
インディーアニメ出身のクリエイターが中心となって、2026年1月に立ち上げられたアニメスタジオ「bees inc.」。
KAI-YOUでは年間を通じて、この神奈川県藤沢市・片瀬江ノ島にオフィスを構える新鋭スタジオに密着。その足取りを掲載していく。
連載第1回は、bees副代表をつとめるクリエイター・のをかさんが設立やシーンへの思いを語った。今回第2回では代表をつとめるYAMAAD(ヤマダ)さんが、経営者の目線からbeesの組織やビジネスに対する考え方を紹介する。
文:YAMAAD(bees inc.) 編集:恩田雄多(KAI-YOU) 写真:bees inc.
事務所から徒歩数十秒で海──新興アニメスタジオ・beesbees代表のYAMAADです。音楽/映像制作のクリエイターとしても活動しています。
これまでの主な仕事として、ホロライブのVTuber・常闇トワさんの楽曲「My Abyss」の作詞/作曲/編曲、Adoさんの楽曲「ビバリウム」MVのアニメーションプロデューサーなどを担当してきました。
2026年1月、私は副代表のアニメーション作家・のをかを含め、インディーアニメの文化をバックボーンに持つメンバーたちと、アニメーションスタジオ「bees inc.」を設立しました。

スタジオ設立後の仕事としては、TVアニメ『ONE PIECE』エルバフ編のOP映像や星街すいせいさんの「プリマドンナ」のMVなどにbeesのスタッフが参加。ずっと真夜中でいいのに。の「ultra魂」のMVでは、監督をはじめとした制作の大部分を担当しました。
また、アニメ『チェンソーマン』のスマートフォンゲームのOPムービーでは、のをかが演出や絵コンテを担当。今後は商業タイトルへの制作協力なども控えています。
事務所があるのは神奈川県藤沢市の片瀬江ノ島。事務所から徒歩数十秒の国道134号線を越えると、新江ノ島水族館や片瀬西浜・鵠沼海水浴場などがあって、その先はもう海です。
前回の記事ではbees副代表・のをかが、インディーアニメ出身のクリエイターが中心であるbeesが生まれた文化的な背景を紹介しました。
今回は、私の視点からアニメスタジオ・beesを立ち上げた理由や制作体制、経営者という視点でビジネスや組織に対する考え方の話をしていきます。
なぜ会社として「bees」をつくったのか海の近くにスタジオがあって、クリエイターが集まり、制作して、また次の日も制作する。そんな場所から文化が生まれるんじゃないか──正直に言うと「なんだか面白そうだな」という感覚が、事務所をつくる理由のひとつでした。
とはいえ、一番明確かつ大きな理由は「良い作品をつくるための環境を整えたい」と思ったからです。

私自身、もともとは音楽や映像の制作に関わるフリーランスのクリエイターとして活動してきました。作品をつくること自体はとても楽しい仕事ですが、その一方で制作の外側にある問題にも何度も直面します。
制作費、スケジュール、契約書類──複数の企業や人間が関わる作品制作において重要な部分です。しかし実際の現場では、それらを責任を持って管理/整理する人が誰もいないという場面も少なくありませんでした。
クリエイターが安心して制作に集中するためには、そうした環境を整える役割が必要だと思うようになりました。
bees設立前、アニメーション監督・のをかと作品をつくる中でも、その感覚はより強くなっていきます。インディーアニメや自主制作アニメといった個人制作の文化を背景に持ったクリエイターが、チームで作品をつくる際には、どうしても体制の問題が見えてきます。
個人制作を起点としたチームが大きくなる中での問題点たとえば、制作中にクライアントからの要望へ対応していくうちに、気づけば想定していた予算を大きく超えてしまっていたことがあります。
アニメーション制作では、着手時点で最終的な動画の制作枚数や工数を正確に見積もることが難しく、実際につくりはじめてみたら予算が足りなかった、ということも起こり得ます。

