

電気椅子は死刑の執行具の一つであり、死刑囚に高電圧を加え死に至らしめるというものだ。アメリカでは、絞首刑の廃止論が高まりを見せ、電気処刑の使用を許可する初めての法律が1889年1月1日に施行され、1890年8月6日、ニューヨーク州のオーバーン刑務所にて、電気椅子による初の死刑執行が行われた。
その後1928年、ニューヨーク州シンシン刑務所で、電気椅子での死刑執行の様子が初めて写真におさめられた。

1925年、ニューヨーク、クイーンズに住む主婦ルース・スナイダーは、雑誌のアート編集者のアルバート・スナイダーと結婚していたが、コルセットセールスマンのジャッド・グレイいい仲になり、三年近くも隠れて不倫を続けていた。
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1927年3月12日、ルースとジャッドはアルバートを亡きものにする計画をたてる。そして、うまいこと生命保険に入らせ、強盗の仕業に見せかけてまんまとアルバートを殺した。だが、数ヶ月後、ついに事件の全容が明らかになり、ルースとジャッドは第一級殺人で起訴され、死刑が確定した。

この事件は世間を騒がせ、ふたりの写真は絶え間なく紙面を飾った。大衆は死刑の写真さえ見たがったが、シンシン刑務所は、死刑の現場にカメラマンは同席させないという主義を変えなかった。
ニューヨーク・デイリー・ニュース紙は、刑務所というものは、多くのジャーナリストたちと顔見知りなのを知っていた。そこで、州外からシカゴ・トリビューンのトム・ハワードというカメラマンを雇った。カメラを持っていては、死刑の現場に入れてもらえないことがわかっていたため、ハワードは自分の右足のくるぶしに使い捨てカメラをとりつけ、ズボンの上のほうからシャッターを押せるよう細工した。
まんまと現場に入ることができたハワードは、部屋の端から電気椅子に向かって爪先を伸ばし、ルース・スナイダーが最期の息をひきとった瞬間をとらえた唯一の写真を撮った。
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フィルムはその夜のうちにすぐに現像に回された。下のほうからのアングルで撮られた写真には、右側に看守の足が写り込んでしまっていたが、よけいな部分はカットされ、電気椅子に座るルースの姿が大きく引き伸ばされ、『死んだ!』という見出しをつけてすぐに発行された。
この写真はモノクロだが、アメリカ国内外を問わず、衝撃を与えた。母親でもある32歳の主婦が殺人の罪で有罪になり、電気椅子で処刑されたのだ。不鮮明ではあるが、ルース・スナイダーの姿はもがいているにも見え、体を強張らせ、最期に息が止まる様子を見る者がありありと想像できるようだ。
これまで、マスコミがこのようなショッキングな写真を手に入れたことはなかった。遠くの戦場のものでも、犯罪現場のものでもないのに、この写真は家にいながらにして、まさに生と死の狭間の一瞬を垣間見ることができるものだった。

トム・ハワードは、この写真を撮った功績で、当時大金である100ドルのボーナスを手にした。このとき以来しばらく、死刑に立ち会う者は皆、スボンの裾を上げて、カメラを所持していないかチェックされるはめになった。
今日では、死刑の現場にカメラマンは入れない。新聞やオンラインニュースは、死の前後の様子を報道するだけで、わたしたちが死の瞬間そのものを目にすることはめったにない。
ルース・スナイダーは、いまわの際に聖書のキリスト磔刑の場面から引用した最期の言葉を残している。
“父よ、彼らをお赦しください。彼らは自分がなにをしているのか、知らないのです”(ルカによる福音書より)
References: Archive.org[https://web.archive.org/web/20141201000000*/lightbox.time.com/2014/04/10/first-photo-electric-chair-execution/#2]



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