「国民の多くが愛子天皇を望むのなら、女性天皇を認めるべきでしょう」ジャーナリスト江川紹子が、現状に“疑問”を抱いているワケ〉から続く

 王室制度に詳しく、2021年の政府の有識者会議でヒアリングを受けた、駒澤大学法学部政治学科の君塚直隆教授(58)は、男系男子のみが天皇になれるという主張は、「歴史を故意に歪めています」と憤る。

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「男系男子のみで繋いできた伝統」は存在するのか?

 皇位の継承は、父方に天皇の血を引く男系男子に限る――そう定めた皇室典範が出来たのは、1889年のこと。たった137年前です。実在した可能性が高く、いまの皇室に繋がると考えられる継体天皇の時代から、約1500年間続く皇室の長い歴史の、ほんの一部に過ぎません。

 この間、女性天皇は8人いました。明治以降、女性天皇たちを過度に貶め、あくまで「中継ぎ」と見なす研究も多く存在しましたが、それは正確ではありません。彼女たちは、確かな実績を残していました。

 たとえば、女性初の天皇となった推古天皇。この時代の天皇は豪族の合議制で決まり、性別問わず有能で、リーダーになる資格があると認められなければ天皇になれませんでした。実際、推古天皇は40歳近くで即位し、以降36年にわたって、中央集権国家の基盤を築きあげました。遣隋使派遣の開始や仏教の導入など、これまで聖徳太子の手柄だとされていた実績の多くは、実際は推古天皇が推し進めた政策だったことが示されつつあります。

 その後、儒教思想が強く、男性しか皇帝に即位できないシステムの中国を真似たことで、奈良時代後期の称徳天皇以降、女性天皇が現れなくなりました。次の女性天皇が誕生したのは江戸時代。明正天皇、後桜町天皇の2人が即位しました。

 こうした歴史を踏まえると、「男系男子のみで繋いできた伝統だ」という主張が、いかに荒唐無稽なものであるかがわかるでしょう。

 いま、ヨーロッパでは「絶対的長子相続制」が当たり前になっています。性別に関係なく、第1子を優先するという制度です。

ヨーロッパでは女王が誕生している

 ヨーロッパでも、かつては殆どのキリスト教国で、古代以来の法律によって、王位継承権は男系男子に限られていました。

 そのようななか、女王が即位することになった背景には、男性の世継ぎが生まれなかったことが大きかった。イギリスでは16世紀にエリザベス1世が、オランダでは19世紀から三代続けて女王が即位しました。

 2度の大戦を経て、男女同権の意識は高まっていきます。デンマークでは1953年に憲法と王位継承法が改正され、男子の継承者がいない場合に限り、女性の継承が認められるようになりました。当時の国王フレゼリク9世には息子はいませんでした。また、弟のクヌーズ一家は、大戦中にナチスへ傾倒しており、国民からの人気があまり高くなかった。そこで、フレゼリク9世の長女のマルグレーテ2世が、デンマーク初の女王になったのです。ただ、この時はあくまで「男子優先」でした。

 スウェーデンでは、79年に法改正がなされ、男子にしか認められなかった王位継承権を、男女関係なく第1子が優先して得られる「長子優先」になりました。

 当時、国王カール16世グスタフは制度変更に反対していたとされます。しかし、市民の間では男女平等という意識が、当たり前になっていました。王室だけが違うのはおかしいということになり、制度変更がなされた。

 これがヨーロッパ初の事例となり、オランダ(83年)、ノルウェー(90年)、ベルギー(91年)と、ドミノ倒しのように、絶対的長子相続制への改正が行われていきました。デンマークも、2009年に長子優先へと移行しました。将来的には、愛子さまと同世代の女性たちが、次々と女王になる時代が来ます。

 私はヨーロッパ同様、日本も男女問わず第1子が皇位を継承する、長子優先にすべきだと考えています。また、女性皇族にも宮家を創設できるようにする必要があるでしょう。そうしなければ、皇族数の先細りは避けられず、女性・女系天皇を認めなければ、天皇制を安定的に維持することが困難になってしまいます。

声の大きな男系男子論者に押されている

 ただ、このような議論をするにあたって、日本の若者の間で皇室への興味が薄れていることは懸念しています。イギリスでは11人ほどの王族だけで、3000もの慈善団体や組織の会長に就き、公務をこなしています。また、その情報をSNSも利用して、積極的に発信してきました。

 22年に亡くなったエリザベス女王は生前、お1人で600以上の団体のパトロンを務めていました。決してお飾りではなく、団体の幹部らを宮殿に招き、コロナ禍にはオンラインでミーティングをするなど、最期まで運営にも積極的に関わっていました。

 王室メンバーが、自分自身でチャリティー団体の発起人になることも多い。

 民主主義と、世襲によって王位や皇位が継承される君主制は、相反する制度のように思えてしまいます。ただ、王室や皇室は、政府の手がどうしても行き届かない社会福祉の拡大、学術や芸術分野の振興などの役割を担っています。こういった活動を通じ、民主主義を補完することで、国民から“大切な存在である”と思ってもらえるのです。

 日本の皇室が情報発信のためにSNSを始めたのは、ようやく24年になってからです。成年皇族は16名いますが、代表などを務める団体は約100とかなり少ない。公務の数も、イギリスに比べれば物足りない。

 日本では、国民の大多数が女性天皇を支持しながらも、「皇位継承制度を改正すべきだ」という強い機運が起こっていません。少数ながらも、声の大きな男系男子論者に押されてしまっている。

 その背景には、皇室の情報発信や公務の少なさなどの問題があると、私は考えています。

週刊文春 電子版」では、旧宮家の生活実態や本人たちを連続直撃した【「愛子天皇」大論争に新展開】旧宮家・男系男子の衝撃告白「女系天皇でいい」など続報を配信中。また、女性・女系天皇の賛否についての25000人アンケートの結果「愛子天皇」をなぜ高市首相は拒絶するのか《宮内庁長官を直撃》など「愛子天皇」論争について詳しく報じている。

(君塚 直隆/週刊文春 2026年5月7日・14日号)

政府の有識者会議に度々呼ばれている