

アフガニスタンに派遣されていた駐留米軍兵士のジェシー・ノット軍曹は、戦場で1匹の猫と出会った。いじめを受けていた猫を最初に救ったのはノットだが、その後この猫に大きな恩返しを受けることとなる。この猫のおかげで、一度はあきらめかけた自分の人生を再び歩むことができるようになったのだ。
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ジェシー・ノットは、南アフガンで兵役についていた時、基地に見慣れない子猫がいるのに気づいた。「子猫は小さくて、基地を走り回っていて、とてもかわいかった。みんなで彼をかわいがったんだ」と振り返る。ところが、子猫が大きくなるにつれ、しだいに誰からも相手にされなくなった。そしてついに、猫がいじめられているところを目撃する。
いじめをやめるよう忠告したノットは、そこで決心した。自分の部屋でこっそり飼おうと。兵士がペットを飼うことは禁止されていたが、ノットは、ステーキの切れ端で猫を誘い込み、自分の狭い部屋にかくまった。
ノットは猫にコシュカというロシア名をつけた。皆に隠れてコシュカの面倒を見ていたノット。しだいにコシュカとの深いきずなが育まれていった。
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ノットに抱かれてじゃれつくコシュカ

そして絶望の日がやってくる。2011年12月8日、ノットのいる基地近くで、軍の護衛隊を狙った自爆テロがあり、ふたりの戦友が死んでいった。戦場では常に死が付きまとう。わかってはいるが、昨日まで元気だった戦友の死を目の当たりにしたノットは強烈に打ちのめされた。目の前が真っ暗になり絶望が支配した。
悲しみに明け暮れ、部屋で男泣きしていたノット。そんな様子をずっと見ていたのだろう、コシュカがポンっと膝の上に乗ってきた。そしていつもと同じようにジャレついてきた。このコシュカの行動で我に返ったノット。コシュカが前に進む勇気を与えてくれたのだ。「突然、コシュカがやってきて、こんなふうに言われたような気がしたんだ。“君は君だよ”って。」
ジェジーは思い起こす。「ぼくは深刻なうつ病になりかけていた。そんなとき、コシュカが元気をくれたんだ。もっと、前へ進めって。決してぼくを自暴自棄にさせず、いつも通り、彼の世話をすることを思い出させてくれた」

ノットには、これ以上コシュカをここで飼えないことはわかっていた。かといって外に出せば、またひどい扱いをうけるかもしれない。ここは危険だ。考えあぐねた結果、現地の通訳の人に相談した。するとその人は、自らの命を危険にさらし、猫をカブールに連れて行ってくれると申し出てくれた。1匹の小さな猫を、戦地で移送するということは大変な困難が伴う。それでも彼はアメリカ人の為にそこまでの犠牲を覚悟で連れ出してくれるという。

コシュカは無事カブールに脱出することができた。ノットの両親は3000ドルを支払い、コシュカを中東から、オレゴン州のポートランドに引き取っていった。
「コシュカはぼくの救世主なんだよ。一度は死んだぼくの心を生き返らせてくれたんだ。」ノットは任務が終わり、またコシュカと再会できる日が待ちどおしくてならないという。
今コシュカは、アメリカのノットの家で元気に暮らしている。
アメリカでは、アフガニスタンやイラクなどに赴任した兵士たちの精神的障害が問題となっている。帰還した退役軍人のうち、4分の1が精神的障害と診断されており、その後社会復帰できなくなるものも多いと言う。精神的障害のうち最も多いのは心的外傷後ストレス障害(PTSD)で6人に1人がこの症状を発症しているそうだ。兵人殺しをした重い罪の意識や、殺される恐怖からくる激しい恐れなどから、ウツや統合失調症になるものもいる。精神科医も軍に同行しているが、それでも救えず重い苦痛から自殺者も相次いでいるという。
(via:精神疾患、ホームレス化…米帰還兵の苦悩 アフガン・イラク戦[https://web.archive.org/web/20130627145920/http://sankei.jp.msn.com/world/news/120715/amr12071523050002-n1.htm])



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