また、監督自身も制作に没頭しているため、スケジュール全体を管理する人が別にいないと、外部スタッフへの発注やデータの回収がいつの間にか遅れてしまうこともあります。作品づくりに集中することと、プロジェクト全体を管理することは、本来別の能力が求められる仕事です。
さらにアニメーション制作は、作品の規模が大きくなるほど関わる人数も増加。制作が終わった後も、発注書や請求書の整理、スタッフごとの精算など、多くの事務処理が発生します。作品を完成させることだけでも大変ですが、その裏側には膨大な管理業務が存在しています。
もちろん、こうした課題は誰か一人の問題ではありません。個人制作を起点としたチームが大きくなっていく過程で、自然と発生するものだと思っています。

そこで、作品を制作するチームとしての基盤をきちんと組織しようと考えました。
結果的に私は代表という立場ですが、感覚としては経営者というより、制作の環境を整えるプロデューサーに近いのかもしれません(あとはご飯をつくってスタッフに振る舞っています)。クリエイターが安心して制作に集中できる環境をつくる──その延長線に、今のbeesがあります。
Discordからはじまったチーム制作ここまでで、beesは設立前からスタジオを拠点とするような制作体制を標榜していたように見えるかもしれません。しかし、beesの制作の多くは最近までオンラインで進んでいました。
その中心にあったのがDiscordです。
案件ごとにサーバーを立て、スタッフが集まり、素材やスケジュールが流れていく。制作の相談も、雑談も、基本的にはDiscordにあります。仕事用のサーバーではありますが、どこかコミュニティのような雰囲気なので、誰でも発言しやすい空気があります。
アニメ制作の現場としては少し珍しい形かもしれませんが、私たちにとってはかなり合理的な方法でした。スタッフとの物理的な距離が離れていてもチームが機能しますし、作品ごとに最適なメンバーを集めることもできます。
ただ、チームが少しずつ大きくなるにつれて、オンラインだけでは足りない瞬間も増えてきました。

たとえば、作品の方向性を詰める会議や、作画や映像の細かなニュアンスを確認する場面。同じ空間に集まり、同じ画面を見ながら議論することでしか生まれないアイデアもあります。
そこで、Discord中心の制作体制に「場所」を加えることにしました。それが江ノ島の事務所です。
Discordとスタジオの両方でアニメをつくる今回の事務所設立は、制作の中心をオンラインからスタジオへ完全移行するものではありません。 むしろ、Discordで動いていたチームに新しい拠点をひとつ加えるようなイメージに近いです。
普段の制作はオンラインで進めながら、必要なタイミングでスタジオに集まり、議論したり作業したりする。そんな形で運用しています。
事務所には作業スペースのほかに、会議ができる部屋や、仮眠できるスペースもあります。長い制作の合間に少し休んだり、夜遅くまで議論したり、文字通り制作のための物理的な空間として機能しています。


