
表面的な資産の多寡だけでは、人の生活の本当の豊かさは測れません。高額な不動産に住み、億単位の資産を保有していても、日々の現金収支が成り立たなければ、税金や生活費の支払いに苦しむ――そんな現実が、いま高齢世帯の中で静かに広がっています。固定資産税や住民税は、保有している不動産や前年の所得を基に決定されるため、たとえ現金収入が乏しくても「支払い義務」は発生します。特に都市部のタワーマンションなど、評価額が高い物件を持つ高齢者にとっては、重い負担となりうるのです。
タワマンに住む“高齢姉妹”の悩み
「わかっていますよ。払わなきゃいけないのは。でも、本当に困っているんです」
そう訴えるのは、東京都湾岸エリアのタワーマンションに暮らす田村幸子さん(仮名・79歳)と、その妹の紀子さん(仮名・75歳)です。
2人はそれぞれ独身で、両親から相続した不動産と有価証券を共同で管理しながら、20年以上同じ物件で生活を続けてきました。
築15年・駅直結・高層階――資産評価額は合計で3.5億円を超えるとされ、外から見れば“資産家姉妹”に見えるかもしれません。しかし、現実には「現金収入がほぼゼロ」という問題に直面していました。
田村姉妹の主な収入源は、それぞれの年金(月額合計で約22万円)と、持ち株からのわずかな配当金です。数年前までは定期的に株式を売却して現金化していましたが、コロナ禍以降は相場の不安定さもあり、売却を控えるようになったといいます。
「親から受け継いだ株が多くて、売るにも気が引けてしまって。結果的に、現金がどんどん心もとない額になってきてしまったんです」
そんな中で届いたのが、固定資産税や住民税の納税通知書。昨年と比べて評価額が上がったこともあり、合計で年間70万円を超える納税が求められました。
「もちろん払います。でも、現金がないんです。投資信託を一部解約するか、マンションを売るしかないんでしょうか……」
紀子さんはそう話しながら、窓口で手元の通知書を見せました。相談員も、「“持っている人”が困るケースは実際に増えています」と話します。
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』によると、70歳代の二人以上世帯の平均金融資産は1,757万円にのぼります。資産の内訳を見ると、預貯金を中心に保有する世帯が多い一方で、株式や投資信託といった有価証券を一定割合で組み込んでいる世帯も存在します。
たとえば、70歳代の世帯では、株式を「保有している」と回答した割合は39.1%。一部の世帯では、こうした運用型の資産を“主な資産”として位置づけているケースも見られます。
しかし、こうした資産は市場変動の影響を受けやすく、場合によっては流動性に乏しいこともあります。つまり、「見かけの資産額」はあっても、生活資金にすぐには充てにくい、という事情があるのです。
「資産を売れば税金が増えるが、売らなければ現金がない」
固定資産税は毎年1月1日時点での不動産保有者に課される税で、評価額を基準に自治体が決定します。住民税は前年の所得に応じて算出されますが、株や投資信託などを売却した場合は「譲渡所得」として課税対象になります。
「資産を売れば税金が増え、売らなければ現金がなくて税金が払えない」――そんなジレンマに直面する高齢世帯が、近年増えているのです。
一部自治体では、高齢者や低所得者を対象とした「固定資産税の減免措置」や「徴収猶予制度」も存在しますが、適用には所得制限や事前申請が必要で、資産価値が高い場合は対象外となることがほとんどです。
「“あんな高いマンションに住んでいて”って言われることもあるんです。でも、私たちにとっては実家みたいなものなので」
田村姉妹が暮らす部屋は、かつて両親と共に住み始めた思い出の場所。安易に売却という選択肢がとれない理由も、そこにあります。
「洋服も外食もほとんどしません。でも、固定資産税と管理費と光熱費を払ったら、残りなんて本当にわずかです。資産家って、なんなんでしょうね……」
高齢者の“貧困”というと、「貯金がない」「年金が少ない」といったイメージが先行しがちです。しかし実際には、「資産はあるが現金がない」「持ち家が高額で税だけ重い」といった、“見かけの裕福さ”に苦しむケースも少なくありません。
老後の生活設計においては、「資産の額」だけでなく、「流動性」や「固定支出とのバランス」も重要です。



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