「年金月20万円」と聞くと、老後の生活に困らない十分な金額だと感じる人もいるかもしれません。しかし、家族との関係性や貯蓄状況によっては、月20万円の年金をもらっていても決して安泰ではないのです。月20万円の年金と月5万円のアルバイト代で暮らす隆一さん(仮名・75歳)の事例を見ていきましょう。

うらやましいなんて言えるのは、何も知らないからだ…75歳・元エリートサラリーマンの孤独

中国地方に暮らす隆一さん(仮名・75歳)は、大手企業を65歳で定年退職し、現在は年金とアルバイトで生計を立てています。隆一さんの年金は額面で月20万円。アルバイトの収入は月5万円ほどです。

ある日、隆一さんがスーパーで買い物をしていると、中学時代の同級生・辰俊さん(仮名)にバッタリ遭遇しました。30年前の同窓会ぶりの再会に、時間を忘れて立ち話に花が咲きます。辰俊さんは現在、娘さん家族と一緒に暮らしているとのこと。4歳と8歳の孫がおり、もうすぐ8歳の孫の誕生日なのだそうです。

「孫の誕生日にさ、3万円のゲーム機をねだられちゃったんだよ。少ない年金で生活してるのに3万円も飛んでいくのは厳しいよなあ」

辰俊さんのぼやきに、隆一さんは共感を示します。すると、辰俊さんにこんなことを言われたのです。

「隆ちゃんは大手に勤めてたんだし、年金たくさんもらってるだろ? オレなんか毎日カツカツだよ。持ち家があるし、娘家族もいるからなんとかなってるけど。隆ちゃんがうらやましいよ」

その言葉を聞いて、隆一さんは思わず顔を引きつらせました。苦笑いを浮かべながら「そんなことないけどね」と否定するので精いっぱいでした。辰俊さんと別れてからも、しばらくモヤモヤした気持ちが消えません。独身の隆一さんにとって、近くに頼れる家族がいない不安は月20万の年金で拭いきれるものではないのです。

「僕からすれば、一緒に住んでる家族がいるほうがうらやましいよ……」

80歳になったら有料老人ホームに…入居費用のためにアルバイトを続ける日々

奥さんに先立たれ、一軒家で独り暮らしをする隆一さんにとって、何かあったときに頼れる人はいません。遠方に長男が暮らしていますが、ここ数年はほとんど会えていませんでした。また、長女は海外で暮らしており、仕事と子育てでかなり忙しい様子です。

貯金は人並みにしてきましたが、長男・長女ともに中学から大学まで私立に通わせており、長女の留学費用も全額援助してきました。さらに、長男が家を建てるタイミングで1,500万円を貸しましたが、「毎月少しずつ返す」と言われたきり、まだ1円も返ってきていません。そのため、月20万の年金、そして月5万円のアルバイト代があっても、隆一さんはこれからの生活に焦りを感じていたのです。

「孤独死だけは避けたい。80歳を過ぎて要介護認定が下りなかったら、自立した状態でも入れる有料老人ホームに行こう」。そのような思いから、隆一さんは年金の受給開始とともにアルバイトを始めたのです。

要支援や要介護の認定を受けた場合、特別養護老人ホームやグループホームへの入居条件を満たしていれば、入居費用を低額に抑えることができます。

特別養護老人ホームの入居条件は、65歳以上かつ「要介護3以上」の認定を受けていることが原則です。グループホームに入居するためには、原則として65歳以上かつ「要支援2または要介護1~5」の認定を受けていることに加え、「医師から認知症と診断されている」「施設と同じ市区町村に住民票がある」という条件を満たす必要があります。

しかし、自立した生活ができる場合は有料老人ホームをはじめとする民間施設を検討せざるを得ず、入居一時金や月額の入居費用が高額になってしまいます。

厚生労働省 老健局「有料老人ホームの現状と課題・論点について」によると、有料老人ホームの利用者数は67万3,689件で、高齢者向け施設・住まいのなかで最多です。平成12年(2000年)から令和6年(2024年)の24年間で、利用者数は10倍以上増えています。増加率についても、すべての高齢者向け施設・住まいのなかでトップです。

「介護は必要ないけれど、誰かに見守られながら安心して生活したい」。そのように考えているのは、隆一さんだけではないようです。有料老人ホームの入居費用を捻出するべく、隆一さんは明日もアルバイトに向かいます。

※40歳~64歳の型でも、特定疾病が認められれば入居可能です。

選択肢は有料老人ホームだけじゃない。まずは最寄りの地域包括支援センターに相談を

隆一さんのように、現役時代から毎月コツコツ貯金をしていたとしても、「子どもが私立の学校に行くことになった」「子どものために立て替えた新築費用が返済されていない」といった人生の波が重なると、老後資金は予想以上に心もとないものになってしまいます。

有料老人ホームへの入居は一つの選択肢ではありますが、資金に余裕がない状態であれば、有料老人ホーム以外の選択肢に目を向けてみるのもよいでしょう。自治体によっては、一人暮らしの高齢者向けに日常生活の見守りを行っていることがあります。地域包括支援センターに相談し、どのような見守り支援を受けられるのかを確認するのが確実です。

今ある資金のなかで、どのような支援を受けられるのか。そのような視点で老後の計画を立ててみると、意外にも多くの選択肢があることに気づけるかもしれません。

(※写真はイメージです/PIXTA)