制作の合間に、簡単なご飯をつくることもあります。余談ですが、ご飯は私がつくる場面も多く、これまでにローストビーフやカレーなどをつくってきました(この二つは特に大人気でよくつくります)。
大げさな話ではありませんが、同じ場所で食事をする時間は、チームの空気をつくるうえで意外と大事なものだと感じています。 Discordが制作を回すための基盤だとすれば、事務所はチームの文化を育てる場所なのかもしれません。
文化祭のような現場、でもビジネスはシビアここまでの内容から「beesは文化祭のノリみたいだな」と思った人がいるかもしれません。実際にそう言われることもあります(批判などではなく)。
個人的には実情もわりと近いと思います。Discordでは雑談が活発で、誰かが思いついたアイデアが、そのまま作品に反映されることもあります。自由に発言できる空気は、クリエイティブな仕事にとってとても重要です。
ただ、その空気を成立させるためには、裏側で様々な側面をロジカルに設計する必要があります。前提として、クリエイターの仕事は情熱だけでは続きません。制作費、ギャラ、スケジュール、契約──そういった部分が整っていなければ、長く持続的に制作を続けることはできません。
「採算度外視! 面白そうだし情熱一点突破!」みたいなものは一度きりの文化祭だからこそ成立しますが、ビジネスとして継続する上では、お金を含めた環境面を整えることは必須です。
そのため、案件の条件や制作費の設計についてはかなりシビアに見ています。
たとえスタッフが作品に魅力を感じていたとしても、スケジュールや予算の面で無理がある案件はお断りすることがあります。
もちろん、クリエイターとしては「やりたい作品」に出会うこともあります。しかし、無理な条件で受注してしまえば、そのしわ寄せは最終的に現場のスタッフへ向かいます。
短期的には作品に関われたとしても、それによって制作環境が悪化したり、次の仕事につながる体力を失ってしまっては意味がありません。
私たちは一つの作品をつくるだけではなく、チームとして継続的に作品を作り続けることを目指しています。“文化祭のような空気”を守るためにも、ビジネスとしての基盤はきちんと整えておく必要があると思っています。
beesにおける“チーム”のつくり方 副代表のをかによるメンバー紹介組織面でもう一つ強調しておきたい点があります。それは、beesはいわゆる友人同士で立ち上げた会社ではなく、作品制作や仕事の現場を通じて出会ったメンバーが、その延長線上で集まっているという点です。
メンバーそれぞれがすでに制作現場で役割を持っていて、その強みや能力がはっきりしている状態でチームになっているため、組織としての機能も自然と整理されていきました。
「誰が何を担うのか?」が明確であることは、チーム構築においてとても重要です。役割が曖昧なままでは、どうしても判断や責任の所在がぼやけてしまいます。
その点で、beesは「人が集まってから役割を決める」のではなく「役割を持った人たちが集まっている」という構造です。結果として、それぞれの専門性を活かしながら、チームとしての意思決定や制作の流れもスムーズに機能していると感じています。
とはいえ、集まったメンバーは最初から決まっていたわけでなく、のをかや私たちが作品を制作する中で“足りないピース”を探して声をかけていった結果、今のメンバーになっています。
メンバーそれぞれのスカウトの決め手になったものは何か──これに関しては、のをか本人の言葉で紹介した方がいいと思います。彼は、beesのメンバーについて、次のように語っています。
・JDGE
JDGEさん・HuMuu
肩書き:色彩設計/美術設定/背景美術/アニメーター
【“文化祭のような現場”を守るために──新興アニメスタジオ「bees」代表が語る経営論の画像・動画をすべて見る】
これらの役割のほかにも、プロップデザイン、グラフィックデザイン、3DCGなどなど……。あらゆるセクションから作品の力になれる彼を、持て余す現場は存在しない。特にアニメーションをつくる上で、色はとても重要な要素だ。最近は美術監督としても活躍している、真のマルチクリエイターだ。

HuMuu(はむー)さん・my0nruri、ひがしの、絹谷ゆたか
肩書き:アドバイザー/演出/アニメーター
卓越した作画力を持つアニメーターでありながら、ワークフローやチーム運営について常に鋭い意見をくれるbeesのブレインの1人。若くして新人育成に強い関心があり、周囲の原石を見出し磨く彼の試みは、すでに各現場で実りつつある。

my0nruri(ミョンルリ)さん、ひがしのさん、絹谷ゆたかさん・ういう、しまうま、ネコウヤ、わんたん、もふじろ〜。、8root5
肩書き:キャラクターデザイン/作画監督/アニメーター
アニメーションにおけるキャラクターデザインという役職は、イラストやゲームのそれとは少し意味合いが異なる。ゼロからキャラクターを生み出すこともあるが、版権案件の場合はすでにあるキャラクターをアニメの仕様に落とし込みつつ、いい絵に起こす。また動きが成立するデッサンの整合性も必要だ。個性と技術、表現力。いずれも高い水準で両立している方々だ。

