
クマ被害が過去最悪を記録し、死者13人・負傷者197人という異常事態に陥っている今年。どんぐり不作や人馴れの進行、冬眠しない個体の増加により、市街地での遭遇リスクはかつてないほど高まっている。とくに興奮状態のアーバンベアは警戒心が弱く、人を見つけるや否や襲いかかる危険性がある。山岳地帯での行軍も経験した元外人部隊員とサバイバルのプロに、「いざ、クマに襲われたら」を想定した具体的な対策を聞いた。
◆「接近戦はするな」元外国人部隊の対策
その道のプロたちであったら、迫りくるクマ危機とどう立ち向かうか?
「徒手空拳でクマに勝てるとは考えないほうがいい」
そう語るのは、’04年から6年半にわたってフランス外人部隊・パラシュート連隊所属の隊員として活動した経験を持つ野田力氏。アフガニスタン戦争なども経験した戦闘のプロであるが、帰国後は衛生兵としての活動実績を生かして看護師免許を取得。現在は医療支援業務に携わり、山岳地帯や海岸部での活動も少なくないという。野田氏は「銃がないと私は戦いようがない」と言いながら続ける。
「前提として、私は戦場を経験していますが、まったくクマに対する知識はありません。ただ、人間に比べてはるかに強靭な肉体でパワーも有するクマとは、接近戦で勝てるとは思えません。対人の格闘は目線や重心などで攻撃方法を予測できるかもしれませんが、私は少なくともクマの攻撃など予想できないので。
先日、山間部での医療支援に入った際にはクマ対策として防犯アラームのほか、ナイフを装備しました。専門家によると、興奮したクマにアラーム音は効かないが、山中では『ここに人間がいる』と伝えることで一定の効果があり得ると。まずはクマを近づけないことが重要でしょう」
◆仮に襲われたらプロはどうする?
では、仮に襲われたら?
「いったん命を諦めて闘うでしょう。実際、私はアフガンでは命を諦めることで戦闘時も落ち着いて能力を発揮できた。外国人部隊時代に培ったメンタリティで闘います」
◆サバイバルのプロは「クマをナイフで撃退」
一方、海外の専門機関でサバイバルスキルを学び、ワイルドライフクリエーターとして活動する荒井裕介氏はナイフ一本でクマと対峙した経験を持つ。
「山中でクマと対峙したときは基本的に手を広げて、大声を出して威嚇すると逃げていきます。ただ、地面を叩いているような動きのクマを威嚇してしまうと臨戦態勢に入って一気に向かってくる。昔、野営していたときクマにつけ狙われたことがありました。そのとき私は突進してきたクマをあり物で作った罠にかけ、ナイフで前脚の付け根と首の2か所を突いて仕留めたのです」
幼少期にマタギから教わったことが生きたという。
「クマは硫黄の匂いが嫌いらしく、フィルムケースに湯の花のもとを入れた袋を持っていると寄りつかなくなります。100円均一ショップで売ってる火薬式のおもちゃ鉄砲を携帯していくのも有効で、火薬の匂いと音のダブル効果があります」
◆クマ対策に有効なレジャー用品
意外なレジャー用品が山中でのクマ対策にも有効だとか。
「クマと遭遇したらレジャーシートを両手で持って、立ち上がったときにバサッと大きく広げて、エリマキトカゲ状態になる。それを何度か繰り返すと、クマがびっくりして動きが止まるんです。ビニールがこすれるガサガサ音も嫌いなので、クマが耳を伏せたら警戒しているサイン。その場から逃げていくことが多い」
その一方で、「市街地で遭遇したときのほうが対処は難しい」と荒井氏は続ける。
「クマの足裏は毛で覆われているので、街中を歩いていても足音がしない。それでいて、鹿やイノシシと違ってコンクリートの壁とか木などにも登れるので、前後左右だけでなく、頭上からクマが襲撃してくることもあります」
そんな状況で襲撃のリスクを下げるにはどうすべきか。
「歩道は壁や木などの近くではなく、なるべく道路側を歩くほうがいい。持ち物は発煙筒が理想ですが、光量の強いライトを携帯しておくのも有効です。対峙したクマに光を浴びせると瞳孔が収縮して、人間のシルエットが見えなくなるので一瞬動きが止まる。その隙を見て建物内に避難するなど、クマと距離を取るのが良いと思います」
防犯のためにもライトを持ち歩くのがよさそうだ。
◆レジャーシートを広げて大きく見せる
①ビニールシートをクチャクチャにして音を鳴らす
②バッと立ち上がりながらビニールシートを広げて威嚇。クマが怯んだ隙に後ずさりする
【元フランス外人部隊所属 野田 力氏】
’04年からフランス外人部隊パラシュート連隊・水陸両用中隊で活動。衛生兵の経験を生かし帰国後は医療支援活動に従事
【ワイルドライフクリエーター 荒井裕介氏】
マタギや父からアウトドアスキルを学び、米国発のブッシュクラフトを日本で紹介。「荒井裕介youちゃんねる」でサバイバル術を発信
※週刊SPA!12/9号より
取材・文/週刊SPA!編集部



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