電話で起きやすいのが「聞き間違え」。「いち」時が「しち」時に聞こえたり、エム?エヌ?どっち?と確認されるなんてことは日常よくある話だ。

空港のように、マチガエが許されない場所ではどうしているのか? パイロットと管制塔は無線の「声」だけが頼りなので、Aはアルファ、Bはブラボーなどに言い換える「フォネティック・コード」が使われる。日本語版も存在し、「あなた」は「朝日」「名古屋」「たばこ」、僕は「保険」「だくてん」「クラブ」と、暗号のような会話が飛び交っているのだ。

■暗号のようなフォネティック・コード

無線が実用化されたのは1900年代初期で、アナログかつ原始的な装置だったため、音質が良いと呼べる代物ではなかった。現在の携帯やスマホはデジタル通信なので、非常にクリアに聞こえるが、初期の無線では聞き間違えも多々あった。そこで、言葉を確実に伝えるために誕生したのが「フォネティック・コード」だ。

フォネティック・コードでアルファベットを読むと、
 ・F … フォックストロット
 ・M … マイク
 ・N … ノベンバー
 ・S … シエラ

となり、これをつなぎ合わせて読み上げる。たとえば、「いいね!」に相当するLIKEは、「リマ(またはリーマ)」「インディア」「キロ」「エコー」といった具合だ。戦争ものの映画で「こちらブラボー・シックス」など無線で伝えるシーンは、暗号どころかその逆で、相手にちゃんと伝わるための工夫なのだ。

空港で荷物を預けた際の札には「空港コード」が記され、羽田ならHND、成田はNRTと書かれているのを見たことがあるだろう。これをフォネティック・コードで読むと、
 ・羽田 … ホテル・ノベンバー・デルタ
 ・成田 … ノベンバー・ロミオ・タンゴ
と、ちょっとカッコ良い。ハワイのコナ国際空港はKOAなので、もし正月を過ごすなら、ワイハではなく「キロ・オスカーアルファ」と言ってみよう。

■「和文通話表」で呪文を唱える?

フォネティック・コードには数字や和文もある。英語なのにフシギな発音の123〜が存在するのだ。

カタカナでの標記と、フォネティック・コードを比較すると、
 ・0 … ゼロ / ジーロウ
 ・3 … スリー / ツリー
 ・5 … ファイブ / ファイフ
 ・9 … ナイン / ナイナー
となり、知らないひとが聞くと次郎?ツリーは木?となってしまう。現代の日本語では〇〇するひと/好きなひとは〇〇ラー、〇〇ナーと呼ばれるので、さしずめナイナーはナイが好きなひとだろうか。くれぐれも尻上がりに発音しないようにしよう。

日本語には「和文通話表」が存在し、
 ・あ … 朝日の「あ」
 ・い … いろはの「い」
と読み、
マイナビ … マッチ、いろは名古屋飛行機、濁(だくてん)点
と呪文のようになってしまうので、滑舌(かつぜつ)が悪いとよく指摘されるひとや、ハナが詰まっているとき限定で使うのが良いだろう。

おふざけに思える通話表もじつは大まじめな存在で、無線局運用規則・14条により、海上/航空の分野では「使用しなければならない」と定められ、船や飛行機では当たり前のように使われている。

日常生活で使うのは「電報」を打つときぐらいだろうか。和文通話表で自己紹介も一興なので、興味のあるひとは覚えておいて頂きたい。

■まとめ
 ・飛行機や船では、聞き間違えを防ぐために「フォネティック・コード」が使われる
 ・Aはアルファ、Eはエコーのように、別の単語で一文字ずつ読み上げる
 ・数字の5はファイフ、9はナイナーなど、ちょっとフシギな発音
 ・日本語版も存在し、「さようなら」は「桜・吉野・上野・名古屋・ラジオ」