策としては複数の会社から相見積もりを取り、適正な価格水準を把握しましょう。特に、地盤改良費など、物件ごとに異なるはずの費用まで画一的に安い場合は、見積もりの根拠を詳しく確認することが重要です。

・工事契約と支払いスキームを見直す

工事請負契約では、代金の支払い時期と割合が重要です。佐藤さんのように「過払い」の状態になると、倒産後に債権者として残り工事の資金を自己負担する必要が出てきます。「工事出来高」に応じた支払いとするか、完成時の竣工金の割合を多めに設定するよう交渉しましょう。また、不当な追加請求トラブルを防ぐため、変更内容や追加費用は必ず書面で確認・合意しておくことも基本です。

・「乗り越えられる余力」を前提に取り組む

不動産投資は、予期せぬトラブルに巻き込まれるリスクをゼロにはできません。建築会社が途中で倒れても、別の会社に引き継ぎ工事を依頼し、建物を完成させられる資金余力をもって取り組むことが、最も重要なリスクヘッジとなります。工事中断時のリカバリー費用や、数カ月間のローン返済に充てられる手元資金を確保しておきましょう。また、万が一に備え、建築に詳しい弁護士、建築士、そして信頼できる大家仲間など、複数の相談先を確保しておくことも有効です。

「地雷原を走るようなもの」と例えられることもある新築不動産投資ですが、最新の業界動向を知り、地に足のついた備えを意識することが、成功への鍵となります。

[参考資料]

株式会社帝国データバンク『建設業の倒産、4年連続で増加 過去10年で最多ペース 職人不足・高齢化・資材高の「三重苦」』

(※画像はイメージです/PIXTA)