最近、SNSやネットニュースで「ダークパターン」という言葉をよく見るようになりました。ダークパターンは、消費者が気付かないうちに不利な判断や意思決定をしてしまうように誘導するデザインのこと。Webサイトやアプリなどにみられます。

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 ユーザーをだますWebデザインは、20年以上前からありました。例えばリンクを1回クリックしただけで入会処理が完了し、高額な料金を請求される「ワンクリック詐欺」の手口などが有名です。

 また2000年代は多くのWebサイトやサービスが登場する時代でした。そんな中、事業者が意図して、あるいは意図せずとも消費者に不利益をもたらすデザインが大量に生まれます。それらを類型化し「ダークパターン」という概念で世の中に警鐘を鳴らしたのが、英国のUXデザイナー、ハリー・ブリヌル氏でした。2010年のことです。

 ブリヌル氏は、ダークパターンを「偽装広告」や「比較防止」など16に類型化しました。類型を読むだけでなんとなく内容が想像できるように、類型を整えることは、ダークパターンの調査や摘発、利用者への注意喚起など、さまざまな面でメリットがあります。

 そのため、ダークパターンという言葉が広がると、OECD(経済協力開発機構)やFTC(米国の連邦取引委員会)、欧州委員会など、国際機関や国家機関が市場や時勢に合わせて類型化や再定義を行い、多くの分類が生まれました。中でもOECDが提唱する7つの大分類と24類型は、日本の省庁も引用することが多いです。

●なぜダークパターンが生まれるのか

 ダークパターンを使うのが、ワンクリック詐欺のような人を騙そうとする、もともと悪意を持った業者なら分かります。でもそれだけではありません。ときには世界的な大企業も手を染めます。

 例えば、米Microsoftは23年ごろ、ユーザーにWindows 11へのアップグレードを促す際に強引なUI(ユーザーインタフェース)を作り、ダークパターンではないかと批判されました(Microsoftは公式に認めてはいません)。

 当時、SNSで見た画面の中で記憶に残っているのが、Windows 11のダウンロードを促すウィンドウに並んだ2つのボタン。片方が「ダウンロード」、もう片方が「スケジュールする」でした。

 要は「する」か「後でする」の二択を迫る画面です。初めて見た時は思わず笑ってしまったのですが、世の中には仕事の都合などでアップグレードできない人もたくさんいたので実際はすごく迷惑。あの画像が本物であれば、確かにダークパターンと言われても仕方ありません。

 このように、企業内で手っ取り早く数字を盛りたい、実績を上げたいという思惑が先行しすぎた時、現場の人間が頭を使った結果として、消費者にとってダークなユーザーインタフェースができてしまうのかもしれません。実はこうした状況はOECDの報告書の中でも触れられていて「設計者は、倫理的に行動しようと感じることが多いが、商業的な圧力により倫理的に行動する能力が制限されていたり、プライバシーなどに関する消費者の決断に影響を与える自己の能力を完全に理解していなかったりする場合がある」と指摘しています(出典:OECDのDark commercial patterns)。

 筆者も長らくWeb媒体の編集部に身を置いている人間なので、ぶっちゃけ心当たりはあります。例えば広告企画のアンケートでクライアントにとって都合の……もといクライアントに気持ちよく報告できる結果を出すにはどうしたらいいかとデザイナーと一緒に頭を悩ませ、A/Bテストなどを繰り返すうち、なんだか恣意(しい)的な内容になってしまい、止めたことがあります。……止めましたよ?

 外部の協力者がそそのかすケースもあります。

 日本でダークパターン対策として事業者向けに「NDD認定制度」を推進するダークパターン対策協会の小川晋平代表理事(IIJ)は、政府の資料の中で「ダークパターンが短期的な売上増を狙った“誤った勝ちパターン”としてWeb制作会社の現場で広まっている実態があります」と指摘しています。「事業者が、こうした提案を受け、ダークパターンを自社のWebサイト等に十分な検討を経ずに採用した結果、悪意なく消費者被害を生じさせている例も散見されます」(出典:令和7年度消費者政策の実施の状況)。

 “誤った勝ちパターン”を共有し、実践する人達は半ば確信犯でしょう。短期的な数字は上がるので、自分達の評価も上がります。ダークパターンを使った企業に対する世間の評価は下がっても、外部業者であれば責任は回避できます。

 企業倫理やコンプライアンスを重視する事業者はダークパターンは避けようとしますが、例えば現場の人が上司から「数字を上げろ」とすごいプレッシャーをかけられていたりすれば、外部から持ちかけられた“誤った勝ちパターン”に乗ってしまうかもしれません。この場合、上司や経営陣が現場の実情やダークパターンがもたらすリスクを把握できていないことも問題です。

 ダークパターンは短期間で売上やコンバージョン(成約率)を押し上げます。しかし、それは長続きしません。中長期的にはブランドの信頼を失う大きなビジネス上のリスクになります。ダークパターン対策協会では「ダークパターンの使用はSNS等での悪評拡散という重大なリスクを伴う」と警告しています。

 事業者の中には「たかがSNS」と思う人もいるかもしれません。しかし現在は、SNSで悪評が広まるとインフルエンサーやネットメディアによる追求と拡散が始まります。もしダークパターンをやりすぎて景品表示法や特定商取引法に違反する行為などが見つかれば、監督省庁から指導や業務改善命令を受けることも考えられます。すると今度はマスコミにも大々的に取り上げられ、信用の毀損は決定的に。回復するのにどれだけの時間とコストが掛かるか分かりません。

 企業は利益を求めるものですが、それを提供する先は消費者です。消費者を軽視し、ダークパターンに手を染めれば、いずれ自身の首を絞めると肝に銘じておきたいものです。

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