
相続が発生した際に第一にやるべきことがあります。それが「相続人調査」と「相続財産調査」です。実は想定していたよりも相続人や財産が多いなど、親族が把握している内容とは異なる新事実が判明するケースも存在します。では、相続人や財産を確定させ、スムーズに相続を行うためにはどんな準備が必要でしょうか。本記事では、廣木涼氏の著書『突然の看取りでも慌てない!亡くなった後の手続と相続のすべてがわかる本』(ソーテック社)より、相続までの手続きと手順を説明します。
相続人が誰かを確定するのが第一歩
相続が始まったら、最初に取り組むべきは相続人が誰であるのかの確認です。亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍をたどり、婚姻歴や子の有無、養子縁組の履歴なども含めて、相続関係を正確に把握していきます。相続人の範囲が一人でも漏れてしまうと、預貯金の解約や不動産の名義変更といった手続きが止まり、やり直しが必要になるケースもあります。
中には、親が再婚していたことや、前妻の子の存在を家族に話していなかったため、戸籍をたどって初めてその事実が判明することもあります。ときには、夫婦で話し合って子どもには伝えなかった、というケースもあります。こうしたことは相続人が戸籍をたどって初めて明らかになり、子どもたちが驚くことも少なくありません。
協議が成立するには全員の同意が必要
相続人がすべて確定したら、次のステップは遺産分割協議です。これは、相続人全員で遺産の分け方を話し合い、合意に基づいて財産の帰属を決める重要な手続きです。ここで重要なのは、全員の同意がなければ協議は成立しないという点です。誰か一人でも抜けていた場合、その協議は無効となり、手続きのやり直しを迫られることになります。
協議がまとまったら「遺産分割協議書」を作成し、全員が署名・捺印します。これがなければ、不動産の登記や預貯金の名義変更など、相続の手続きに進むことができません。
相続開始から10か月以内には相続税の申告期限もあるため、相続人の確定と円滑な協議進行は、早期対応が大切になります。
相続財産の調査から財産目録の作成まで
預金・不動産・借金も含めて全体像を掴む
相続手続きでは、相続人の確定と並んで重要なのが「相続財産の調査」です。遺産分割や税務申告は、財産の全体像が明らかにならなければ始められません。
注意したいのは、調査すべきなのはプラスの財産だけではないという点です。借入や未払い金といったマイナスの財産も必ず確認する必要があります。見落とせば、後になって債権者から請求を受けることになり、相続放棄や限定承認ができなくなるリスクもあるのです。
調査の手がかりはありとあらゆるものにわたります。通帳や取引明細、郵便物、証券会社や保険会社からの通知、不動産の権利証や固定資産税の納税通知書などを確認します。また、借入金の契約書やクレジットカードの利用明細なども忘れてはなりません。近年ではネット銀行やネット証券が利用されているケースも増えており、パソコンなどの履歴も確認対象になります。
「財産目録」で可視化し、協議に備える
調査した財産は、一つ一つを整理し「財産目録」として一覧化します。財産の種類ごとに、残高や評価額、所在地、契約内容などを記載し、相続人全員で共有できる形にするのが理想です。この財産目録があることで、遺産分割協議や相続税の申告がスムーズに進みます。
財産調査は時間も手間もかかる作業です。誰か一人に負担が偏ると、話し合いに影響が出ることもあります。
そうならないために作業を分担したり、必要に応じて司法書士や税理士などの専門家に依頼するのも一つの方法です。専門家に任せることで調査の正確性が高まり、家族間の不公平感も防ぐことができます。丁寧に進め、正しく把握することが、次のステップである遺産分割協議や各種手続きをスムーズに運ぶ土台となります。
預貯金・株式の名義変更と解約手続き
金融機関ごとに異なる必要書類を確認する
相続が発生すると、被相続人の預貯金口座や証券口座はすべて「凍結」され、出金や取引ができなくなります。これは不正な引き出しを防ぎ、正しい相続手続きを行うための措置です。預金の払い戻しや株式の名義変更を行うには、金融機関ごとに相続手続きを進めなければなりません。口座が複数行に分かれている場合は、その数だけ手続きを行う必要があり、相続人にとって大きな負担となります。
必要となる書類は金融機関ごとに異なりますが、一般的には次のものが求められます。
『相続の際に金融機関への提出が必要な書類』
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本及び印鑑証明書
・遺産分割協議書(または遺言書)
・相続手続依頼書(各金融機関の指定様式)
これらが揃っていなければ手続きが進まず、銀行や証券会社から差し戻されることもあります。早い段階で必要書類を確認し、相続人間で共有することが大切です。
株式や投資信託の相続手続きのポイント
株式や投資信託を保有していた場合も、相続による名義変更や解約の手続きが必要です。
証券口座は銀行以上に手続きが煩雑になり、相続人全員の署名捺印や遺産分割協議書の提出が必須になります。上場株式であれば相続後に売却して現金化も可能ですが、現金化をするために相続人が証券口座を開設し、いったん引き継がないと売却ができないのが原則です。
注意したいのは、遺言がない限り、相続人の誰かが勝手に口座を解約したり、株式を売却することはできないという点です。すべての相続人が同意した内容に基づいて処理しなければならず、ここでも「全員一致」のルールが貫かれます。
【Q&A】親族間で新事実が発覚した場合の相続方法
Q.父は幼い頃に亡くなったと聞いていましたが、相続の連絡で最近亡くなったことを知り、戸惑っています。
A.どのような経緯であっても、法律上は親子である以上「相続人」として扱われます。相続手続きでは遺産分割協議や名義変更などに相続人全員の関与が必要となるため、遺言がない限り疎遠であっても手続きを避けることはできません。
とはいえ、「相続人になったから必ず財産を受け継がなければならない」というわけではありません。相続には3つの方法があります。
『3種の相続方法』
1.すべてを引き継ぐ「単純承認」
2.借金も含めて一切を受け継がない「相続放棄」
3.プラス財産の範囲内でマイナス財産も引き継ぐ「限定承認」
特に「関わりたくない」「役所からの税金請求の通知で初めて知った」というような場合には、放棄を選ぶ人も少なくありません。限定承認は借金がいくらあるかわからないが、自宅など残したい財産があるというときに使われます。相続人全員で行う必要があり、さらに裁判所での手続きに半年以上かかることもあり、手続きや費用の負担は小さくありません。
相続放棄や限定承認は「相続の開始を知った日」から3か月以内に家庭裁判所で行う必要があります。ただし、この期間内に財産の全容がわからない場合には、家庭裁判所に申立てをして相続放棄手続きの期限を延長してもらうことも可能です。負債や資産の有無がはっきりしないときは、延長の申立ても選択肢として検討すると安心です。
突然の知らせにどうしたらよいかわからないと感じるのは自然なことです。まずは「相続人であること」と「選択肢があること」を押さえておき、そのうえで専門家に相談しながら自分に合った対応を選んでいただければと思います。
廣木涼
司法書士法人アベリア代表
行政書士事務所アベリア代表



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