中国は経済が発展して久しいが、それでもなお消費者には、いまだに食の安全への根深い不信が厳然として存在している。今回は最近、中国社会をにぎわせている薬品漬けヤマモモの問題を通じて見える、中国における食の安全について解説したい。

毎年、この時期になると中国の果物市場に欠かせないのが、厚い果肉と甘さが特徴のヤマモモ(楊梅)だ。しかし、現在は「旬のヤマモモを食べたいけれど、怖くて買えない」という人が続出している。

ことの発端は、福建省のヤマモモ業者が、日持ちさせ、甘みを増すために違法な添加物や甘味料にヤマモモを浸していたことが暴露されたことである。

抜き打ち検査用のサンプル用意

5月20日の報道によると、すでに問題のヤマモモ540kgを回収、違法添加物20.1kgが押収、5人が逮捕された。問題のヤマモモと違法添加物はすべて押収され、廃棄処分となったとされる。

これらの違法な添加物は、神経や内臓にダメージを与える可能性があり、さらに、深刻なホルモンバランスの不調を引き起こす恐れもあるとされている。

そして悪質なことに、業者たちは取り締まりを逃れるため、薬に浸していないヤマモモを数箱あらかじめ用意。それらの箱には印をつけておき、抜き打ち検査があると、これをサンプルとして提出していたという。

このような業者にとっては日々の利益がすべてであり、ブランドや長期的な信用という、目に見えない資産に対する意識は希薄だ。

もし摘発されても、名前を変えて別の場所で商売をやり直せばいいという逃げ足の速さがある。つまり、不正による利益が、摘発された時のリスクを大きく上回ってしまう。

ヤマモモの卸売量は激減

この一部業者による不正行為は業界全体への消費者の不信を生んだ。

この事件を受け、現在、上海の卸売市場で取り引きされるヤマモモは、産地を問わず、すべてロットごとの検査を受けなければならない。合格したものは取り引きを許可され、不合格のものはその場で廃棄される。

このような厳戒態勢がとられているにもかかわらず、現在、ヤマモモの卸売量は激減している。ヤマモモは非常に季節性の高い農作物であり、農家の年間収入はこの収穫期にかかっている。

しかし、薬漬け事件の発覚後、一部の卸売業者は福建省のヤマモモに対して一律に取引禁止という規制を設けたため、健全な経営をしている農家まで巻き添えを食らう形となっている。

現在、福建省のヤマモモは取り引きをしても値が付かず、生産者は損をしてでも売らなければならない状況に陥っている。実際、ネットスーパーでは現在販売されているヤマモモの産地は大半が「雲南省」と表記されており、福建省産のヤマモモは姿を消している。

異臭騒ぎ起きるまで大腸菌を放置

こうした食品安全問題はなぜ発生し、中国の消費者の食の安全に対する警戒感が続くのか。それは中国の消費者が業界側の「一部の問題」という主張を全く信用していないからだ。

中国の消費者は「メラミン入りミルク事件」など、一部の例外と説明されていた不正が、実は業界全体の公然の秘密だったという経験を何度もしてきた。

同様な事例は去年にも発生した。浙江省・杭州市で水道水から強烈な異臭がするとの住民からの訴えが相次いだのである。当時、事態の深刻さを受け、当局が介入、対応を実施した。

調査の結果、事件発生の半月前には、浄水場の取水口から基準値を超える大腸菌が検出されていたことが分かった。数キロ上流の水質は正常値だったため、この区間に汚染源があることは素人目にも明白だった。

しかし、現場の管理部門はこの情報をつかみながらも、大規模な異臭騒ぎが起きるまで完全に放置していたのである。

当局は、事件発生後すぐに「水質は回復した」「水道代を免除する」という幕引きを急いだ。しかしプロセスに問題があるにもかかわらず、その再発防止については十分な説明がなかった。

信用していない消費者

なぜ再発防止が行われにくいのか、これは再発防止の本質にある。再発防止は往々にして自らの弱点やシステムの欠陥を公に認めることにつながる。

しかし中国の地方政府にとって、食品安全やインフラの構造的欠陥が長期間存在していたと認めることは、自身の評価に傷をつける行為になりかねない。そのため、突っ込んだ責任追及や構造改革はタブー視されやすいという事情がある。

今回の事件でも、複数の業者が口裏を合わせ、検査逃れ用のサンプルをあらかじめ用意していたことが暴露された。プロセスに問題があったことは明白である。そして、今回も業界団体から「大半は安全」「今後は厳しく取り締まる」という報告が迅速に行われた。

しかし消費者はそれを信用していない。彼らは業者とプロセスにこそ問題があること、そして、これらの問題は容易に解決されないことを熟知しているのである。

結果として、消費者側には以下のような心理が定着している。

「あの業者は捕まったが、業界の仕組みは何も変わっていない」

「だから、私はこれからも一切を信用せず、自分でリスクを回避し続けるしかない」

これが、いつまでも食の問題が残り続ける中国の普遍的な価値観である。

文/下川英馬 内外タイムス

ネットスーパーで売られている雲南省産のヤマモモ