1888年、イーストロンドンのホワイトチャペル地区で、娼婦を狙った猟奇的な連続殺人事件が発生し、イギリス全土を恐怖のどん底に突き落とした。

 その手口はメスの様な鋭利な刃物でのどを切り裂き、内蔵まで摘出するという残酷なもので、判明しているだけでも5人の女性が犠牲となっている。

 結局未解決に終わったこの事件の犯人は切り裂きジャックと呼ばれ、その正体を巡ってこれまで多くの説が唱えられてきた。

 また本や映画の題材にもなるなど、大勢の人間がその闇に魅せられ、想像力と好奇心をかき立てられてきた。

 126年の時を経てついに、この犯罪史上最大の謎が、現代の科学捜査によってついに明らかとなった可能性があると言う。

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ポーランドからの移民、アーロン・コスミンスキの可能性

 新たなDNA鑑定により、切り裂きジャックの正体はポーランドからの移民、アーロン・コスミンスキである可能性が高いとのことだ。

 事件解明のきっかけとなったのは、2007年、あるオークションに出品された血痕付きのショールである。このショールは切り裂きジャックの犠牲者の1人、キャサリン・エドウッズの脇に落ちていた物で、付着した血液は彼女から流れ出たものだと説明されていた。

 出品者デビッド・メルビル・ヘイズ氏の話では、彼の先祖は当時警官で、犯行現場に立ち会った際に上司に頼んでこのショールを手に入れたそうだ。

 ヘイズ氏は1999年にこのショールをロンドン警視庁の犯罪博物館に寄贈したが、その由来を証明できなかったため、公開されることはなかった。

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 2001年、ヘイズ氏の意向で、同好者によって毎年開催されている切り裂きジャック会議に展示され、また2006年にはチャンネル5のドキュメンタリー番組向けに科学的な鑑定を受けているが、結論は出ないままであった。

 このショールがオークションに出品されたとき、大抵の切り裂きジャック研究家は一笑に付しただけだった。

 だが、これに何かを感じ取った男がいた。その男の名はラッセル・エドワーズ。推理を趣味とし、長年切り裂きジャックの謎を追い求めてきた48歳のビジネスマンである。

2007年にオークションで購入したショールを掲げるラッセル・エドワーズ氏。切り裂きジャックの犯行現場に落ちていたものだという

犯行現場に落ちていた血痕のついたショールが手掛かりに?

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 彼は犯罪博物館で、当時の警察はアーロン・コスミンスキという男が真犯人であるとほぼ断定していたという話を聞いていた。

 コスミンスキ容疑者は、ロシアの虐殺から逃れるため1880年代初頭にロンドンに移り住んできたユダヤポーランド人である。

アーロン・コスミンスキ

 職業はホワイトチャペル地区の美容師であったが、幻聴を伴う妄想型統合失調症に罹患しており、女嫌いで、自慰癖があったという。

 警察は同容疑者を24時間監視下に置いていたが、証拠不十分で検挙できず、結局彼は残る生涯を精神病院で過ごすことになる。

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 エドワーズ氏は、この話を聞くと彼が真犯人であると確信し、その証拠を探すことにした。

執念で犯人を特定したエドワーズ氏。犯行現場の一つ、ハンブリー・ストリートを指差す

 実はショールには聖ミカエル祭の菊の模様が織られていた。今日では廃れてしまった聖ミカエル祭だが、ビクトリア期においては、四半期の勘定支払日と関連してよく親しまれていた。

 聖ミカエル祭の日付は宗派によって異なり、西方教会では9月29日、東方正教会では11月8日とされている。

 エドワーズ氏は、偶然にもこの日は切り裂きジャックが最後の2つの犯行を犯した日とぴったり一致していることに気がついた。

 彼の推理では、娼婦であり、殺される前日に靴を質入したほど貧しかったキャサリン・エドウッズが高価なショールの持ち主であったとは思えず、むしろ切り裂きジャックが捜査をかく乱するために現場に置いて行った可能性がが高いのでは?というものであった。

ロンドンのホワイトチャペル地区で起きた惨劇を描いた作品

ショールをDNA鑑定、切り裂きジャックの体液らしき痕跡

 ショールを手に入れたエドワーズ氏は、遺伝子鑑定の専門家であり、リヴァプール・ジョン・ムーアズ大学で分子生物学を教えるヤリ・ロウヘライネン博士にその鑑定を依頼した。

 関心を示さなかったロウヘライネン博士をなんとか説得し、赤外線カメラでショールを調査してもらったところ、黒く固まった血痕は、犠牲者が切られたとき吹き出した動脈血であることが判明した。

 しかし次の発見はさらに驚くべきものであった。紫外線写真で浮かび上がったのはなんと体液の痕跡だったのだ。

 つまり切り裂きジャック本人と直接繋がるものが発見された可能性があったのだ。さらにエドウッズは殺害された際に腎臓を摘出されているが、その腎細胞と思わしき細胞まで見つかった。

DNAが発見された箇所を示すエドワーズ氏

 エドワーズ氏はこの発見の裏をとるため、付着物の持ち主の子孫を探すことにしたが、ここで一つ問題が持ち上がる。

 それはゲノムDNAでは時間経過とともに劣化してしまい鑑定が困難であるため、より時間経過の劣化が少ないミトコンドリアDNAで辿らなければならないということだった。

 ミトコンドリアDNAとは女性間の間でのみ遺伝するDNAである。つまり持ち主の女系の子孫を探してくる必要があったのだ。

 しかし幸いにもキャサリン・エドウッズの女系の子孫であるカレン・ミラーという女性が見つかった。事情を説明し、DNAサンプルの提供を受けると、再び鑑定を開始。

 結果は完全にエドウッズのものと一致していた。この時点で、このショールが1888年の犯行現場に落ちていた紛れもない本物の遺留品であることが判明したのだ。

 これまで事件現場との関連性を科学的に証明された唯一の物証である。

 この発見に励まされたエドワーズ氏とロウヘライネン博士は、今度は体液のDNA鑑定に取りかかった。体液のDNAは劣化している可能性が高く、採取はより困難であった。

 そこでその分野の世界的権威であるデビッド・ミラー博士に協力を依頼し、2012年、ついに犯人が射精した際に尿道から剥がれたと見られる上皮細胞の採取に成功した。

 その後、コスミンスキの妹マチルダの子孫である女性を探し、彼女の口内からミトコンドリアDNAを採取すると、最後の作業へ取りかかった。

 この数ヶ月におよぶ作業の結果、それが指し示していたのは、最初の勘の通りアーロン・コスミンスキであった。

事件の容疑者たち。左上からクラレンス公アルバートビクター王子(梅毒で心を病んでいた)、外科医ウィリアム・ガル、画家ウォルター・シッカートユダヤ人の靴屋ジョン・ピッツァー、理髪師ジョージチャップマン(後に3人の女性を毒殺)、そしてアーロン・コスミンスキ

 切り裂きジャックは王室の一族でも、高名な外科医や政治家でもなかった。女性を無惨に殺害することで性的な満足を得ていた哀れな、狂った人間だったのだ。

 彼はリーブズデン精神病院で壊疽を引き起こし、53歳でその生涯を閉じている。死に際の体重はわずか44kgだったという。

via:dailymail[http://www.dailymail.co.uk/news/article-2746321/Jack-Ripper-unmasked-How-amateur-sleuth-used-DNA-breakthrough-identify-Britains-notorious-criminal-126-years-string-terrible-murders.html#ixzz3ChW97qWV]・原文翻訳:hiroching

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