
総務省『家計調査(2024年)』によると、単身高齢者のうち無職世帯の1ヵ月の平均実収入はおよそ13万4,000円。そのうち公的年金等が占める割合は9割を超えています。年金収入のみでは生活費を賄いきれず、子どもからの仕送りや援助に頼る高齢者も少なくありません。一方で、親が“本当の生活状況”を語らないケースもあり、子どもが親の死後に意外な事実を知ることも……。今回は、母親に仕送りを続けていた50代女性が、母の死後に知った〈資産の真実〉を追います。
「年金じゃ足りないでしょ」…続けた仕送り
東京都内で働く会社員の秋山理恵さん(52歳・仮名)は、10年前から離れて暮らす母・美智子さん(享年88)の生活を支えてきました。理恵さんは一人娘で、兄妹も親戚づきあいもなく、母の生活を心配する日々が続いていました。
「母はずっと“年金は月6万円しかない”と言っていました。だから私は、毎月5万円を仕送りしていたんです。光熱費や通院代、食費を考えたら足りないはずですから」
母は78歳で父を亡くし、それから一人暮らし。持ち家ではありましたが、築60年を超え、バリアフリーでもなく、理恵さんは「もう施設に入ったほうがいいんじゃない?」と何度も話を持ちかけていました。
「でも母は“誰にも迷惑かけたくないから”って。弱音を吐かない人だったので、私もあまり強くは言えなくて……」
そんな母が亡くなったのは、ある冬の朝。倒れていたのを訪問看護師が見つけ、理恵さんに連絡が入りました。心筋梗塞でした。
「直前まで元気に電話していたので、信じられませんでした。最後に話したとき、“そろそろ言っておこうと思って”って母が言ったんです。“押入れの奥、見てね”って。それが遺言みたいになってしまって」
葬儀を終え、実家を片付けていた理恵さんが押入れを開けると、古い桐箱の中に通帳や不動産の権利書、定期預金の証書がまとめて保管されていました。
「全部合わせたら、預金だけで1,800万円以上ありました。不動産も、隣の空き地を父が生前に購入していたみたいで。固定資産税の支払い通知なども、母が一手に引き受けていたようです」
想定外の資産に理恵さんは驚きました。同時に、毎月仕送りしていた10年間を思い、複雑な感情を抱いたといいます。
「困ってないなら言ってほしかった、って思いました。でも、母なりの“老後の備え”だったのかもしれません。何が起きても、最後まで人に頼らないようにって」
内閣府『高齢社会白書(令和7年版)』によると、65歳以上の女性の約2割が単身世帯で暮らしています。高齢女性の貧困リスクが指摘される一方で、配偶者を亡くした後も節約と自助努力で資産を守り抜く人もいます。
“思い込み”で支援が過剰になるケースも
「年金しかないから」「貯金がないから」と親が語る内容をそのまま鵜呑みにして、子どもが過剰に支援してしまうこともあります。実際、金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)』によると、70歳代の金融資産保有額の中央値は500万円。生活が厳しい世帯もある一方で、現金や不動産などを静かに保有しているケースも少なくありません。
「まさか母がそんな資産を持っていたなんて。でも、あの人らしいなとも思います。“娘には頼らない”っていう覚悟だったんでしょうね」
理恵さんはそう話します。
老後に必要なのは、資産だけではありません。親と子の間で“何をどこまで共有するか”、という認識のすり合わせも重要です。生前整理やエンディングノートの活用、公正証書遺言の作成など、備えを「見える形」にしておくことが、残された家族の安心にもつながります。
「押入れの中身を見て、“これが母の生き方だったんだな”って思いました。今はただ、ありがとうって伝えたいですね」
“老後の備え”には、静かな覚悟と、言葉にしなかった想いが込められているのかもしれません。



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