
Bluetooth SIGは10月16日、同日開催のBluetooth東京セミナーの会場で記者会見を開催した。ケン・コルドラップCMOが来日。最新の市場レポート「Bluetooth市場動向 2025年版」に基づき、Bluetooth規格の現状について説明した。
コンドラップ氏は「Bluetooth SIGは誰もが求める『本質的なニーズ』である『つながり』を実現するためのコミュニティである」点を強調。技術を進化させ、仕様として策定していく機関であり、認証機関であり、業界団体である点がユニークだとした。
プレゼンテーションのテーマとしても掲げた「つながりの力でより良い世界へ」というビジョンを推進していく考えで、そのために従来のスローガン「無線でつながる世界」を刷新し、アクセシブルで安全、健康や生産性向上にも貢献する「目的のあるつながり」を重視していくとした。
Bluetooth対応デバイスの年間出荷台数は2025年に約53億台、2029年には約77億台に達する見込み。今後5年間の年平均成長率(CAGR)も22%と高水準を維持する見通しだ。Bluetooth SIGには発足後約20年間の累計で4万社以上が参加、年間で約1000社の新規加入企業があるという。日本はメンバー企業数・認証製品数ともに世界第3位に位置し、重要な国の一つであるとした。
Bluetooth SIGでは常時50を超える仕様策定プロジェクトが進行している。
チャネルサウンディング(高精度測距)、超低遅延なデバイス(HID:Human Interface Device)、高データスループット(HDT:High Data Throughput)、LE Audioの強化、高周波帯対応(5GHz帯、6GHz帯)などの技術が今後の注目領域になるという。
市場分野別の動向を見てみよう。
Bluetoothオーディオ機器は2025年に年間9億台が出荷される見込みだ(ABI Researchによる調査、以下同様)。Auracastによるブロードキャストオーディオも拡大すると予測しているほか、年間3億8600万台のBluetooth HIDデバイス(キーボード、マウス、スタイラス、リモコンなど)の出荷を予測。年間で延べ2.5日を費やすと言われる“探し物”の負担を軽減できる紛失防止タグも、年間8000万台の出荷が見込まれているという。
ヘルスケア分野ではより健康的な世界の実現に向け、パーソナル機器から臨床領域へとBluetoothデバイスへの応用が進んでいる。世界的な高齢化が進むなか、健康への関心は高まる傾向がある。例えば、2030年までに60歳以上の人口は15億人に達するとされており、糖尿病の患者数も増加傾向にある。WHO(世界保健機関)によると過去30年間でその数は4倍に増加。現在、全世界でおよそ8億人が糖尿病と闘っているとのことだ。
こうした背景のもと、Bluetooth対応のウェアラブルデバイスはすでに3億2300万台に達しており、健康管理のインフラとして定着しつつある。個人向けデバイスにとどまらず、医療現場でもBluetoothの採用が拡大。臨床領域では、約3600万台のBluetooth対応患者モニタリング機器が出荷される見込みだ。
用途は自己血糖値計、パルスオキシメーター、体温計、体重計、さらには埋め込み型デバイスまで多岐にわたる。Bluetoothが医療データの可視化と連携を支える技術基盤として存在感を高めている。
製造施設やサプライチェーンでもBluetoothの導入が加速している。工場や倉庫では、資材や部品、作業員の位置を正確に把握するためにBluetooth資産追跡タグが活用されており、その出荷台数は2億4500万台に達する見込みだ。
さらに、振動や湿度などを検知するBluetooth対応センサーも製造現場で普及しており、2026年までにBluetooth接続可能なワイヤレス状態監視センサーの割合は45%に達すると予測されている。これにより、生産ラインの効率化や予知保全の高度化が進むと見られている。
環境負荷の低減と効率化を両立する技術として注目されているのが、Bluetooth電子棚札(ESL:Electronic Shelf Labels)だ。紙ラベルの代替として導入が進んでおり、2029年までに年間1億3800万台の出荷が見込まれている。ウォルマートは米国・カナダで展開を開始しており、日本でもワールドエクスポのコンセプトストアにてセブン-イレブンが電子棚札を展示。Bluetooth SIGは、この分野で標準化に向けた要請を受けている。
さらに低コストな「Bluetoothスマートラベル(印刷可能なタグ)」も注目されており、2029年には年間1億4000万台規模に成長する見通しだ。物流やコールドチェーンでの物品追跡、温度監視用途に有望とされる。ウォルマートはこの技術をパレットなどに採用し、500店舗から4500店舗へ拡大予定。2026年だけでも9000万台の出荷が予測されており、市場の拡大は確実視されている。
超低遅延来年の後半にはハイレゾロスレス/高スループットを投入
Bluetooth SIGは今後の技術進化として、複数の重要テーマを掲げている。
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デバイスネットワーク
照明制御や電子棚札システムなど、数千台規模のデバイス同士が通信する仕組みがすでに実証されている。 -
Auracast
ブロードキャストオーディオ技術で、無制限のデバイスに音声配信が可能。公共空間でのオーディオ共有など新しい利用シーンを想定。 -
高精度測距
紛失防止タグやデジタルキー向けの高精度距離推定技術。これまで数メートル単位だった誤差を数センチレベルまで縮小。自動車アクセスコントロールなどへの応用が進む。
このように、Bluetoothは健康、産業、環境の3つの側面から社会課題の解決に寄与する技術として、次のステージへと進化している。「誰もが求める『つながり』という本質的なニーズに応える技術であり続ける」として、今後も高精度測距、ハイレゾ・ロスレスオーディオ、次世代ネットワーク技術の標準化を推進していく方針を示した。Bluetooth SIGが推進する主要技術領域として、以下の4点が挙げられる。



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