昨年のベネチア国際映画祭で、主演の2人がそろって新人俳優賞を獲得した映画「ヒミズ」が、1月14日に公開された。かなりの話題作なのですでにご存知の方も多いと思うが、この映画は、古谷実氏の同タイトルの漫画が原作になっている。

古谷氏原作の「ヒミズ」は、「行け!稲中卓球部」など3つの伝説的なギャグ漫画(筆者独断)の後の作品であり、過去の作品とはうって変わって、ギャグ一切無しで深く重いテーマが取り扱われている。ヤングマガジンの連載は 「笑いの時代は終わりました。これより、不道徳の時間をはじめます」という言葉で始まっており、過去作品とは180度異なる展開に度肝を抜かれたのは筆者だけではないはずである。

また、古谷氏以外にも、戦争や国際関係など複雑な問題に鋭いメスを入れる漫画作品「ゴーマニズム宣言」で有名な小林よしのり氏がブレイクしたのは月刊コロコロコミックおぼっちゃまくん」であるなど、もともとギャグ漫画を作品の主体にしていた作者が、突然シリアスな漫画を書くケースは割とよくあるように思われる。

このような、「ギャグ漫画家が急にシリアスになるわけ」を調べるべく、まずは「マンガ学部」や「マンガ学科」を持つ大学に問い合わせを試みたが、「年末年始で忙しいので……」とやんわりと断られ、途方にくれていたところ、ある漫画家さんから以下のような返事をいただいた。以下、その内容を一部編集した上で掲載させていただく。

「ギャグ漫画家が急にシリアスになるわけ、とのことですが、取り立てて理由付けを必要とするほどの問題ではないように思います。

役者さんでも、お笑い芸人さんが演技派俳優として活躍される例はいくらでもありますし、逆にシリアスな役所の多い俳優さんが笑いをとる演技をされることもあります。つまり、役者でも漫画家でも、『表現者』としては観客を泣かせたり、笑わせたりを自在にできるのが当たり前のことです。

敢えていうなら、『もともとシリアスな演技者志願だったけれどたまたま3枚目のキャラクターでデビューした』という場合には、チャンスがあればシリアスな演技派にチャレンジしたいと考えることもあると思います。一般論として、漫画家の方も同じ理由で路線変更される場合はあるかもしれません。

いずれにせよ、描き手としては、シリアス漫画でもギャグ漫画でも同じ漫画だと思って描いています」

うーん、なるほど。もちろんこれは一人の漫画家さんの意見であり、全ての漫画家さんの意見を代表するものでは決してないが、これが表現者の思いなのか、とも感じる。そういえば、古谷氏の過去の作品のふしぶしにも、「人生とは何か」という問いがちりばめられており、作者が抱えているテーマは不変なのかもしれない。

もしかしたら、「ギャグ漫画」や「ギャグ漫画家」といったカテゴライズすら、当の漫画家さんには不服なのかもしれないですね。
エクソシスト太郎)

シリアスなスキー漫画がはじまるよ!