ういうさん、しまうまさん、ネコウヤさん、わんたんさん、もふじろ〜。さん、8root5さん・上甲愛士、みずみ
肩書き:アニメーター
減点方式のセクションも多い中で、原画は加点方式だと考えている。現場のアニメーターのレベルは、そのアニメが到達できるクオリティの閾値を決めると言っていい。またアニメーターの中にも、アクション、芝居、原図、絵の良さなどあらゆる武器の種類が存在し、beesのアニメーターは皆各々の光る武器を持ち合わせた、フィルムを上振れさせる優秀な人材だ。

上甲愛士さん、みずみさん・ふな、東洋
肩書き:撮影/CG
あらゆる素材を束ねて一本の映像に仕上げる。全てのセクションからバトンを託され、フィルムの最後を担う。それが撮影だ。プログラミングや3DCGなどの手札の幅も含め、人によって全くやり方が異なるのも面白いセクションだ。確かな技術と手札を持った、信頼できる2人にいつも助けられている。

ふなさん、東洋さん、佐藤さん・G子
肩書き:制作進行、庶務
作品を完成させるのは監督でもアニメーターでもなく、制作進行だ。たくさんのデータが行き交うアニメ現場で全てを管理し、クリエイターがよりクリエイティブに集中するための現場づくりを行う。彼らがいるおかげでbeesの作品が生まれている。

G子さん・猫山桜梨
肩書き:アニメーション作家
この会社自体が文化となっていく未来のため、僕以外の強力な監督も必要と考えた。G子さんとなら、商業アニメ的な路線に近づきつつある僕とはまた別の方向で、あらゆるマテリアルやアプローチを横断してチーム制作の可能性が模索できる。すでにbeesメンバーと素晴らしい作品をいくつも制作しており、襟を正す思いだ。

猫山桜梨さん
肩書き:イラストレーター/キャラクターデザイナー
猫山桜梨さんは、beesがアニメーション事業をはじめる前からYAMAADさんと一緒にお仕事をされていたイラストレーター。いつも高密度な描写で静謐な世界観を構築してくれる。
こうしてそれぞれが役割を持ったメンバーが集まることで、beesのチームは少しずつ形になっていきました。
beesという組織のビジョン 場所を、チームを、持続させることbeesという組織が目指しているものは、シンプルに言うと「チームで作品をつくり続けられる状態」を維持・発展していくことだと思っています。
アニメーション制作は、個人の才能に大きく依存する領域ですが、同時にチームでしか到達できない表現も確実にあります。
ただ、そのチーム制作を持続可能な形で回せているケースは、まだ多くはないと感じています。私たちのバックボーンにあるインディーアニメのシーンでも、作品の完成後にチームは解散、というケースも少なくありません。チームの意向として解散する場合もあれば、やむを得ない事情で解散を決断するケースもあるでしょう。
だからこそ、作品ごとに最適なチームを構築しながら、それを継続的に回せる組織をつくることが重要だと考えています。

beesでは、固定された組織というよりも、作品に応じて中心となるメンバーのポジションを変えてチームを組み替える形を取っています。その一方で、各セクションにおいてディレクションをつかさどるポジションは、社内に持つことも重視しています。
外部の優れたクリエイターと協力しながら、社内にも制作ラインやノウハウを蓄積していく。両方を両立させることが、スタジオとしての強さになると考えています。
また、制作環境の設計という意味では、今後さらに改善していく必要があると思っています。スケジュールの設計や制作フロー、チームの組み方など、まだ試行錯誤している部分も多いです。
ただ、それも含めて「スタジオをつくる」というプロセスだと思っています。
短期的には、より安定してチーム制作が回る状態をつくること。中長期的には、より大きな作品や新しい形式の作品にも挑戦できる体制を整えること。その両方を同時に進めていきたいと考えています。
江ノ島に事務所を構えたのも、その延長線にある選択でした。場所を持つこと、チームを持つこと、そしてそれを持続させること──そのすべてを含めて、beesというスタジオをつくっていきたいと思っています。


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