
「妻からのDV被害相談をしている最中で、子どもたちも妻の児童虐待で児童相談所から調査が入っていた状況にもかかわらず、まったく逆の加害者に仕立て上げられたことに戦慄が走りました」
虚偽DV(ドメスティック・バイオレンス)という言葉をご存じだろうか。
妻が、行政のDV支援措置窓口に虚偽のDV相談をし、子どもを家から一方的に連れ去る。夫を強制的に排除することによって、子どもの親権、監護権を独占し、実績を積み重ね、離婚調停時に争われる親権獲得を有利にする目的だ。
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これにより、夫が子どもと会えなくなるケースが社会問題になっている。いわゆる実子誘拐問題である。最近は妻と夫の逆のパターンも急増している。
受理された場合、妻の住民票や戸籍の附票の閲覧制限がなされる。子どもの居場所も分からなくなり、交流が完全に遮断される。
問題は、緊急性を重視するが故、証拠がないまま虚偽の申請が受理されるケースが多々あることだ。こうして虚偽DV被害者が生まれる。
長男と長女を連れて一方的に別居
この虚偽DV問題に一石を投じる和解が昨年あったことが、先日明らかになった。
当事者の男性は神奈川県在住の50代男性。2016年、妻から夫や子どもへの暴力がひどくなり、妻へカウンセリングをすすめていたところ、当時5歳の長男と1歳の長女を連れ去り、一方的に別居を開始した。
妻は実家の佐賀県白石町の近くで生活し始め、白石町に対し、夫から精神的な暴力を受けたとの虚偽の相談をし、DV支援措置申請が受理され、妻子の居所秘匿措置が講じられた。
その後、面会交流調停により、月1回2時間だけ子どもたちと会える機会を得、そしてさらに、父子関係が良好であるため、交流時間延長を求める面会交流調停を申し立てたところ、2021年10月に、宿泊を伴う面会交流を認める審判が出されることとなった。
その際、裁判所は、夫からの「自分はDV加害者じゃないから妻子の住所を秘匿する必要はない」との主張に応え、審判書にあえて、妻の住民票上の住所を記載した。
夫は、裁判所の審判書上からも夫が妻の住所を把握しており、支援措置の必要がないことが明らかであるため、2021年10月以降、支援措置を撤回するよう白石町に求めたが、それでも白石町は延々と支援措置を認め続けた。
これに対して夫は、妻が支援措置制度を悪用して、自分を加害者扱いし名誉侵害や親権侵害をされているとのことで、白石町と妻に対し、2022年3月、損害賠償の裁判を提起した。
行政が警察の意見を知りながら支援措置を延長
訴訟の中で、妻の警察への相談の内容は、具体的なDV被害ではなく、「夫が家に来たら嫌だ」「夫が学校行事等に参加して、子が夫になつくのが嫌だから住所を隠して欲しい」と言っていたこと、警察の意見も、当初は「支援相当」となっていたが、2019年10月以降は「支援相当」との意見を出していなかったことが発覚。
白石町は、警察が「支援相当」の意見を出していないことを知りながらも、妻の要望通り、支援措置を実施するため、2021年10月以降(夫が白石町に支援措置に対する苦情を申し入れて以降)、妻に対し、女性相談センターに相談に行かせた。
そこで、「暴力相談証明」を取得させ、警察の意見と矛盾する女性相談センターの意見を前提として、支援措置の延長を行っていたことが発覚した。
白石町は、訴訟係属中の2022年10月も、同様の方法で支援措置を延長していたが、2023年10月には、支援措置を延長しなかった。
そして、最終的に、白石町は、2025年3月に夫と和解することになり、2019年10月以降、警察の意見が「支援相当」とされていないのに、支援措置を実施して、夫を加害者扱いすることにより、夫の名誉感情を侵害したこと、夫の子に対する親権行使を困難にしたことを認め、陳謝ないし遺憾の意を表した。
裁判は長期に渡ったが、男性は諦めず続けられた理由としてこう語る。
「冤罪は諦めたときに嘘が真実として存在してしまうので、ただひたすら真実を丁寧に伝えることを繰り返すだけです。勝ち取ったとも思っていません。人間の尊厳を守り、虐待されている子ども達を救いたい一心です」
白石町との和解成立後も、妻は、夫から精神的DVを受けていたと主張し、自らの責任を否定し続けていたが、裁判官から、和解を勧められ、和解に応じることに。
妻は、「夫から、身体的DVだけでなく精神的DVも受けていなかったこと」を明確に認め、DV被害者ではないのに支援措置を利用し、夫の名誉を侵害したこと 、夫が行政から子の情報に接するのを困難にし、親権行使及び親子交流を妨害したことを認めて陳謝した。
通常、虚偽DVを証明するのは悪魔の証明といわれており、立証するのが極めて困難で、このように「身体的DVだけでなく精神的DVもなかったのに、支援措置が使われていたこと」が明らかになった事例は非常にまれなケースである。
男性の執念と子どもへの愛情が実を結んだかたちだ。
多くの親が泣き寝入りしているのが現状
被害者の男性は冤罪が晴れるのに10年近い歳月と多額の費用を費やした。しかしながら親としての一番の生きがいであるはずの、子どもの成長を見守る、というかけがえのない時間は決して戻っては来ない。
なぜ虚偽DVはなくならないのか。被害者の男性は「DV保護法があるにも関わらず敢えて行政の支援措置を継続して利用することは、行政手続きの不備を悪用して離婚裁判で親権監護権獲得に有利に進めるためのテクニックとして弁護士が教唆しているのも問題ですが、問題の本質は『人権の制限』を『自治体が裁判無しで行っている』ことにあると思います」と話す。
また、法治国家としての根幹に疑問を呈した。
「行政が『制限したい』と意思表示し、その意思が『法律上適正』か、裁判官が審査して初めて『人権の制限』ができるのが法治国家であるのですが、裁判所よりも強い権限を行政が実質持っていることになっているのが大きな問題であると思います」
本件事件の原告側代理人弁護士の梅村真紀氏は、以下のようなコメントを述べている。
「DV被害者の保護や、緊急性の高い事案における支援措置の重要性は言うまでもありません。しかし、そこに『子ども』が関わる場合、運用のあり方は極めて慎重であるべきです。
2026年4月の民法改正により離婚後共同親権制度がスタートしましたが、子どもの居所は適切な養育・監護を行うための大前提です。居所すら分からない状態では、進学をはじめとする子どもの将来に関する重要な決定に関わることができず、共同親権そのものが有名無実化しかねません。
本事案のように制度が不当に利用されれば、身に覚えのないまま加害者扱いされた親の名誉だけでなく、子どもが親から愛され、双方の手で育まれる権利までもが奪われてしまいます 。今回の和解事例は氷山の一角に過ぎず 、実際には多くの親が泣き寝入りし、その陰で子どもたちが犠牲になっているのが現状ではないでしょうか。
子どもが両親から正当に養育される機会を保障するためにも、政府や関係機関には、支援措置が不当な目的で悪用されないための実効性ある対策と是正を強く求めます」
一刻も早く連れ去りや虚偽DVで苦しめられている他の人々や、突然一方の親を失い苦しんでいる子どもたちの為にも、身勝手な親によるこのような事件が起こることがないことを祈るばかりだ。
また、妻側の弁護士に本件訴訟に関して現状の認識について質問状を送ったが、期日までに回答はなかった。
文/神田桂一 内外タイムス



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