
孫にお小遣いやプレゼントを渡すことは、多くの祖父母にとって喜びの一つです。喜ぶ顔を見れば、つい財布のひもが緩むこともあるでしょう。しかし、それが習慣化すると、年金生活の家計を圧迫することがあります。かわいさから始まった支出が、いつの間にか負担に変わってしまうケースも少なくありません。
「おばあちゃん、今月も」…喜びだった来訪が負担に変わるまで
恵子さん(仮名・71歳)は、夫を亡くしてから一人暮らしを続けています。年金は月20万円ほど、貯蓄は約1,400万円。持ち家のため家賃はありませんが、固定資産税や医療費、家の修繕費を考えると、決して使い放題というわけではありませんでした。
楽しみは、近くに住む娘家族が遊びに来ることです。高校生の孫と中学生の孫がいて、幼い頃から恵子さんによくなついていました。以前は、休日に一緒に食事をしたり、誕生日に少し高いプレゼントを買ったりする程度でした。
「孫が喜ぶなら、それくらいはいいかな」
恵子さんはそう思っていました。
変化が出始めたのは、上の孫が高校に入ってからです。友人との外出や部活動の費用が増えたこともあり、娘から「少しだけ助けてもらえないかな」と相談されるようになりました。
最初は、部活動の道具代として1万円。次は模試代や参考書代として5,000円。その後、孫が直接「おばあちゃん、今月ちょっと足りなくて」と言うようになりました。
「何に使うの?」
恵子さんが聞くと、孫は少し気まずそうに笑いました。
「友だちと出かけるの。みんな行くから」
その言葉を聞くと、断るのがかわいそうに思えました。自分のせいで孫だけが友だち付き合いから外れるのではないか。そう考えると、つい財布を開いてしまいます。
やがて、孫が来る日は「お小遣いの日」のようになっていきました。玄関で顔を見るとうれしいはずなのに、恵子さんは心のどこかで身構えるようになります。
「またお小遣いの日か……」
そう思った自分に、恵子さんは驚きました。孫を嫌になったわけではありません。ただ、来訪のたびにお金の話になることが、少しずつ重荷になっていたのです。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得約11.8万円に対し、消費支出は約14.8万円で、平均では毎月約3万円の不足が生じています。
恵子さんは、孫が来る前に通帳を確認するようになりました。今月はいくら引き出したか、固定資産税の支払いはいつか、次の通院費はいくらか。以前は楽しみだった来訪の前に、残高を見てため息をつく自分がいました。
「これまで断れなかったけど…」家族で決めた新しい線引き
下の孫の誕生日のこと。娘から「今年はスマートフォンを買い替えたいみたいで」と相談され、恵子さんは費用の一部として5万円を出しました。その翌週、上の孫からも修学旅行の小遣いを頼まれます。
「おばあちゃんなら分かってくれると思って」
そう言われたとき、恵子さんは返事に詰まりました。分かってあげたい気持ちはあります。しかし、その月の支出はすでに大きく膨らんでいました。
夜、通帳を開いた恵子さんは、貯蓄が思っていたより早く減っていることに気づきます。1,400万円という数字は安心材料でしたが、毎月少しずつ取り崩し、孫への支出が重なれば、将来の医療費や介護費に不安が残ります。
厚生労働省の介護保険制度では、介護が必要になった場合、要介護認定を受けて介護サービスを利用できますが、自己負担や施設費、日用品費などが発生します。元気なうちには見えにくい支出も、高齢期には急に必要になることがあります。
恵子さんは、娘に話すことを決めました。
「孫たちがかわいいのは変わらない。でも、これからは毎回お金を渡すのはやめたいの」
「喜ぶ顔を見ると、断れなかったけど…」
恵子さんの言葉に、娘は申し訳なさそうにうつむきました。娘自身も、母が出してくれることに甘えていたと認めました。
その後、家族で話し合い、孫へのお小遣いは誕生日とお正月だけにすることにしました。部活動や進学に関わる大きな費用は、まず親である娘夫婦が負担し、どうしても必要な場合だけ事前に相談する。遊びのためのお金は、孫自身の小遣いやアルバイトで考える。そう決めたのです。
最初は少し気まずさもありましたが、恵子さんは以前より落ち着いて孫を迎えられるようになりました。お金を渡すことではなく、一緒に食事をすること、学校の話を聞くこと、成長を見守ることに気持ちを向けられるようになったからです。
孫への支援は、祖父母にとって喜びでもあります。しかし、年金生活のなかで無理を続ければ、自分の老後を支えるお金まで削ってしまいます。大切なのは、すべてを断つことではなく、できる範囲を家族で共有することです。
恵子さんは今も、孫が来る日を楽しみにしています。ただし、もう通帳を開いて身構えることはありません。
「お金を渡さなくても、おばあちゃんでいられるんですね」
そう笑う恵子さんの表情は、以前より少し穏やかでした。



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